公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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~9. 暗闇と光~

騎士団

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アレクの屋敷で過ごす日々は、気が付けば、三年の年月が経っていた。そして、僕は14歳になっていた。

「サイラス。それが終わったら、ちょっといいか?」

その日、庭で剣の素振りをしていると、アレクが窓から僕を呼んだ。剣を片付け、軽く汗を拭くと、アレクの書斎を訪ねる。すると、机に座っていた彼が改まった表情をして言った。

「お前に騎士見習いの試験を受けさせたい」
「え…?」

予想していなかった言葉に、思わず聞き返す。

「き、騎士見習い…?」
「あぁ。試験は明後日あさって。書類は通してある」
「あ、明後日あさって…!?」

随分と急な話に驚く。騎士になるなど、今までアレクと話したこともないし、勿論、試験の準備も何もしていない。

「試験内容は剣の模擬戦と学力審査。今のサイラスなら、実力は問題ないだろう」

その言葉に少しほっとする。実力は足りているのか。それなら、まぁ…

…いやいや。受かったら騎士見習いって、それはつまり将来的に騎士になるってことじゃないか。

「ま、待って、アレク…」
「場所は帝都だから荷造りをしておけ。明日の朝には出発する」
「て、帝都…!?」
「あぁ、城門前に朝の9時に集合だからな。明日のうちに移動しておかないと間に合わない」
「…っ!?」

帝都の、しかも、城門前が集合場所ということは、十中八九、試験はセントレア帝国城で行われる。だとしたら、それは帝国軍の騎士見習いということでは…?

「ア、アレク…、混乱してるんだけど…、僕に帝国軍の騎士になれということ…?」
「別に騎士になれとは言ってない」
「…?」
「そろそろ俺以外の強い奴にも揉まれるべきだと思っていたんだ。帝国軍の騎士団なら、精鋭揃いだぞ」

そう言って、アレクが不敵な笑みで僕を見る。精鋭揃いだなんて、そんなの当たり前だ。国を守るセントレア帝国軍の騎士団なのだから、そうでなくては困る。

いや、今の問題はそこじゃない。他国の王子である僕がセントレア帝国軍の騎士見習いに応募するなんて、そんなの駄目に決まってるじゃないか。

「僕…、その試験に行ってはいけない気が…すごく…するんだけど…」
「問題ないだろ。書類審査は通ったんだから」

その書類は確実に僕の身分を偽造している。最悪、見つかったら捕まる…

「剣の腕もそうだが、国のことを学ぶ上でも、最適な場所だと思うぞ」
「え…?」
「国の政策に興味があるんだろ? 騎士見習いとは言え、城の内部に身を置いていた方が、学べることも多い」
「……」

どう考えてもおかしな話なのに、アレクの表情を見る限り、彼は冗談ではなく本気で僕に帝国軍の騎士見習いの試験を受けさせようとしているようだった。
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