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本編

##、雷

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切っ掛けは、なんだっただろうか。

きっと、それは些細なこと。それでも、俺にとっては重大で、大変なことで、心の深い所まで刺さる針だった。

『お前がいたから』

きっと、そんなに意味を考えずに言ったこと。よくある、感情をぶつけられる場所を探して、たまたま俺が"捌け口"になっただけ。

たまたま、俺がそこにいただけ。

それでも言葉と言うものは、悪いものほど深く、早く、まるで質の悪い病気みたいに感染していく。

いくら否定しても、あー言えばこー言って。あいつがああ言った。お前は嘘つきだって。

真実を知らない人からすればあっちが真実で、こっちが嘘つきの悪役で。

そのまま転がり落ちれば、ほらやっぱりそうだったと言って笑う。

『お前がいたから』

そう、俺がいたから。

たまたま、俺がそこにいたから起こったこと。きっと、誰も悪くないんだ。

きっと、俺も同じ。行き場のない感情をぶつけられる場所が欲しかっただけ。

でも、それで得られるものなんか全くなくて。

むしろ、減っていくものの方が多くて。

『お前のせいだ』

結局、そんな言葉で片付けられて。

まるで見せしめの処刑のように、群衆の好奇な目が、沢山、沢山、たくさん、たくさんたくさんたくさん

怖い、怖いね。外には、怖いものが沢山あるんだ。

きっと、部屋なら安心なんて、自分だけの世界なんて、所詮そんなものは存在するわけなくて。

小さな世界なんて、すぐに壊されてしまうんだ。

雨の音が聞こえる。音が強いから、きっと土砂降りなんだろう。

『お前が悪いんだ』

そう、俺が悪いんだ。

『弟?兄弟みたい?そんなの信じちゃってさ』

雷が鳴っている。周りは真っ暗で、ブレーカーが落ちたんだっけ。

『騙された方が悪いんだよ』

上に覆い被さっているのは、誰だっけ?

『昔から思ってたんだ』

ゴロゴロと、大きな音が遠くで聞こえる。

『ぐちゃぐちゃに泣かせてやろうって』

雷の音と一緒に、俺の中で何かが崩れるような音がした気がした。

『所詮お前だって──』

近くに雷が落ちた。カーテンの隙間から一瞬だけ光が入る。

それに照らされて見えた顔は、それでも黒く塗り潰されたようで。

『──ただの女なんだよ』

雷が、また落ちた。



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