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本編
12、よくわからない
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驚愕したような表情で俺を見つめたまま固まって動かない赤目の騎士さん。俺は今膝の上に猫がいるので動く気は毛頭ないのだが、おじいちゃんが必死に俺と騎士さんを交互に見ている。
え、もしかして俺に石化解けって言ってる?無理、その魔法はまだ覚えてないし、多分俺が持ってる属性じゃ出来ない。
という意味を込めて首を横に振る。おじいちゃんが何を考えてるのかは分からないが、何故か落ち込んだようだ。何で?
「お前さん、本当にここを出ていく気かのぅ?」
突然、そんなことを聞かれる。どうやら騎士さんの石化は自然に解けるのを待つことにしたようだ。
「うん。いつまでもここにお世話になってる訳にもいかないし。皆全然信じてくんないけど、一応俺もこの世界の常識に当てはめたら成人だし。冒険してみたいなって」
「冒険か…若い者は皆憧れるが…まだ危ないんじゃないかのぅ?」
「だから、俺、これでも成人済みなんだって。俺の知識も割りと通用するみたいだし…むしろ出ていかない理由がないよねぇ"っ!?」
俺がそう言った瞬間…というか言い終わる前に、突然後ろから肩を掴まれた。そのままグルンと椅子ごと回転させられれば、目の前にはどうやら復活したらしい赤目の騎士さんが。
つか、回されたせいで猫ちゃん落ちたんですが。というか顔が近い!!
「…残る理由があれば、残るのか?」
「ぇえ?あー、うん?」
「ここにいれば皆、お前が欲しい物をくれるぞ」
「えっと、それは嬉しいけど、貰ってばっかじゃ気後れするかな…?」
「ここなら我ら騎士団もいる。何にも邪魔をされることなく、平和な日常が送れる」
「…せっかく異世界来たんだし、冒険してみたいかな。平和過ぎてもつまんないし…」
「魔物狩りなら出ていかなくてもできる!」
「いや、だから、せっかくだから旅してみたいんだって…」
「何が不満だ!!!」
「むしろ俺が聞きたいわ!!!!」
なんださっきから!この謎の問答に何の意味があるってんだ!!
だんだん近くなってきた騎士さんの顔を両手でぐい~っと遠ざける。すると、対抗するかのように更に近づいてきた。なので、更に押し返す。更に来る。更に…
不毛なやり取りをしている俺たちを見かねたおじいちゃんが、ようやくこの連鎖を止めてくれた。ありがとう、おじいちゃん。
騎士さんが離れれば、終わったかと言わんばかりに膝の上に黒猫が乗ってきた。おや?おやおや??もしやこれは懐かれているのでは??
一人で静かに全力で歓喜していれば、上を仰いでどうやら落ち着いたらしい騎士さんが口を開く。
「…お前は、このまま此処で暮らしていくのかと思っていた」
……うん、なんで??何をどう思ってその考えに至ったのだろう。まぁ、俺を子供と思っていたからしかたないが、いくら異世界から来た召喚人と言えどいつかは何処かに出ていくだろう。
このまま王宮暮らしなんて、引きこもりモードなら嬉しいもんだが、今のところ俺はゲーマーモードである。冒険者やりたい。
勿論、ゲーム感覚で死んでもやり直しできるとは思ってないし、人をNPC扱いするつもりもない。ただ、確かに引きこもりではあったが昔から旅とかしてみたかった。
カメラがないのが悔やまれるが、それっぽい魔法見つけよう。
思考の海に沈もうとすれば、それを止めるような騎士さんの声。
「魔物は危険だ。お前なんかが一人でいれば、すぐに死ぬぞ」
「うん。それはそれでいいんじゃない?」
「………は?」
「やりたいことやってて死ぬなら自業自得だし、俺は別にいいかな。結局何処に行ったって死ぬんだし。一緒だろ」
「…………」
…流石に、ブラックジョークっぽかったか?これじゃあ、どう聞いても自殺志願者の発言だな。騎士さんから見れば、今俺は死にたいと言ったも同然だろう。
勿論、決して俺だって死にたいわけではないが、まぁ、全部嘘とも言えないのが現実ですし。
あ、おじいちゃんも呆然としてる。しまったな。おじいちゃんもいたこと忘れてた。
つい視線を下に落としてしまう。膝の上には変わりなく黒猫が座っている。でも、その黒猫も俺を見上げていた。
その目が、随分と俺を責めているようで。俺は、鉛を飲み込んだような、表しようのない感情が沸き上がる。
「………っっ!!」
膝の上には猫がいたのに、勢いよく立ち上がってしまった。ごめん猫。
でも、俺は何かがたまらくなって、随分と居心地が悪く感じてしまって。おじいちゃんと騎士さんが驚いた気配がするが、その顔を見ることが出来ない。
ここに、居ることが出来ない。
思わず、そこから逃げ出した。ほとんど無意識で【身体強化】を使う。日本にいた頃では到底出せなかったであろうスピードで、小屋を飛び出す。
「あっ、おい!待て!!」
後ろから騎士さんの声が聞こえたが、構わず全速力で走る。
この王宮の裏、つまり畑と小屋のあるこの先には森がある。奥には魔物も住んでおり、騎士団もいるここは所謂防波堤みたいなものだ。王族も体を張るなぁ、と思ったことを覚えている。
森に続く道も、覚えてる。
まだお昼過ぎだというのに、どうやら雨雲がきたらしい。周りは薄暗く、きっと森の中は更に暗いのだろう。
そう思っても、どうやったって、走り出した足は止まらなかった。
森の奥へ、奥へと。逃げるように。
一体、何から逃げると言うのだろうか…─
その日、騎士団が森中を捜索するもリンドウを見つけることが出来ず、同時に副団長までもが消え、王宮では大騒ぎとなった。
え、もしかして俺に石化解けって言ってる?無理、その魔法はまだ覚えてないし、多分俺が持ってる属性じゃ出来ない。
という意味を込めて首を横に振る。おじいちゃんが何を考えてるのかは分からないが、何故か落ち込んだようだ。何で?
