上 下
46 / 60
オマケ

旅路─のんで呑まれて

しおりを挟む
 今日も依頼をこなし、宿屋へと戻り次の日の準備をする。
 現在時刻は夜の十時過ぎ。前のように夜更かし何かしたら翌日の活動に響くため、真面目にそろそろ寝ようかと風呂上がりに水を取りに行った。
 一応部屋は男女で別けており、何やら男部屋の方が騒がしいことに気づく。ラナさんは今部屋に居らず、どうやらそちらに行っているようだ。
 気になって部屋を覗き込む。どうやら俺が風呂に入っている間に酒盛りをしていたらしい。酔いつぶれたみゃーのの姿が見えた。

「…何か楽しそうだな」
「あら、リンドウ。上がったのね」
「リンドウもどうだい?お酒、飲んだことある?」
「酒の入ったチョコは食べたことある」
「果実酒があるわ。これなら口当たりも良いし、初めて飲むのにオススメよ」
「わーい」

 透明なグラスに注がれたアップルグリーンの液体を見つめる。シュワシュワと音がするあたり、どうやら炭酸らしい。やべ、俺炭酸苦手だった。
 強炭酸では無いことを願いながら、一口飲んでみる。しっかり弱炭酸だったので、安心して味わう。
 色から察した通り林檎味だったようで、普通に美味しくすぐに飲み干してしまった。
 おかわりを求めたところで、先程から喋っているのがルーファスさんとラナさんだけなことに気づく。みゃーのはベッドに撃沈しているし、赤目さんが見当たらない─

「リンドウ。ジークならこっち」

 俺が探しているのに気づいたルーファスさんが、指でちょいちょいと隣の床を指す。テーブルで隠れて見えなかったが、床にばったりと倒れ伏している赤茶の長髪が。

「え、死んでる…?」
「生きてる生きてる。ラナと飲み比べ対決をしてね。酒の中身を『オーガ殺し』にすり替えられて見事負けたのさ」
「雑魚ジークなんて、余裕でしたわ」

 ラナさん、悪いやっちゃなぁ…可哀想に。嵌められて負けたのか、赤目さん。オーガ殺しって、鬼殺しみたいなもん?多分、大分強いお酒だったんなろうなぁ…
 意外にラナさんは酒豪らしい。先程からずっと酒をカパカパと飲んでいる。その横でニコニコと同じぐらい飲んでいるルーファスさんも、恐らく酒豪なのだろう。
 うわばみカップルですか。そうですか。夜に二人でお洒落に飲み交わしてください。

 全く酔う気配のない二人を横目に、倒れている赤目さんの横にしゃがみこむ。いつも一括りにしている髪はほどかれており、いつもはピッシリとした服を着ているが今は部屋着なのかラフな格好だ。
 ツンツンと頭をつついてみれば、起きていたのか目が覚めたのか。う…と少し唸った後、気怠そうにゆっくりと顔を上げた。

「…ぅ…ん、りんどうか…?」
「おん。赤目さん、生きてる?」
「りんどう…」
「うん、な─にっ!?」

 酔っているせいか蕩けた瞳と赤らんでいる顔が、一度揺らいでから真っ直ぐにこちらを見る。こてんと首を傾げて名前を呼ぶ赤目さんに、髪をほどいているのが珍しくていじっていれば、手首をグイッと引かれた。
 そのまま赤目さんを押し倒すような形で倒れ込み、手に持っていたグラスが床に転がる。中身を飲み干しといてよかった…
 起き上がろうとするが、がっちり体に腕を回されていて起き上がれない。クソ、ゴリラめ!!身体強化でも抜け出せないのマジでなんでだ!!!

「くっ…ちょっと、赤目さん!離せ!」
「りんど~…」
「あ、甘えた声を出したって、無駄なんだからな…」
「…………しおん」
「み"っ!?お、おおおい、だからって耳元で低い声は…ひゃっ!?」

 ぐぐぐ、と力を入れて引き剥がそうとするがびくともしない赤目さん。あまつさえ、人の首元にすり寄ったかと思えば、耳を甘噛みしてきやがった!!!
 酔ってるからって何しても許されると思うなよ!!!

 …しかし、現在俺が身動きを取れないのも事実で。

「ひぅっ…な、ちょっ、くすぐった……みっ…ら、ラナさーん!!!たす、助け…ああ何か潰れてる!?いつのまに!?あああ赤目さ、耳やめっ…ひっ…」
「おやおやおや。じゃあ、私たちは失礼しようかな。ラナ、歩けるかい?」
「ルーファスさん!?出てかないで助け…」
「キノくんも連れてくね。それじゃあ、おやすみ~」
「アンタ実は酔ってるな!?!?ちょっとまっ」
「シオン、逃げるな」
「急に流暢に喋るな耳を舐めるな酔っぱらい!!ばか!!!!」

 はむはむと噛まれていたかと思えば、ペロリと舐められる。別に耳が弱い訳ではないが、流石に驚いて体が跳ねる。……弱い訳ではない、断じて。
 助けを求めて酒盛りをする二人の方を見れば、いつの間にかラナさんが酔い潰れていた。ルーファスさんは表情こそいつも通りだが、助けてくれるところを無視する辺り多分酔ってる。
 これでわざとだったら絶対三日は口きくもんか。

