49 / 60
オマケ
旅路─翡翠の僥倖1
しおりを挟む
その日は、新しい街へと到着したばかりであった。案の定一人行動をして迷った俺リンドウは、気付けば迷路のような路地へと入り込んでしまった。
余計に迷いに迷って、ようやくスキルで迎えを頼めることを思い出した俺は、そこらを飛んでいた鳥を捕まえて皆へと飛ばす。
さて、ここから動くと後で説教が長引くことを俺は経験上知っている。迎えが来るまで暇にはなるが、適当に壁にでも寄りかかって待つ他無いだろう。
願わくば、変に絡んでくるチンピラとかが居なければいいのだが──
「おい、そこのちっこいの」
早速絡まれたわ。誰が小さいだ、クソが。
イラッとしたが表情に出さないよう、声の聞こえた方を振り向く。もし喧嘩なら容赦なく顔面を殴ってやろうと思い、その顔を見た。
見て、体が固まる。
「……え?」
「んなとこに一人で居るとか、誰かに喰われたって知らねぇぞ」
「お、お前…!」
「例えば─オレとかに」
ガツンと、頭を強く殴られた気がした。
──────────
小鳥に案内され、要り組んだ路地を進む。
またしても勝手に彷徨き迷子になったリンドウは、しばらくしてからようやく遣いを送ってきた。どうせまたスキルのことを忘れていたのだろうと、変な輩に絡まれていないことを願いながら早足で進む。
先日、ようやく少しずつであるが俺に対して素直に気持ちを表してくれるようになったリンドウ。今まではこちらからだったスキンシップも、まるでお返しだと言わんばかりに彼方からしてくれるようにもなったのだ。
最近で言うなら、間違えて酒を酔うまで飲みデロデロに甘えてきたのが一番可愛かった。いつだか酔った時は、ポヤポヤとして聞いたことを素直に答えてくれるとそれはそれで可愛いものだったが。いくらか気持ちが通じあえたからだろうか。
そんなことを思い出しながら進んだ先で、ようやく案内係の鳥がある場所で止まり上空を旋回する。それは、何やら迷っているようにも見えた。
着いた場所には、リンドウのような漆黒の髪を持つ旅人風の男が一人。他に人影はなく、勿論リンドウも居なかった。
ゆっくりとこちらを振り返る男は、こちらに気付くとその鮮やかな緑色の瞳をキロリと向ける。瞬間、それはニィと細められた。
その顔付きは、何だか見たことのあるような気がした。
「こぉれはこれは、何処かの国の騎士サマじゃあないですかぁ。こんな路地裏で、何か探しものでも?」
「…人を、探している。ここら辺にいるはずなんだが、知らないか?」
「んー…そうだなぁ。見つかっちまったし、もったいねぇけどこれアンタにやるわ」
ニヤニヤとした表情を隠すことなく、男は笑いを含んだ声で喋る。どうやら俺の正体を知っているようで、何も読めない相手に警戒心が上がっていく。
やるよと投げられたものを咄嗟に受け取れば、それは澄んだ紫色の宝石だった。形は綺麗な球体で、質や形で高価な物だというのは分かる。
が、何故人を探していると言ったらこれを渡されたのか。意味が分からず男を睨めば、男はケタケタと笑った。
「彼奴のこと、アンタら何て呼んでんだっけ?確か…リンドウ、だったか?」
「…!貴様、リンドウを何処へやった!!」
その言葉に思わず剣へと手をかける。男は表情を崩さず、先程投げて寄越した宝石を指して笑う。
「それ」
「………は?」
「だから、それがお探しのリンドウちゃん。正確には、彼奴の右目」
「何を…右目?」
「記念に宝石にして取っとこうかと思ったけど、遺物としてアンタに譲ってやるよ」
残りは後でゆっくり喰うから。
その言葉が耳に届く前に、俺は剣を抜き斬りかかっていた。しかしそれは相手の手甲により難なく防がれ、余裕そうな笑みを向けられる。
「流石副団長サマ。いいねぇ、いいねぇ!やっぱり喧嘩は強ぇ奴とじゃねぇと盛り上がんねぇよなぁ!!」
「今すぐリンドウの居場所を吐け。さもなくば斬る」
「オレ、アンタが気に食わないんで絶対に教えない♡」
「………」
「あっははは!怖い怖い!いやだってさぁ、弟はアンタを認めたらしいけど、オレはまだ一ミリも認めてねぇからな?」
「弟…?まさか、貴様!!」
ニタリと、緑色の瞳が赤色を映した。
「どうも、うちの愚弟達がお世話になったようで。んじゃ、またな」
ガキン、と音を立てて剣が跳ね返される。勢いでよろけ、視線を戻した先には─
─既に、誰の姿もなかった。
「ちょっと騎士サマおちょくって来たわ」
「このブラックペッパーが」
「うるせぇ生意気ソルト。大体、ホントに何でお前あんなとこに居たんだ」
「……………」
「…え?もしかしてまだ方向音痴治ってねぇの…?」
「……悪いか」
「ウケルwwwww」
