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〜5. 真紅の薔薇姫〜
リディア嬢の動揺
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「あの、ご冗談では…? クラウス殿下が私のことを褒めるなど…」
「そんな! 本当ですわ」
「ですが…、私、顔を合わせれば嫌味ばかり言われていますのに…」
勿論、その理由は理解している。サイラス殿下を慕う彼にとって、私が気に食わない存在であるのは当然だ。
リディア嬢はクラウス王子とも付き合いが長い。おそらく彼女の前でも、彼は私の嫌味を存分に言っているのではないかと思う。だとしたら、彼が私のことを褒めているというのは彼女なりの気遣いだろう。
「クラウス殿下が、義姉様に嫌味を…?」
「ええ。私に面と向かって堂々と言っていますから、気を遣っていただかなくても大丈夫ですのよ」
そう苦笑いした私を、リディア嬢は驚いた顔で見ていた。何かおかしな事を言っただろうか。
「……」
「リディア様…?」
「…ロザリア義姉様は、クラウス殿下に気に入られたのだと思いますわ」
「え…っ!? 気に入られていませんわ、全然…!」
今の会話のどこからその結論に辿り着いたのだろう。どう考えても私には嫌われる要素しかない。
「…クラウス殿下は、私には、嫌味一つ言いません」
「……?」
…それは当たり前なのでは? 婚約者の、しかも、こんなに美しく完璧なリディア嬢に対しては、さすがのクラウス王子も嫌味を言う理由などないだろう。
「私たちの婚約は、所詮、国が決めたものですから…」
「え…?」
そう呟いたリディア嬢は、少し表情を曇らせて、私から視線を逸らした。
「余計なことを申しました。すみません」
「リディア様…?」
「長く引き止めてしまって申し訳ありません。今度はゆっくりお茶でも致しましょう」
強制的に話を終えるかのようにそう微笑んだ彼女は、いつもの愛らしい笑顔に戻っていた。
◇
「…どうかしたか、ロザリア」
「え…?」
「先ほどから食が進んでいないようだが…」
執務を早く終わらせ夕食の席を共にしてくれたサイラス殿下が、心配そうに私にそう聞いた。
「ど、どうもしませんわ…!」
慌てて笑顔を作り、返事を返す。
「どこか体調でも…?」
「いえ…! 食欲もちゃんとありますわ!」
そう言って、ナイフで切った鶏のソテーを口に運ぶ。香草が効いていて美味しい…
「なら良いが…」
まだ腑に落ちない表情の殿下に、私は誤魔化すように、にっこりと微笑んだ。
先ほどのリディア嬢の言葉の意味を考えていた。クラウス王子が私を気に入ったとは一体どういうことだろうか。あれではまるで、彼女は嫌味を言われたがっているような…。いやいや、そんな馬鹿な…
それに、クラウス王子と彼女の婚約を「国が決めたもの」と表現した意図はなんだったのだろう。表情を作るのが上手な彼女が、なぜあの瞬間、暗い顔をしていたのか…
何かクラウス王子との間にわだかまりでもあるのだろうか。でも、彼女はサイラス殿下を好きなのでは…?
そう考えながらサイラス殿下に視線を向けた瞬間、殿下とパチッと目が合った。その瞳にドキッとする。
「その…、ロザリア…」
「は、はい…!」
「今夜…、共に過ごしたいのだが…」
「─…っ!」
そう言った殿下の言葉に、私はすっかり頭から抜けていた自身の恋心を思い出した。
「そんな! 本当ですわ」
「ですが…、私、顔を合わせれば嫌味ばかり言われていますのに…」
勿論、その理由は理解している。サイラス殿下を慕う彼にとって、私が気に食わない存在であるのは当然だ。
リディア嬢はクラウス王子とも付き合いが長い。おそらく彼女の前でも、彼は私の嫌味を存分に言っているのではないかと思う。だとしたら、彼が私のことを褒めているというのは彼女なりの気遣いだろう。
「クラウス殿下が、義姉様に嫌味を…?」
「ええ。私に面と向かって堂々と言っていますから、気を遣っていただかなくても大丈夫ですのよ」
そう苦笑いした私を、リディア嬢は驚いた顔で見ていた。何かおかしな事を言っただろうか。
「……」
「リディア様…?」
「…ロザリア義姉様は、クラウス殿下に気に入られたのだと思いますわ」
「え…っ!? 気に入られていませんわ、全然…!」
今の会話のどこからその結論に辿り着いたのだろう。どう考えても私には嫌われる要素しかない。
「…クラウス殿下は、私には、嫌味一つ言いません」
「……?」
…それは当たり前なのでは? 婚約者の、しかも、こんなに美しく完璧なリディア嬢に対しては、さすがのクラウス王子も嫌味を言う理由などないだろう。
「私たちの婚約は、所詮、国が決めたものですから…」
「え…?」
そう呟いたリディア嬢は、少し表情を曇らせて、私から視線を逸らした。
「余計なことを申しました。すみません」
「リディア様…?」
「長く引き止めてしまって申し訳ありません。今度はゆっくりお茶でも致しましょう」
強制的に話を終えるかのようにそう微笑んだ彼女は、いつもの愛らしい笑顔に戻っていた。
◇
「…どうかしたか、ロザリア」
「え…?」
「先ほどから食が進んでいないようだが…」
執務を早く終わらせ夕食の席を共にしてくれたサイラス殿下が、心配そうに私にそう聞いた。
「ど、どうもしませんわ…!」
慌てて笑顔を作り、返事を返す。
「どこか体調でも…?」
「いえ…! 食欲もちゃんとありますわ!」
そう言って、ナイフで切った鶏のソテーを口に運ぶ。香草が効いていて美味しい…
「なら良いが…」
まだ腑に落ちない表情の殿下に、私は誤魔化すように、にっこりと微笑んだ。
先ほどのリディア嬢の言葉の意味を考えていた。クラウス王子が私を気に入ったとは一体どういうことだろうか。あれではまるで、彼女は嫌味を言われたがっているような…。いやいや、そんな馬鹿な…
それに、クラウス王子と彼女の婚約を「国が決めたもの」と表現した意図はなんだったのだろう。表情を作るのが上手な彼女が、なぜあの瞬間、暗い顔をしていたのか…
何かクラウス王子との間にわだかまりでもあるのだろうか。でも、彼女はサイラス殿下を好きなのでは…?
そう考えながらサイラス殿下に視線を向けた瞬間、殿下とパチッと目が合った。その瞳にドキッとする。
「その…、ロザリア…」
「は、はい…!」
「今夜…、共に過ごしたいのだが…」
「─…っ!」
そう言った殿下の言葉に、私はすっかり頭から抜けていた自身の恋心を思い出した。
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