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~7. 婚姻の理由~
隠した想い
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五年前のあの時、ロザリアに羨望する一方で、アーサー皇子に対しては、堪らなく嫉妬していた。
余興として開かれた模擬戦。本来であれば、皇子である彼に花を持たせるべきだった。だけど、剣を構える姿を見た瞬間、幻滅した。
噂には聞いていたが、それ以下だった。基本すらなっていない。剣術に真面目に取り組んでいないことは明らかだった。
悔しさと怒り。なぜ、こんな男が彼女の婚約者なのか。剣の動きは単調であまりに短絡的だ。弱いなら弱いなりにどう戦うか、それを考える頭脳もないのかと呆れた。
それでも、この男だけが許されているのだ。あの美しい肌に触れ、猛った肉棒で彼女の純潔を貫き、欲を吐き出すことを。
それが自分であることを想像したのは、一度や二度ではなかった。そのような煩悩を払拭しようと学問や鍛錬に打ち込んでも、結局、心は彼女を求めていた。
剣を交えながら、大人気なくアーサー皇子を罵った。そして、気付けば、こてんぱんに負かせていた。そんなことをしても、ただ虚しいだけであることは、わかっていながら。
◇
「殿…下…?」
僕を受け入れたロザリアが、紅潮した顔でそう呼ぶ。何度抱いても、彼女と繋がるこの瞬間は、格別だった。
あの夜の自慰とは比べ物にならないほどの快感が、今、腕の中にある。
「ロザリア…」
「ん…っ」
唇を重ね、彼女を抱き締める。キュウ…と僕を熱く締め付ける其処に、目眩がした。
腰が溶けそうだ。一歩間違えたら、今、彼女にこうしているのは、自分ではなかったかもしれない。そう思ったら腹の奥に黒いものが渦巻いた。
「で、殿下…っ、痛いですわ…」
腕の中のロザリアが、僕の胸を軽く叩きながらそう言う。それを聞いて、思わず力を入れすぎていた事に気付く。
「すまない…!」
「いえ、そんなに強く抱き締めなくても、私は逃げませんから…」
ロザリアが少し恥じらいながら、そう言う。可愛い。
でも、本当だろうか。欲深い想いを何年も腹の奥に秘めてきた。一人の夜には、綺麗な貴女を穢す想像を何度もした。気持ち悪い程に貴女に執着する僕の心を知っても、貴女は逃げないでいてくれるのだろうか。
勿論、そんなことを聞けるはずもない。こんなにも重たくみっともない感情を貴女に正直に晒す気など、最初からないのだから。
◇
彼女が婚約破棄を受けたあの瞬間、夢にまで見た彼女を手に入れるチャンスが舞い降りてきたと思った。当然、何があっても逃す気はなかった。
幸運にも状況は全て僕の味方をしていた。セントレア帝国への輸出戦略を控えたレリック公国。彼女の父親がクレディア公爵であること。そして、彼女を追い出したいセントレア帝国王家…
彼女を僕の妻に迎えることの利益を論理的に積み上げ、冷静に周囲を説得した。それは、僕にとっては都合の良い言い訳でしかなかったが、彼女が手に入るのなら、理由などどうでも良かった。
余興として開かれた模擬戦。本来であれば、皇子である彼に花を持たせるべきだった。だけど、剣を構える姿を見た瞬間、幻滅した。
噂には聞いていたが、それ以下だった。基本すらなっていない。剣術に真面目に取り組んでいないことは明らかだった。
悔しさと怒り。なぜ、こんな男が彼女の婚約者なのか。剣の動きは単調であまりに短絡的だ。弱いなら弱いなりにどう戦うか、それを考える頭脳もないのかと呆れた。
それでも、この男だけが許されているのだ。あの美しい肌に触れ、猛った肉棒で彼女の純潔を貫き、欲を吐き出すことを。
それが自分であることを想像したのは、一度や二度ではなかった。そのような煩悩を払拭しようと学問や鍛錬に打ち込んでも、結局、心は彼女を求めていた。
剣を交えながら、大人気なくアーサー皇子を罵った。そして、気付けば、こてんぱんに負かせていた。そんなことをしても、ただ虚しいだけであることは、わかっていながら。
◇
「殿…下…?」
僕を受け入れたロザリアが、紅潮した顔でそう呼ぶ。何度抱いても、彼女と繋がるこの瞬間は、格別だった。
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「ロザリア…」
「ん…っ」
唇を重ね、彼女を抱き締める。キュウ…と僕を熱く締め付ける其処に、目眩がした。
腰が溶けそうだ。一歩間違えたら、今、彼女にこうしているのは、自分ではなかったかもしれない。そう思ったら腹の奥に黒いものが渦巻いた。
「で、殿下…っ、痛いですわ…」
腕の中のロザリアが、僕の胸を軽く叩きながらそう言う。それを聞いて、思わず力を入れすぎていた事に気付く。
「すまない…!」
「いえ、そんなに強く抱き締めなくても、私は逃げませんから…」
ロザリアが少し恥じらいながら、そう言う。可愛い。
でも、本当だろうか。欲深い想いを何年も腹の奥に秘めてきた。一人の夜には、綺麗な貴女を穢す想像を何度もした。気持ち悪い程に貴女に執着する僕の心を知っても、貴女は逃げないでいてくれるのだろうか。
勿論、そんなことを聞けるはずもない。こんなにも重たくみっともない感情を貴女に正直に晒す気など、最初からないのだから。
◇
彼女が婚約破棄を受けたあの瞬間、夢にまで見た彼女を手に入れるチャンスが舞い降りてきたと思った。当然、何があっても逃す気はなかった。
幸運にも状況は全て僕の味方をしていた。セントレア帝国への輸出戦略を控えたレリック公国。彼女の父親がクレディア公爵であること。そして、彼女を追い出したいセントレア帝国王家…
彼女を僕の妻に迎えることの利益を論理的に積み上げ、冷静に周囲を説得した。それは、僕にとっては都合の良い言い訳でしかなかったが、彼女が手に入るのなら、理由などどうでも良かった。
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