「しね!!!!!!」
余計に迷いに迷って、ようやくスキルで迎えを頼めることを思い出した俺は、そこらを飛んでいた鳥を捕まえて皆へと飛ばす。
さて、ここから動くと後で説教が長引くことを俺は経験上知っている。迎えが来るまで暇にはなるが、適当に壁にでも寄りかかって待つ他無いだろう。
願わくば、変に絡んでくるチンピラとかが居なければいいのだが──
「おい、そこのちっこいの」
早速絡まれたわ。誰が小さいだ、クソが。
イラッとしたが表情に出さないよう、声の聞こえた方を振り向く。もし喧嘩なら容赦なく顔面を殴ってやろうと思い、その顔を見た。
見て、体が固まる。
「……え?」
「んなとこに一人で居るとか、誰かに喰われたって知らねぇぞ」
「お、お前…!」
「例えば─オレとかに」
ガツンと、頭を強く殴られた気がした。
──────────
小鳥に案内され、要り組んだ路地を進む。
またしても勝手に彷徨き迷子になったリンドウは、しばらくしてからようやく遣いを送ってきた。どうせまたスキルのことを忘れていたのだろうと、変な輩に絡まれていないことを願いながら早足で進む。
先日、ようやく少しずつであるが俺に対して素直に気持ちを表してくれるようになったリンドウ。今まではこちらからだったスキンシップも、まるでお返しだと言わんばかりに彼方からしてくれるようにもなったのだ。
最近で言うなら、間違えて酒を酔うまで飲みデロデロに甘えてきたのが一番可愛かった。いつだか酔った時は、ポヤポヤとして聞いたことを素直に答えてくれるとそれはそれで可愛いものだったが。いくらか気持ちが通じあえたからだろうか。
そんなことを思い出しながら進んだ先で、ようやく案内係の鳥がある場所で止まり上空を旋回する。それは、何やら迷っているようにも見えた。
着いた場所には、リンドウのような漆黒の髪を持つ旅人風の男が一人。他に人影はなく、勿論リンドウも居なかった。
ゆっくりとこちらを振り返る男は、こちらに気付くとその鮮やかな緑色の瞳をキロリと向ける。瞬間、それはニィと細められた。
その顔付きは、何だか見たことのあるような気がした。
「こぉれはこれは、何処かの国の騎士サマじゃあないですかぁ。こんな路地裏で、何か探しものでも?」
「…人を、探している。ここら辺にいるはずなんだが、知らないか?」
「んー…そうだなぁ。見つかっちまったし、もったいねぇけどこれアンタにやるわ」
ニヤニヤとした表情を隠すことなく、男は笑いを含んだ声で喋る。どうやら俺の正体を知っているようで、何も読めない相手に警戒心が上がっていく。
やるよと投げられたものを咄嗟に受け取れば、それは澄んだ紫色の宝石だった。形は綺麗な球体で、質や形で高価な物だというのは分かる。
が、何故人を探していると言ったらこれを渡されたのか。意味が分からず男を睨めば、男はケタケタと笑った。
「彼奴のこと、アンタら何て呼んでんだっけ?確か…リンドウ、だったか?」
「…!貴様、リンドウを何処へやった!!」
その言葉に思わず剣へと手をかける。男は表情を崩さず、先程投げて寄越した宝石を指して笑う。
「それ」
「………は?」
「だから、それがお探しのリンドウちゃん。正確には、彼奴の右目」
「何を…右目?」
「記念に宝石にして取っとこうかと思ったけど、遺物としてアンタに譲ってやるよ」
残りは後でゆっくり喰うから。
その言葉が耳に届く前に、俺は剣を抜き斬りかかっていた。しかしそれは相手の手甲により難なく防がれ、余裕そうな笑みを向けられる。
「流石副団長サマ。いいねぇ、いいねぇ!やっぱり喧嘩は強ぇ奴とじゃねぇと盛り上がんねぇよなぁ!!」
「今すぐリンドウの居場所を吐け。さもなくば斬る」
「オレ、アンタが気に食わないんで絶対に教えない♡」
「………」
「あっははは!怖い怖い!いやだってさぁ、弟はアンタを認めたらしいけど、オレはまだ一ミリも認めてねぇからな?」
「弟…?まさか、貴様!!」
ニタリと、緑色の瞳が赤色を映した。
「どうも、うちの愚弟達がお世話になったようで。んじゃ、またな」
ガキン、と音を立てて剣が跳ね返される。勢いでよろけ、視線を戻した先には─
─既に、誰の姿もなかった。
「ちょっと騎士サマおちょくって来たわ」
「このブラックペッパーが」
「うるせぇ生意気ソルト。大体、ホントに何でお前あんなとこに居たんだ」
「……………」
「…え?もしかしてまだ方向音痴治ってねぇの…?」
「……悪いか」
「ウケルwwwww」
「しね!!!!!!」
0
お気に入りに追加
1,567
あなたにおすすめの小説
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる