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本編

22、ちょっとは遠慮しろ

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 最近、市街地で誘拐事件が多発しているらしい。被害者皆、若い女性…というより少女とも呼べる年のものばかり。
 騎士団総出で捜索するも、見つけられないらしい。なので、丁度戻ってきた勇者たちの手を借りることにしたらしい。そして、その勇者ご本人が俺までも巻き込んだ、と。

「何で反対しなかったんですか」
「いや、物凄く薦めてくるものだから…取り敢えず、話だけでも聞いてもらおうと思ったんだ」

 苦笑いでそう言ったのは、厳つい顔のリーダーさん。その隣には王子と赤目さんもいる。二人とも、何やら雰囲気が怖い。何やら怒っているようだ。
 聞くところによると、囮は騎士団でもやったらしい。しかし変化魔法が見破られているのか、少女の姿で彷徨いても何の収穫もなかったのだとか。
 そのため、背格好が小さめで、ある程度戦える者が必要という話になった。勇者御一行の魔導師なら、変化魔法も見破られないのではないかとの話もあったが、勇者が俺を推しまくるので「背格好も丁度良さそうだし…」と、話だけでもしようという結論に至ったらしい。

 いや、お前ら俺のこと子供扱いしてるくせになに考えてんだ。確かに、騎士の人と毎日稽古でいい勝負してるけど!騎士団副団長ともいい感じに勝負してるけど!!!
 しかも、話を聞く限りあの女魔導師も俺を推したと言うじゃないか。絶対嫌がらせしようとしてる。
 あれだろ?俺が全然成果を出せず、勇者みゃーのに落胆されろと思ってんだろ?
 と言うか、俺はここで男として生活してるってのに、何故そんなに目の敵にするのだろう。間違ってもみゃーのとどうこうなるなんて…まさか、彼奴のドM発言のせいか?犬とか奴隷っつってるあれのせいか?本当勘弁してくれよ!!

 なんとなく原因を察して顔をしかめれば、リーダーさんが申し訳なさそうにする。

「悪いな。話を聞いてくれるだけでいいんだ。無理に受ける必要はない」
「…え、あぁ、いえ。別に囮に関しては構わないんです。ただ、別の悩み事に頭を抱えてまして…」
「貴様は何を考えている!!」
「えっ」

 急に赤目さんが叫んだ。驚いてそちらを見れば、こちらを睨む赤い目と目があった。目付きが悪いとかじゃなく、本気で怒っているらしい。
 よくわからずに首を傾げていれば、王子の方から深いため息が聞こえた。こちらへ近づき、俺の肩に手を置いた王子を振り払いそうになるのを必死で我慢する。

「分かっているのか?これは危険な任務なんだ。捕まったら、何をされるのか分からないんだぞ?」
「危険なことぐらい分かってます。捕まって場所を特定したら、そこを制圧すればいいんでしょう?」
「危険だというのが分からないのか!!」
「分かってますって。囮なんて慣れてるんですよ。こっちだったら魔法あるし、あっちより断然楽。これ以上被害が増える前に、使えるものは使っとくべきですよ、殿下」
「っ……君は…いや、もういい。勝手にすればいい」

 そう言って、部屋から出ていく王子。何か拗ねられたんですが、と他の二人を見やれば、呆れたような怒っているような表情をしていた。

「お前の言い分は間違っちゃいないが…いいのか?囮になんかなって」
「構いませんよ。適役なんでしょう?変化をしなくても丁度よく、尚且つ腕もある程度立つ。多数を相手にするのはなれてます。騎士相手よりよっぽど戦いやすい」

 肩を竦めてそう言えば、困ったように苦笑いをするリーダーさん。

「そうか…俺個人としては止めたいが、騎士団団長としては頼みたい」
「団長!?いくら何でも、リンドウは…」
「成人しているんだろう?だったら、子供扱いして庇護下に置くのは認めない。彼も大人だ。国民を守るため、使えるものは使うべきだ」
「では、彼奴だって…」
「言っとくけど、俺はこの国の国民にカウントしないでね、赤目さん。まだ登録も何もしてないけど、冒険者扱いでよろしく」
「なっ!?」
「では、リンドウ殿。人攫い捕獲の為、囮の依頼を貴殿に頼みたい」
「謹んでお受けいたします」

 正直面倒くさくて仕方がない。別に立派な正義感があるわけでもないし、あのドMと違って危険が好きな訳でもない。いまだに他人に触れられるのは嫌だし、捕まるなんて勘弁してほしい。
 それでも流石に、話を聞いて嫌ですとは言えないよなぁ。子供が捕まってんだもんなぁ。俺が適任っつーなら、断ってまた時間がかかるより、さっさと終わらせた方がいい。
 そう思って受けたんだが…おい、話を持ってきた本人が何でそんな微妙な顔をする。断って良かったのか??上の人間なら、使えるもんは使えよ。そんなんで国守れるか。
 赤目さんは何か拗ねてるし、取り敢えず日程と作戦決めは後日と言うことで俺は退室することにした。

 ドアを開ければ、すぐ横に笑顔のみゃーのが。

 思わずドアを閉める。後ろで二人が怪訝そうにしている雰囲気が感じられるが、条件反射だ。悪く思うな。
 一呼吸置き、もう一度開ける。閉めた。目の前にいた。なに、ホラー映画かなにか?メリーさんかよ。笑顔で近づいてんの地味に怖いから止めてほしい。

「ちょっと、何回閉めるのさ」
「…いや、メリーさん感があって…つい…」
「もしもし僕キノくん。今あなたの目の前にいるの」
「目の前にいるなら電話してくんな」
「囮の件、どうなった?」

 ドアのところで会話するのもなんなので、部屋を出て歩きながら話をすることにした。

「受けたよ。お前が俺の名前出したんだって?」
「流石りんちゃん!キミなら受けてくれると思ったんだぁ。得意だもんね、敵陣に入り込んで内から崩すの」
「どっかの誰かさんのおかげでな。こんのトラブルメーカーめ…ちょっとは俺に遠慮しろよ」
「え、りんちゃんに遠慮とかいる?」
「あぁ、いるな。バッチリいるな。本当、いい加減にしろよ」
「えー?何だかんだ言って、拐われた女の子たちを助けたいくせに!お人好しさんめっ!!」

 蹴りたい、この笑顔。でも蹴ったら悦ばれるだけなので、必死に我慢する。ちくしょう、ドMの対処法をググりたい。スマホが欲しい。あってもここじゃ使えないだろうけど。

 またしてもみゃーのを迎えに来た魔導師さんに、謎の勝ち誇った笑みを向けられた。なので、笑顔でお仕事お受け致しましたと言えば、少し顔をしかめられる。
 生意気なガキめって思ってんだろうな。今回何を考えてるかは分からないが、流石に余計な手出しはしないだろう。作戦に支障がない程度ならしそうだが…

 彼女の存在に不安を覚えつつ、多分また部屋に何かされてんだろうなぁ、と面倒くさい思いで廊下を歩く。
 と言うか、依頼のことラナさんになんて説明しよう……



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