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〜8. それぞれの思惑〜
真実の追及
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「お帰りなさいませ、殿下…」
「あぁ、ロザリア。今帰った」
一週間ぶりに王城へと戻ったサイラス殿下は、私の顔を見るなり、表情を緩めてそう微笑んだ。
出発前と変わらない笑顔。何かを隠しているようには見えない。だけど、この表情の裏に、この人はどれだけのことを隠しているのだろう。
聞きたいことは山ほどあった。すぐにでも問い詰めたい思いを抑えて、私は殿下と二人きりになれる時間を待った。
◇
「失礼しますわ…」
「あぁ、待っていた、ロザリア」
閨の準備を整えて部屋を訪ねると、殿下は私を迎え入れ、そのまま優しく肩を抱き締めた。
逞しい殿下の腕。一週間ぶりの殿下の匂い。条件反射のように高鳴る自分の鼓動が今は煩わしくて、掻き消すように瞼をギュッと瞑った。
「殿下、お話が…、きゃ…っ!?」
フワッと身体を抱き上げられ、驚いて声を上げる。咄嗟に殿下の首に手を回してしがみつくと、ちゅ…と不意打ちに口吻をされた。
「な…っ!?」
「元気だったか…?」
「げ、元気ですけれど…」
「たった一週間なのに、貴女に会いたくて堪らなくてな」
そう苦笑する殿下に、胸が締め付けられる。この言葉を素直に受け入れられるほど、今の私は無知ではない。
殿下が私の身体をそっとベッドに降ろす。そのまま両腕をシーツに優しく押さえ付けられる。
私を見つめる瞳。この眼差しも、優しい表情も、全てはレリック公国の目的のため。私はもう理由を知っている。
口吻の気配。殿下の顔が近づき、唇が重なりそうになった瞬間、私は口を開いた。
「…父上は、息災でしたか?」
毅然とそう尋ね、私は殿下を見つめた。
「何の用で、父上と密会を…?」
私を見下ろす殿下の瞳が僅かに揺らぐ。腕を掴む殿下の手を解くと、私はベッドから身体を起こした。
「私との婚姻の目的は、品種改良麦の輸出。父上が立ち上げたクレディア商会の流通網が必要だった」
「……」
「元々、王家や貴族の婚姻とはそういうもの。いわく付きであっても、私はレリック公国にとっては、"利" があったのでしょう」
否定もせず私を見つめたままの殿下に、小さく微笑む。
「私との婚姻が決まるずっと前から、名を偽った父上と、手紙のやりとりをなさっていたのを知っています」
「……」
「殿下は父上と、結託していたのではありませんか?」
その言葉に、殿下の目の色が変わった。
「あぁ、ロザリア。今帰った」
一週間ぶりに王城へと戻ったサイラス殿下は、私の顔を見るなり、表情を緩めてそう微笑んだ。
出発前と変わらない笑顔。何かを隠しているようには見えない。だけど、この表情の裏に、この人はどれだけのことを隠しているのだろう。
聞きたいことは山ほどあった。すぐにでも問い詰めたい思いを抑えて、私は殿下と二人きりになれる時間を待った。
◇
「失礼しますわ…」
「あぁ、待っていた、ロザリア」
閨の準備を整えて部屋を訪ねると、殿下は私を迎え入れ、そのまま優しく肩を抱き締めた。
逞しい殿下の腕。一週間ぶりの殿下の匂い。条件反射のように高鳴る自分の鼓動が今は煩わしくて、掻き消すように瞼をギュッと瞑った。
「殿下、お話が…、きゃ…っ!?」
フワッと身体を抱き上げられ、驚いて声を上げる。咄嗟に殿下の首に手を回してしがみつくと、ちゅ…と不意打ちに口吻をされた。
「な…っ!?」
「元気だったか…?」
「げ、元気ですけれど…」
「たった一週間なのに、貴女に会いたくて堪らなくてな」
そう苦笑する殿下に、胸が締め付けられる。この言葉を素直に受け入れられるほど、今の私は無知ではない。
殿下が私の身体をそっとベッドに降ろす。そのまま両腕をシーツに優しく押さえ付けられる。
私を見つめる瞳。この眼差しも、優しい表情も、全てはレリック公国の目的のため。私はもう理由を知っている。
口吻の気配。殿下の顔が近づき、唇が重なりそうになった瞬間、私は口を開いた。
「…父上は、息災でしたか?」
毅然とそう尋ね、私は殿下を見つめた。
「何の用で、父上と密会を…?」
私を見下ろす殿下の瞳が僅かに揺らぐ。腕を掴む殿下の手を解くと、私はベッドから身体を起こした。
「私との婚姻の目的は、品種改良麦の輸出。父上が立ち上げたクレディア商会の流通網が必要だった」
「……」
「元々、王家や貴族の婚姻とはそういうもの。いわく付きであっても、私はレリック公国にとっては、"利" があったのでしょう」
否定もせず私を見つめたままの殿下に、小さく微笑む。
「私との婚姻が決まるずっと前から、名を偽った父上と、手紙のやりとりをなさっていたのを知っています」
「……」
「殿下は父上と、結託していたのではありませんか?」
その言葉に、殿下の目の色が変わった。
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