 ひたすらに身を固めて耐えるが、赤目さんは止まらない。なんならヒートアップしている気すらする。
 今はもう耳から口を離しており、首元に顔を埋めたり髪に指を差し込んで撫でてくる。それが随分くすぐったくて、背筋がゾワッとした。

「んにゃ!?」

 もはや意識を飛ばしたい等と考え始めれば、首が何か暖かいものになぞられる。舐められたと気づいたのは、がりっと噛まれた痛みを感じた時だった。

「な、な、なに、なにして…」
「ふっ…首が真っ赤だぞ、シオン」
「誰のせいだと…!というか、名前…」
「俺の物だという印をきちんとつけねばな…俺に名前を呼ばれるのは嫌か?」
「いつの間に赤目さんのものになったんだ、俺は…別に、嫌って程じゃないけど…なんか、慣れない」
「慣れるまで呼んでやる。シオン、髪が湿っているな。風呂上がりか?シャンプーの匂いがする…」
「っ、嗅ぐな変態!!」

 首元でスーッと息を吸われ、バタバタと暴れる。しかし、勿論そんなことで拘束が外れる訳がなく。なんなら体制が少し変えられ、腕が自分と赤目さんの間に折り畳まれるようになってしまった。
 抵抗らしい抵抗が出来なくなり、赤目さんは人の髪に鼻を寄せてスンスンと匂いを嗅いでいる。デリカシーと言うものを知らないのか、この酔っぱらい。
 最早遠い目でこの酔っぱらいが寝落ちするのを待つ。が、そうは問屋が卸してくれなかった。

「シオン、こっちを向け」
「…やだ」
「…………」
「ちょっ、無理矢理向かすのはひきょ…んむっ」

 ちゅ、と、聞き慣れない音がした。同時に唇に何か柔らかい感覚があり、すぐに離れる。かと思えば、それは連続で繰り返された。
 あまりのことに固まっていれば、それをどう判断したのか。赤目さんは器用に俺を抱えて床から起き上がり、そのままふらふらとベッドへと向かう。
 そこでようやく正気に戻る。

「っと、まてやコラ!?!?何を平然と人を抱えてベッドに直行してやがる!?」
「大丈夫だ、何もしない」
「ついさっきされた事を考えると信用出来ませんが!?」
「ほう?ついさっき、俺はお前に何をしたんだったか」
「…は?」
「言ってみろ。言えたら何もしない」
「……言えなかったら?」
「言えるまで覚え込ませる」
「鬼か貴様は」

 ぽすっとベッドに乗せられる。赤目さんは俺に覆い被さるように乗ってきた。ギシリとベッドが軋む音がする。

「…この部屋ってさ、ベッド三つあるよね…」
「そうだな」
「俺はこっち、赤目さんはあっちで一つ挟んで寝ない?」
「同じベッドでいいだろう?」
「逆に何故それでいいと思ったこの野郎」
「ほら、早く俺が先程何をしたか言ってみろ。言えないのなら、俺は止まらんぞ」
「俺のファーストキスを奪われました」
「少しは恥じらってもいいんじゃないか?それと、責任は取ろう」
「責任はいいのであっちのベッド行ってください」
「…同じ部屋なのは構わないのか?」
「だって、あっちの部屋三人で寝てるだろうし…それとも、赤目さんここで一人で寝る?」

 別にあっちの部屋のソファで寝てもいいんだけど、と言えば赤目さんが倒れ込むようにして俺を押し倒す。腕が重い。
 そのまま足まで絡めるように抱き込まれてしまえば、またしても俺の自由は奪われる。今度は後ろから抱えられているため、余計に赤目さんが人の体に顔を埋めやがる。
 何回くすぐったいって言ったら分かるんだ。くそぅ…

「………と」
「え?なに?」
「…ジークと呼べ。いつまでも適当なあだ名ばかりで呼ぶな」
「えー……嫌だと言ったら?」
「俺が今からお前に何をするかわからないな?」
「そ、そんな脅しには屈しな…ひゃっ!ま、また舐めっ…わ、かった!呼ぶから!!やめ、ん、あぅ…じ、ジーク!」

 またしても首を舐められ、ちう、と吸われる。何をされているか予想が付き、顔が熱くなるのを感じる。いや、顔どころか身体中が熱い。もう一回風呂に行きたい。
 名前を呼べば満足そうに赤目さんが止まる。もはや口から魂を出していれば、後ろから寝息が聞こえてきた。

 こいつ、寝やがった!!!!!

 いや、寝ていいんだけど。せめて、せめて…

「せめて、拘束緩めてから寝ろよ…!!」

 数分後、俺は諦めて人の体温を感じながら寝たのであった。

 翌朝、バッチリ全てを覚えていた赤目さんはその日から開き直ってスキンシップが多くなった。ちなみにラナさんとルーファスさんは記憶が大分あやふやで、みゃーのに至っては何も覚えていなかった。

 ちなみにその翌日の夜、試しに俺も酔うまで飲んでみたところバッチリ記憶は残ったし、正直全て忘れてしまいたい。
 何を仕出かしたかは聞かないでくれ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

処理中です...