「お前さん、本当にここを出ていく気かのぅ?」
突然、そんなことを聞かれる。どうやら騎士さんの石化は自然に解けるのを待つことにしたようだ。
「うん。いつまでもここにお世話になってる訳にもいかないし。皆全然信じてくんないけど、一応俺もこの世界の常識に当てはめたら成人だし。冒険してみたいなって」
「冒険か…若い者は皆憧れるが…まだ危ないんじゃないかのぅ?」
「だから、俺、これでも成人済みなんだって。俺の知識も割りと通用するみたいだし…むしろ出ていかない理由がないよねぇ"っ!?」
俺がそう言った瞬間…というか言い終わる前に、突然後ろから肩を掴まれた。そのままグルンと椅子ごと回転させられれば、目の前にはどうやら復活したらしい赤目の騎士さんが。
つか、回されたせいで猫ちゃん落ちたんですが。というか顔が近い!!
「…残る理由があれば、残るのか?」
「ぇえ?あー、うん?」
「ここにいれば皆、お前が欲しい物をくれるぞ」
「えっと、それは嬉しいけど、貰ってばっかじゃ気後れするかな…?」
「ここなら我ら騎士団もいる。何にも邪魔をされることなく、平和な日常が送れる」
「…せっかく異世界来たんだし、冒険してみたいかな。平和過ぎてもつまんないし…」
「魔物狩りなら出ていかなくてもできる!」
「いや、だから、せっかくだから旅してみたいんだって…」
「何が不満だ!!!」
「むしろ俺が聞きたいわ!!!!」
なんださっきから!この謎の問答に何の意味があるってんだ!!
だんだん近くなってきた騎士さんの顔を両手でぐい~っと遠ざける。すると、対抗するかのように更に近づいてきた。なので、更に押し返す。更に来る。更に…
不毛なやり取りをしている俺たちを見かねたおじいちゃんが、ようやくこの連鎖を止めてくれた。ありがとう、おじいちゃん。
騎士さんが離れれば、終わったかと言わんばかりに膝の上に黒猫が乗ってきた。おや?おやおや??もしやこれは懐かれているのでは??
一人で静かに全力で歓喜していれば、上を仰いでどうやら落ち着いたらしい騎士さんが口を開く。
「…お前は、このまま此処で暮らしていくのかと思っていた」
……うん、なんで??何をどう思ってその考えに至ったのだろう。まぁ、俺を子供と思っていたからしかたないが、いくら異世界から来た召喚人と言えどいつかは何処かに出ていくだろう。
このまま王宮暮らしなんて、引きこもりモードなら嬉しいもんだが、今のところ俺はゲーマーモードである。冒険者やりたい。
勿論、ゲーム感覚で死んでもやり直しできるとは思ってないし、人をNPC扱いするつもりもない。ただ、確かに引きこもりではあったが昔から旅とかしてみたかった。
カメラがないのが悔やまれるが、それっぽい魔法見つけよう。
思考の海に沈もうとすれば、それを止めるような騎士さんの声。
「魔物は危険だ。お前なんかが一人でいれば、すぐに死ぬぞ」
「うん。それはそれでいいんじゃない?」
「………は?」
「やりたいことやってて死ぬなら自業自得だし、俺は別にいいかな。結局何処に行ったって死ぬんだし。一緒だろ」
「…………」
…流石に、ブラックジョークっぽかったか?これじゃあ、どう聞いても自殺志願者の発言だな。騎士さんから見れば、今俺は死にたいと言ったも同然だろう。
勿論、決して俺だって死にたいわけではないが、まぁ、全部嘘とも言えないのが現実ですし。
あ、おじいちゃんも呆然としてる。しまったな。おじいちゃんもいたこと忘れてた。
つい視線を下に落としてしまう。膝の上には変わりなく黒猫が座っている。でも、その黒猫も俺を見上げていた。
その目が、随分と俺を責めているようで。俺は、鉛を飲み込んだような、表しようのない感情が沸き上がる。
「………っっ!!」
膝の上には猫がいたのに、勢いよく立ち上がってしまった。ごめん猫。
でも、俺は何かがたまらくなって、随分と居心地が悪く感じてしまって。おじいちゃんと騎士さんが驚いた気配がするが、その顔を見ることが出来ない。
ここに、居ることが出来ない。
思わず、そこから逃げ出した。ほとんど無意識で【身体強化】を使う。日本にいた頃では到底出せなかったであろうスピードで、小屋を飛び出す。
「あっ、おい!待て!!」
後ろから騎士さんの声が聞こえたが、構わず全速力で走る。
この王宮の裏、つまり畑と小屋のあるこの先には森がある。奥には魔物も住んでおり、騎士団もいるここは所謂防波堤みたいなものだ。王族も体を張るなぁ、と思ったことを覚えている。
森に続く道も、覚えてる。
まだお昼過ぎだというのに、どうやら雨雲がきたらしい。周りは薄暗く、きっと森の中は更に暗いのだろう。
そう思っても、どうやったって、走り出した足は止まらなかった。
森の奥へ、奥へと。逃げるように。
一体、何から逃げると言うのだろうか…─
その日、騎士団が森中を捜索するもリンドウを見つけることが出来ず、同時に副団長までもが消え、王宮では大騒ぎとなった。
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