公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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~9. 暗闇と光~

皇子への祝福

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この屋敷へ来て一年が経った頃だった。その日、町へ行くと、なんだかいつもよりも町の様子が賑わいでいた。

「何かあったの?」

商売で使う道具入れの皮の張替えをアレクから頼まれていた僕は、皮革工房で店主のおじさんにそう聞いた。

「あぁ。皇子殿下の婚約者が決まったんだとさ」

皇子殿下…、確か "アーサー" という名だったろうか。僕よりも年下の彼は、セントレア帝国王家直系では、唯一の男児だと聞いている。つまり、将来、この国の王となる存在だ。

「相手はクレディア公爵家の御令嬢だそうだ」
「ふぅん…」
「はは。興味なさそうだな。まぁ、町の奴らも、めでたいことに便乗して騒ぎたいだけだからな」

そう言って、店主のおじさんは笑った。

「一週間後には完成する。代金は先払いな」
「うん」

お金を支払ってアレクの道具入れを預けると、店を出た。扉を出た瞬間、賑わう町の空気が、再度、僕を包んだ。

どこかで見覚えがあると思った。これは、祝福と歓喜の空気だ。クラウスが生まれたあの日と同じ。未来を担う皇子という希望に、国中が期待し、歓びに満ち溢れている。

あれから二年が経った。今日と同じ空気を王城で感じていたあの日が、急に脳裏に蘇る。

あの後、命を狙われ、炎の中で母を亡くし、ここに来た。今の僕はもはや王子ではなく、この場所はレリック公国ですらない。あの時とは全く違う立場で、この空気を感じている。

クラウスを恨むつもりはない。だけど、僕が失ったものは、何よりも大切で、かけがえのないものだったのも事実。僕を抱き締めてくれた母の腕が、堪らなく懐かしかった。

熱くなりかけた目頭。首を振り、瞼をギュッと閉じて抑え込む。ここで、強くなると決めたのだ。泣いたりはしない。僕は前を向いて、屋敷への帰り道をまっすぐ歩いた。
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