公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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~6. 公国の戦略~

優しい夜

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その夜、殿下はいつもより優しかった。

「ん…っ」

両頬を大きな手に包まれて、優しい接吻キスが落ちてくる。軽く唇を重ねた後、おでこ、頬へと慈しむように触れるだけの接吻キスが続く。

ただ、穏やかで、甘い。いつもの殿下が垣間見せる衝動を、今は感じない。

「殿…下…?」

そう呼ぶと、殿下が柔らかく微笑んで、わたくしの髪を撫でてくれる。温かく大きな手が心地良い。

「不思議だ…」
「え…?」
「貴女に触れるだけで、心が癒されていく…」

目を瞑り、穏やかな顔で殿下がそう言う。その表情は、まるで幸せを味わっているかのよう。

わたくしが感じている温かい気持ちと同じものを、殿下も感じているのだろうか。一瞬、そう思った心を、わたくしは慌てて諌めた。

期待などしてはいけない。たまたま今夜はそう思ってくださっているだけ。殿下が本当に触れたい相手は、わたくしではないのだから。

「…触れるだけで良いのなら、今夜はこのまま、眠りますか?」

殿下にそう聞く。少し意地悪なわたくしからの質問に、殿下が複雑な顔をした。

「いや…それは…、その…、やはり…したいというか…」

口籠りながら、それでも正直な殿下の言葉に、思わずクスッと笑う。そんなわたくしを見て、殿下はバツが悪そうに自身の髪を掻いた。

「そんなに笑わなくても…」
「ふふ。殿下が素直で可愛らしいからですわ」
「"可愛い" は、褒め言葉ではない」

そう言った殿下が、拗ねるようにふいっと横を向く。逞しく大人な殿下が、今はどこか子供みたいだ。

「殿下…」

殿下の頬に手を伸ばす。拗ねた顔すら愛しいと思う。身体だけでも構わない。どんな形でもいいから、この人の特別になりたい。

「抱いて…くれないのですか…?」

その言葉に殿下の眉が僅かに動き、観念したような瞳がこちらを向いた。

「…最近の貴女は、少し魔性だ」
「ま、魔性…?」
「あぁ」

そう言いながら、殿下がわたくしの襟元のボタンに手を掛ける。一番上のそれが外れると、殿下の指先がわたくしの首筋に触れた。

「だから、このような痕を付けたくなるんだ」
「え…?」

そう言った殿下が、わたくしの痕を見つめる。真剣な顔。何を考えているのだろう…。そのまま数秒、間を置いた後、殿下はその表情を飲み込んだ。

「いや、悪かったな。こんな痕を付けて」
「だ、大丈夫ですわ…」

謝っていただく必要はない。殿下の物である証のようなこの痕を、わたくしは嬉しく思っている。

「わ、わたくしは、殿下の妻ですから…、その…、何をされても、構いませんわ…」
「そんなふうに甘やかすと、貴女の身体は赤い痕だらけになるぞ」
「そ、それは…、困りますけれど…」

戸惑いながらそう言うわたくしを見て、殿下が笑った。

「はは。冗談だ」
「じ、冗談…?」
「あぁ。今夜は、優しく抱く…」

そう言って近づく殿下の唇に、わたくしは静かに目を瞑った。
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