上 下
6 / 60
本編

プロローグ

しおりを挟む
 朝の天気予報では、今日は一日晴れだと言っていた。でも、今現在は酷く土砂降りで、雨で霞んだ視界は外灯の明かりもぼやけていた。
 雷が鳴っていないのが唯一の救いだったかもしれないし、いっそ鳴ってくれていれば良かったのかもしれない。

 土砂降りな橋の上で、傘もささずに俺は荒れる川を見下ろしていた。
 いつもは穏やかな川も、この雨で水位が上がり流れが早くなっている。俺なんかは落ちたら一溜りもないだろう。
 こんな夜にこんなところで、やはり俺はのかもしれない。

 突然腕を捕まれた。振り返ればそこにいるのは知らない男。切羽詰まったような表情の彼は、何かを言おうと口を開き─

──俺たちは強烈な光に包まれて、気づけば見知らぬ室内にいたのだった。

 あぁ、もう。確かに憧れはしたが、タイミングが悪すぎやしないか?
 こんな、こんな…

「お、お待ちしておりました、勇者様」

 いかにもな異世界召喚なんて、一周回って胡散臭さしか感じられないだろ。
 しかも、俺は察してしまった。勇者って、どう考えても男だろ?
 召喚した彼らの目には、一人の予定が二人も男が現れたように見え、どちらが勇者か決めかねているのだろう。

 だが、残念ながら俺はこれでも一応、生物学上的にはれっきとした女である。残念ながら、な。

 いやしかし、嫌な想像が膨らんでしまう。これ多分、勇者じゃない方…つまり俺は、厄介者扱いされる可能性があるのでは?
 生かしてはくれるが、居ないものとして扱われるとか。もしくは侍女あたりに変な噂が流れて、虐められるとか。
 良くも悪くも、現代にはそういう物語が多すぎる。主人公に都合が良すぎるものもあれば、酷いものもあるのだ。
 ついでに言えば、俺は人生を既に悟っていると言っても過言ではない。異世界に来ただけで人生イージーモードなんて甘い考えは身を滅ぼすだけとわかっている。
 まぁ、この異世界の人間の頭がお花畑だったらあり得るかも知れんが、お花畑はお花畑なりに毒がある。油断禁物、絶対気を許すな。

 とかなんとか考えてたら、勇者さんが勇者と断定されていた。
 漫画でよくある水晶玉に手を当てるとステータスがわかるー、みたいなあれで特定している。
 うわ量すっげ。スキルに聖魔法や聖剣とかある。へー、普通のスキルの他に、個人スキルとかあるんだ。その人しか使えないスキルねぇ…勇者さんは何々…【超成長】?何それ、貰える経験値が倍とか?

 え、俺の番?えー、ラノベ展開であるあるの巻き込まれただけの一般人が実は最強でしたとか要らないから。俺は変に目立たず…しまった、これフラグだ。いやだ、面倒くさいなぁ…

 ごちゃごちゃと考えながら水晶玉に触ってみる。ふわりと優しく光ったかと思えば、中に俺が持ってるスキルが三つ程書かれていた。

個人スキル【※※※※※】
スキル【身体強化】【精密魔力操作】

 おい、個人スキル。そういう勿体振り方やめてくれ。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

運命の相手は私ではありません~だから断る~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:518pt お気に入り:961

突然の契約結婚は……楽、でした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,039pt お気に入り:3,714

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:3,971

前世で辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:610pt お気に入り:11,546

カフェ料理で野獣国王を魅了してしまいました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:179

処理中です...