公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

文字の大きさ
上 下
68 / 75
~9. 暗闇と光~

アレクの正体

しおりを挟む
「受かったか?」

翌日の夕方、帝都の城門前で試験が終わるのを待っていたアレクは、僕を見つけるなり、笑ってそう聞いた。

「受かったけど…」

いつもと違うアレクの恰好に戸惑う。飾り羽根の付いた帽子、金糸の刺繍が施された上質な布地の上着、汚れ一つない黒皮のブーツ…

「ただの商人だって言ってたクセに、何その格好…」
「似合うだろう?」

自慢げにそう言うアレクに、力なく笑う。確かに似合っている。着慣れていると言うべきか。今の貴族の姿こそが、本来のアレクなのだと理解する。

「もう気軽にアレクなんて呼べないね、"クレディア公爵"」

少しだけ嫌味を込めてそう言うと、アレクが面白くなさそうに眉間にシワを寄せた。

「その呼び方はやめろ。俺は、お前が無邪気に "アレク!" って呼ぶのが好きなんだ」

それは初耳だ。というか、今の声は僕を真似たのだろうか。全然似てないし、なんならちょっと気持ち悪い。

「…どうせアレクも偽名でしょ?」
「いや、本名はアイザックだから、アレクは通称だな」
「……」
「まぁ、この格好の時の俺をアレクと呼ぶ奴は、ほとんどいないがな」

そう言って、アレクが笑う。アイザック・フォン・クレディア公爵。帝国で一番高い爵位を持つ彼を、気軽にアレクと呼べる人なんて、確かに滅多にいないだろう。

「まぁ、そんな話は今はどうでもいいんだ」
「…?」
「おめでとう、サイラス。受かって良かった」

僕を見てそう言うと、そのままアレクが肩を抱く。その嬉しそうな笑顔は、今まで接してきたアレクと何も変わりはなかった。



馬車に乗り、着いた場所は帝都にあるクレディア公爵家の屋敷だった。あの町にあった屋敷とは比べ物にならないほど広く豪華で、アレクの帰りをズラッと並んだ使用人が迎えていたのには驚いた。

「ホントに、貴族なんだね…」
「驚いたか?」

そう笑いながら、アレクが応接間に通してくれる。正直、驚いたなんてものじゃない。聞きたいことが、山ほどある。それこそ何から聞けばいいのか、分からないぐらいに。

「騎士見習いはいつから始まるか、言ってたか?」
「あ、うん。3日後にまた城門前に来るように言われたよ」

試験の後、合格者だけ集められ、説明を受けた。3日後から寄宿舎に入り、騎士見習いとして最初の訓練が始まるそうだ。その間、半年ほどの期間は城から出られないらしい。

つまり、この3日間を逃すと、当分アレクとは会えない。当然、話も聞けない。騎士見習いになる以上、昨日まで過ごしていたあの屋敷の日々にも、もう戻ることはないのかもしれない。

知りたい。アレクは何者なのか。なぜ、他国の王子である僕を受け入れるに至ったのか。騎士見習いの先にある僕の未来に、アレクは何を見据えているのか。

「…アレクのことを知りたい」
「そうだな。じゃあ、メシにしながら、約束の話をしようか」

そう言って、アレクが微笑んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

白い結婚はそちらが言い出したことですわ

来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

処理中です...