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~7. 婚姻の理由~
鬱屈した想い
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ロザリアと婚礼の儀を挙げた夜、いわゆる "初夜" に彼女を抱き締めた時、腕の中の彼女は明らかに動揺していた。
「ち、父から…っ、し、白い結婚…だと、聞いています…」
それは、彼女を妻として迎える際に、彼女の父であるクレディア公爵と交わした "約束" でもあった。
セントレア帝国のアーサー皇子に婚約破棄をされ、全てを失ったばかりのロザリア。その傷も癒えぬうちにレリック公国へ嫁ぐことが決まり、さらには好きでもない男に純潔も奪われるのはいくらなんでも酷過ぎると、娘を想う親心だったのかもしれない。
それとも、勘の良いクレディア公爵のことだ。喉から手が出るほどに彼女を欲していた我が心を察し、予防線を張ったのかもしれない。
「ロザリア・フォン・クレディア」
「はい」
「汝、サイラス・ヴァン・レリックを生涯の夫とし、如何なる時も夫を愛し、共に生きることを誓いますか」
「誓います」
婚礼の儀で凛とした声でそう誓った彼女が、自分を愛してなどいないことはわかっていた。
身体を重ねるのは彼女と気持ちが通じ合ってから。そう思わなかったこともない。だけど、彼女が自分に振り向いてくれる保証などなかった。白い結婚ではなく本当の妻にしてしまわねば、やっとの思いで手に入れた彼女を失ってしまうのではないかと恐れた。
何も知らぬ無垢な身体。自身の身体で丁寧に "男" を教え込み、快感に溺れさせ、自分無しではいられないようにしてしまおうと思った。
だけど、先に溺れたのは自分の方だった。長年蓄積させた行き場のない彼女への想い。鬱屈としたそれは自分の腹の中に黒く渦巻いていた。彼女と身体を重ねた瞬間に、それまで鋼の理性で抑え込んでいたはずのそれが沸き出すかのようだった。
愛する人と繋がるという事は、これほどまでに堪らない気持ちになるものなのかと驚いた。タガが外れたように彼女を求め、幾度も欲を吐き出した。最後の一滴まで注ぎ尽くしたはずなのに、身体が離れたその瞬間から、すぐに次を求めたくなった。
貴女が好きだ…
その言葉を何度も言いそうになった。ただ、その気持ちは彼女にとって負担にしかならないことはわかっていた。彼女の純潔を奪う代わりに、その言葉だけは言わないと決めていた。
「ち、父から…っ、し、白い結婚…だと、聞いています…」
それは、彼女を妻として迎える際に、彼女の父であるクレディア公爵と交わした "約束" でもあった。
セントレア帝国のアーサー皇子に婚約破棄をされ、全てを失ったばかりのロザリア。その傷も癒えぬうちにレリック公国へ嫁ぐことが決まり、さらには好きでもない男に純潔も奪われるのはいくらなんでも酷過ぎると、娘を想う親心だったのかもしれない。
それとも、勘の良いクレディア公爵のことだ。喉から手が出るほどに彼女を欲していた我が心を察し、予防線を張ったのかもしれない。
「ロザリア・フォン・クレディア」
「はい」
「汝、サイラス・ヴァン・レリックを生涯の夫とし、如何なる時も夫を愛し、共に生きることを誓いますか」
「誓います」
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貴女が好きだ…
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