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本編

17.5、洞穴での会話

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 騎士さんを仲間に引き込んだ後、雨が止んだら移動しようという騎士さんに頷き洞穴の中で待機しているのだが、中々雨が止まない。
 止むまでは洞穴から極力出れない(と言うか出たくない)ので、ふわふわの葉っぱにくるまりながら友好を深める暇を潰すために騎士さんと会話をすることにした。

「ところで、なんか騎士さんあれだよね。相談聞いて頭撫でたり、守るって言ったり何か…」
「あ、あぁ…」
「…何か、お父さんみたい」
「………それは、なんというか、あまり嬉しくないな」
「え、あ。そうだな。騎士さんまだ若いからお父さんはないか…じゃあ…」
「………」
「お兄ちゃんみたい!」
「ぐっ…!!…それも、いや…それはそれで……?」
「え、なにどうしたの。胸なんか押さえて。大丈夫?」
「だ、大丈夫だ…」

 本当に大丈夫だろうか?最初の話題からこれって、え、幸先不安なんですが。
 めげずに頑張ってみよう。

「…そう言えば、お前魔法が解けていることに気づいているか?」

 早速めげそう。忘れてた。

「忘れてたって顔だな?」
「はい。念のため言っとくけど、他言無用でお願いします」
「あぁ。分かってる。ただ、あの勇者が知り合いなら、そこから洩れる可能性があるのでは?」
「いや、ないね。むしろ、嬉々として俺の性別を男だと広め、その上で襲ってくるだろう」
「そ、そうか…」

 引いてるねぇ。そりゃ引くか。俺も言ってて引いた。昔はよくあんなのとつるんでたな、とさえ思ってる。あぁ、まぁ騙されてたのか。いやぁ怖い。

「もし俺が手を汚しそうだったら止めてね、騎士さん…」
「だから、何でお前を止める方向なんだ…?勇者を止めるんじゃないのか?」
「だって多分俺の方が強い。前は不意討ちで両手を押さえられたけど、身体強化とかあるし油断さえしなければ殺れる」
「そんなに小さい体のくせにか」
「身長は関係ないんじゃないんですかねぇ??」

 喧嘩売ってんのか??お??買ったるぞこら。その赤茶の髪を更に赤くさせたんぞこら。
 側にあった小石を投げつけて睨む。失礼な野郎だ。

「おい、こんな狭いところで石を投げるな。跳ね返ったら危ないぞ」
「………確かに。じゃあ叩く」
「ちょっ、な、ん……全然痛くないな?」
「グーで殴ったら痛いと思うよ?そっちのがいい?」
「悪かった。悪かったから身体強化を解け。流石に骨が折れる……と言うか寝ている時、身体強化を使って俺から抜け出せば良かったのでは?」
「抜け出せなかったんだよ!!!抵抗すれば更に締めてきやがって!!なんで身体強化使ってんのにちょっとしか動かねぇんだ!!!ゴリラかテメェ!!!!」

 あの時のことを思い出し、頭をかきむしりたくなるほどの悔しさが込み上げてきた。身体強化を使っても勝てなかったと言う事実を、未だに受け入れられていない。
 と言うか受け入れたくない。本当に何でだ。

「いや、それは、すまない…ただ、ゴリラは心外だな。俺はあんな下品な生物じゃない」
「この世界にもゴリラって居たんだ…って、下品?」
「あぁ。あれだろう?大きな体を持ち、自分の胸を叩いて激しい自己主張をする…」
「おぉ、なんか偏見入ってる気がするけど…大体一緒だな」
「毛色は緑で、自分の糞を武器にし…」
「ん?」
「群れで年に一度大会を開き、一番素晴らしい筋肉の持ち主が次の長になる、正式名称は「ゴディビルダー」という、あの魔物だろう?」
「うん多分違う。合ってるんだろうけど、違う」

 俺の知ってるゴリラじゃなかった。流石異世界。素晴らしい筋肉の持ち主が次の長ってなに?年に一度の大会って、ボディービル大会かよ。名前からしてそうなんだな。絶対に会いたくない。

「ちなみに、人間でも奴らに筋肉が素晴らしいとの評価を貰うと長にされる。長になった初日は、丸一日ポーズを決めて立っていなければならず、その間は群れの奴らが全員筋肉を触りにくる」
「何それ怖い!!ただの恐怖の塊…って、騎士さんやけに詳しいね?ま、まさか…?」
「違う。確かにあれの退治をしようとしたら大会に巻き込まれ、危なく長になりかけたが…」
「あ、大会には出たんだ。そんでなりかけたのね」

 つまり、騎士さんはゴリラも認める素晴らしい筋肉の持ち主、と。だから俺は拘束から抜けられず、つまり騎士さんはゴリラ。

「おい、何か失礼なことを考えているだろう」
「ソンナコトナイデス。それより、長になりかけてどうしたのさ。なったの?一日筋肉を愛でられたの?」
「片言だぞ…いや、なってない。なる前に、団長を生け贄にした。詳しいのは、その様子を見たからだな」

 リーダーさぁん…!!ハッキリと生け贄って言ったぞこの人!そうだね!!あの厳ついお兄さんも、それはそれは素晴らしい筋肉をお持ちでしょうね!!騎士団団長だもんなぁ…
 と言うかなに?この国の騎士団はトップ二人がどっちもゴリラなの…?

 もはや初めは何の会話をしていたのかも忘れ、途中からは騎士さんによる「騎士団団長の素晴らしい功績の数々」を聞くだけとなった。

 なんかもう、ぐだぐだである。



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