48 / 75
~7. 婚姻の理由~
隠した想い
しおりを挟む
五年前のあの時、ロザリアに羨望する一方で、アーサー皇子に対しては、堪らなく嫉妬していた。
余興として開かれた模擬戦。本来であれば、皇子である彼に花を持たせるべきだった。だけど、剣を構える姿を見た瞬間、幻滅した。
噂には聞いていたが、それ以下だった。基本すらなっていない。剣術に真面目に取り組んでいないことは明らかだった。
悔しさと怒り。なぜ、こんな男が彼女の婚約者なのか。剣の動きは単調であまりに短絡的だ。弱いなら弱いなりにどう戦うか、それを考える頭脳もないのかと呆れた。
それでも、この男だけが許されているのだ。あの美しい肌に触れ、猛った肉棒で彼女の純潔を貫き、欲を吐き出すことを。
それが自分であることを想像したのは、一度や二度ではなかった。そのような煩悩を払拭しようと学問や鍛錬に打ち込んでも、結局、心は彼女を求めていた。
剣を交えながら、大人気なくアーサー皇子を罵った。そして、気付けば、こてんぱんに負かせていた。そんなことをしても、ただ虚しいだけであることは、わかっていながら。
◇
「殿…下…?」
僕を受け入れたロザリアが、紅潮した顔でそう呼ぶ。何度抱いても、彼女と繋がるこの瞬間は、格別だった。
あの夜の自慰とは比べ物にならないほどの快感が、今、腕の中にある。
「ロザリア…」
「ん…っ」
唇を重ね、彼女を抱き締める。キュウ…と僕を熱く締め付ける其処に、目眩がした。
腰が溶けそうだ。一歩間違えたら、今、彼女にこうしているのは、自分ではなかったかもしれない。そう思ったら腹の奥に黒いものが渦巻いた。
「で、殿下…っ、痛いですわ…」
腕の中のロザリアが、僕の胸を軽く叩きながらそう言う。それを聞いて、思わず力を入れすぎていた事に気付く。
「すまない…!」
「いえ、そんなに強く抱き締めなくても、私は逃げませんから…」
ロザリアが少し恥じらいながら、そう言う。可愛い。
でも、本当だろうか。欲深い想いを何年も腹の奥に秘めてきた。一人の夜には、綺麗な貴女を穢す想像を何度もした。気持ち悪い程に貴女に執着する僕の心を知っても、貴女は逃げないでいてくれるのだろうか。
勿論、そんなことを聞けるはずもない。こんなにも重たくみっともない感情を貴女に正直に晒す気など、最初からないのだから。
◇
彼女が婚約破棄を受けたあの瞬間、夢にまで見た彼女を手に入れるチャンスが舞い降りてきたと思った。当然、何があっても逃す気はなかった。
幸運にも状況は全て僕の味方をしていた。セントレア帝国への輸出戦略を控えたレリック公国。彼女の父親がクレディア公爵であること。そして、彼女を追い出したいセントレア帝国王家…
彼女を僕の妻に迎えることの利益を論理的に積み上げ、冷静に周囲を説得した。それは、僕にとっては都合の良い言い訳でしかなかったが、彼女が手に入るのなら、理由などどうでも良かった。
余興として開かれた模擬戦。本来であれば、皇子である彼に花を持たせるべきだった。だけど、剣を構える姿を見た瞬間、幻滅した。
噂には聞いていたが、それ以下だった。基本すらなっていない。剣術に真面目に取り組んでいないことは明らかだった。
悔しさと怒り。なぜ、こんな男が彼女の婚約者なのか。剣の動きは単調であまりに短絡的だ。弱いなら弱いなりにどう戦うか、それを考える頭脳もないのかと呆れた。
それでも、この男だけが許されているのだ。あの美しい肌に触れ、猛った肉棒で彼女の純潔を貫き、欲を吐き出すことを。
それが自分であることを想像したのは、一度や二度ではなかった。そのような煩悩を払拭しようと学問や鍛錬に打ち込んでも、結局、心は彼女を求めていた。
剣を交えながら、大人気なくアーサー皇子を罵った。そして、気付けば、こてんぱんに負かせていた。そんなことをしても、ただ虚しいだけであることは、わかっていながら。
◇
「殿…下…?」
僕を受け入れたロザリアが、紅潮した顔でそう呼ぶ。何度抱いても、彼女と繋がるこの瞬間は、格別だった。
あの夜の自慰とは比べ物にならないほどの快感が、今、腕の中にある。
「ロザリア…」
「ん…っ」
唇を重ね、彼女を抱き締める。キュウ…と僕を熱く締め付ける其処に、目眩がした。
腰が溶けそうだ。一歩間違えたら、今、彼女にこうしているのは、自分ではなかったかもしれない。そう思ったら腹の奥に黒いものが渦巻いた。
「で、殿下…っ、痛いですわ…」
腕の中のロザリアが、僕の胸を軽く叩きながらそう言う。それを聞いて、思わず力を入れすぎていた事に気付く。
「すまない…!」
「いえ、そんなに強く抱き締めなくても、私は逃げませんから…」
ロザリアが少し恥じらいながら、そう言う。可愛い。
でも、本当だろうか。欲深い想いを何年も腹の奥に秘めてきた。一人の夜には、綺麗な貴女を穢す想像を何度もした。気持ち悪い程に貴女に執着する僕の心を知っても、貴女は逃げないでいてくれるのだろうか。
勿論、そんなことを聞けるはずもない。こんなにも重たくみっともない感情を貴女に正直に晒す気など、最初からないのだから。
◇
彼女が婚約破棄を受けたあの瞬間、夢にまで見た彼女を手に入れるチャンスが舞い降りてきたと思った。当然、何があっても逃す気はなかった。
幸運にも状況は全て僕の味方をしていた。セントレア帝国への輸出戦略を控えたレリック公国。彼女の父親がクレディア公爵であること。そして、彼女を追い出したいセントレア帝国王家…
彼女を僕の妻に迎えることの利益を論理的に積み上げ、冷静に周囲を説得した。それは、僕にとっては都合の良い言い訳でしかなかったが、彼女が手に入るのなら、理由などどうでも良かった。
3
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約者を追いかけるのはやめました
カレイ
恋愛
公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。
しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。
でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる