公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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〜5. 真紅の薔薇姫〜

リディア嬢の動揺

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「あの、ご冗談では…? クラウス殿下がわたくしのことを褒めるなど…」
「そんな! 本当ですわ」
「ですが…、わたくし、顔を合わせれば嫌味ばかり言われていますのに…」

勿論、その理由は理解している。サイラス殿下を慕う彼にとって、わたくしが気に食わない存在であるのは当然だ。

リディア嬢はクラウス王子とも付き合いが長い。おそらく彼女の前でも、彼はわたくしの嫌味を存分に言っているのではないかと思う。だとしたら、彼がわたくしのことを褒めているというのは彼女なりの気遣いだろう。

「クラウス殿下が、義姉おねえ様に嫌味を…?」
「ええ。わたくしに面と向かって堂々と言っていますから、気を遣っていただかなくても大丈夫ですのよ」

そう苦笑いしたわたくしを、リディア嬢は驚いた顔で見ていた。何かおかしな事を言っただろうか。

「……」
「リディア様…?」
「…ロザリア義姉おねえ様は、クラウス殿下に気に入られたのだと思いますわ」
「え…っ!? 気に入られていませんわ、全然…!」

今の会話のどこからその結論に辿り着いたのだろう。どう考えてもわたくしには嫌われる要素しかない。

「…クラウス殿下は、わたくしには、嫌味一つ言いません」
「……?」

…それは当たり前なのでは? 婚約者の、しかも、こんなに美しく完璧なリディア嬢に対しては、さすがのクラウス王子も嫌味を言う理由などないだろう。

わたくしたちの婚約は、所詮、国が決めたものですから…」
「え…?」

そう呟いたリディア嬢は、少し表情を曇らせて、わたくしから視線を逸らした。

「余計なことを申しました。すみません」
「リディア様…?」
「長く引き止めてしまって申し訳ありません。今度はゆっくりお茶でも致しましょう」

強制的に話を終えるかのようにそう微笑んだ彼女は、いつもの愛らしい笑顔に戻っていた。



「…どうかしたか、ロザリア」
「え…?」
「先ほどから食が進んでいないようだが…」

執務を早く終わらせ夕食の席を共にしてくれたサイラス殿下が、心配そうにわたくしにそう聞いた。

「ど、どうもしませんわ…!」

慌てて笑顔を作り、返事を返す。

「どこか体調でも…?」
「いえ…! 食欲もちゃんとありますわ!」

そう言って、ナイフで切った鶏のソテーを口に運ぶ。香草が効いていて美味しい…

「なら良いが…」

まだ腑に落ちない表情の殿下に、わたくしは誤魔化すように、にっこりと微笑んだ。

先ほどのリディア嬢の言葉の意味を考えていた。クラウス王子がわたくしを気に入ったとは一体どういうことだろうか。あれではまるで、彼女は嫌味を言われたがっているような…。いやいや、そんな馬鹿な…

それに、クラウス王子と彼女の婚約を「国が決めたもの」と表現した意図はなんだったのだろう。表情を作るのが上手な彼女が、なぜあの瞬間、暗い顔をしていたのか…

何かクラウス王子との間にわだかまりでもあるのだろうか。でも、彼女はサイラス殿下を好きなのでは…?

そう考えながらサイラス殿下に視線を向けた瞬間、殿下とパチッと目が合った。その瞳にドキッとする。

「その…、ロザリア…」
「は、はい…!」
「今夜…、共に過ごしたいのだが…」
「─…っ!」

そう言った殿下の言葉に、わたくしはすっかり頭から抜けていた自身の恋心を思い出した。
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