公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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~9. 暗闇と光~

絶望の淵

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「貴方を救えたことは、不幸中の幸いでした…」

何が起きたのか、わからなかった。寸前のところで、僕の命は救われていた。僕を助けたのは、父上が懇意にしていた護衛の騎士の一人だった。

昨夜、王城の僕たちが住む一角に何者かが火を放った。目的は、第二王子である僕の暗殺。僕のせいで、母上と使用人のほとんどが亡くなった。

油でも撒かれたのか、亡骸の判別が難しいほど、燃え方が酷かったらしい。命を狙われた僕は生き残った事実を隠され、母たちと一緒に亡くなったことになっていた。火事の原因も、放火ではなく、使用人の火の不始末として片付けられたようだった。



命を助けてくれた護衛の騎士とともに身を隠し、3日ほど馬車に揺られた。到着したのは、とある屋敷だった。

「今日からここが君の部屋だ」

案内されたのは、ベッドが一つと最低限の家具があるだけの質素な部屋。案内してくれたのは、屋敷の主人らしき男だった。

「君のことは、遠縁の親戚を引き取ったということにしてある。商談用に使っている屋敷で少し狭いが、衣食住は保証できる」

その男が何者なのか、此処がどこなのか、わからなかった。興味もなかった。

目を瞑ると、母の笑顔が浮かんだ。優しい声で呼ばれることも、温かい腕に抱き締められることも、もう二度とない。

なぜ、自分は母と一緒に死ねなかったのか。一人残され、ここで何のために生きるのか。そう思いながら、窓から差す陽の光を、ぼんやりと眺めていた。



それから数日間。その部屋の隅で、ただ座り込んでいた。絶望するほどの哀しみと、ぽっかり穴が空いたような虚無感を交互に繰り返した。

とっくの昔に涙は枯れていた。もはや泣く気力もなく、頭も身体も鉛のように重かった。

あの炎の中で、無力に気を失った自分。母を失う前に、何か出来ることはなかったのか。もう少し早く目覚めていれば。いや、あの夜より前に、気付くことは出来なかったのか。

いくら考えても、失ったものは、もはや何一つ元には戻らなかった。その現実に、心が壊れていくようだった。
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