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〜5. 真紅の薔薇姫〜
理想の妃
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この情景を見て、心を奪われぬ男性などいるだろうか。勿論、彼女はレリック公国第一王子の婚約者という身。普通の男性であれば、このような距離で話をすることすら許されない。
でも、この場にいるのがサイラス殿下であったなら…? 堪らなく愛らしい彼女を見て、彼は何を思っただろうか。「綺麗だ」と、私には見せない表情で、思わず言葉を漏らしていたかもしれない。
…胸の奥がジリっと焦げるようだった。心の中にあるのは、リディア嬢に対する嫉妬と羨望。彼女と殿下が過ごしてきた長い年月を思えば、私がそんな感情を抱くのはお門違いだと分かっている。それでも止められなかった。
サイラス殿下の妃は私。白い結婚ではなく、身体も重ねている。でも、どんなに優しくされ、どんなに身体を求められても、殿下の心は彼女を向いているのだ。
◇
「初めてロザリア義姉様に会った日、私の理想とするお妃様が目の前に現れたのだと思いました」
こちらを振り返ったリディア嬢が、私の瞳を見ながらそう言った。
「え…?」
「義姉様と何度か接するにつれて、それは確信に変わりました。この方は私と同じように、いえ、セントレア帝国という大国で、私以上に、ご自身を磨いてきた方なのだわ、と」
リディア嬢の言葉に驚く。そんなことを言われるとは思っていなかった。
「か、買い被りすぎですわ…」
「いいえ。私も幼い頃からこの国で妃教育を受けてきた身。他の者では気付けぬ細かな所作も、私だけは気付きます」
それは、私の人生のほとんどの時間を費やしてきたもの。リディア嬢も同じだろう。彼女の振舞いや仕草を見ていればわかる。
ただ一つ違うのは、私はすでに婚約破棄された身であるという事。
「リディア様に褒めていただけたのは光栄なことですけれど…、私にはもう無用なことですから…」
そう言って彼女から視線を逸らす。アーサー皇子から婚約破棄を言い渡された時点で、全ては無駄になったのだ。
「ふふ。そんなこと仰らないでください。私、嬉しかったのです」
「…?」
「あぁ、こんな素敵な方が私の義姉様になるのだわ、と」
そう言った彼女の笑顔は、表面的なものではなく、本当に嬉しそうに見えた。
「…でも、私のような者がサイラス殿下の妃になるなど、驚いたのではないですか?」
「ロザリア義姉様を見ていれば、そんなことは杞憂だと分かりますわ。クラウス殿下ともよくそう話しておりますのよ」
その言葉に耳を疑った。
「え…? クラウス殿下と…ですか…?」
「えぇ。クラウス殿下もよく義姉様のことを褒めておりますわ」
そう言って微笑むリディア嬢に、頭の中に「?」が浮かぶ。口を開けば嫌味ばかり言っているクラウス王子が私を褒めるなど、何かの間違いではないだろうか…
でも、この場にいるのがサイラス殿下であったなら…? 堪らなく愛らしい彼女を見て、彼は何を思っただろうか。「綺麗だ」と、私には見せない表情で、思わず言葉を漏らしていたかもしれない。
…胸の奥がジリっと焦げるようだった。心の中にあるのは、リディア嬢に対する嫉妬と羨望。彼女と殿下が過ごしてきた長い年月を思えば、私がそんな感情を抱くのはお門違いだと分かっている。それでも止められなかった。
サイラス殿下の妃は私。白い結婚ではなく、身体も重ねている。でも、どんなに優しくされ、どんなに身体を求められても、殿下の心は彼女を向いているのだ。
◇
「初めてロザリア義姉様に会った日、私の理想とするお妃様が目の前に現れたのだと思いました」
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「え…?」
「義姉様と何度か接するにつれて、それは確信に変わりました。この方は私と同じように、いえ、セントレア帝国という大国で、私以上に、ご自身を磨いてきた方なのだわ、と」
リディア嬢の言葉に驚く。そんなことを言われるとは思っていなかった。
「か、買い被りすぎですわ…」
「いいえ。私も幼い頃からこの国で妃教育を受けてきた身。他の者では気付けぬ細かな所作も、私だけは気付きます」
それは、私の人生のほとんどの時間を費やしてきたもの。リディア嬢も同じだろう。彼女の振舞いや仕草を見ていればわかる。
ただ一つ違うのは、私はすでに婚約破棄された身であるという事。
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そう言って彼女から視線を逸らす。アーサー皇子から婚約破棄を言い渡された時点で、全ては無駄になったのだ。
「ふふ。そんなこと仰らないでください。私、嬉しかったのです」
「…?」
「あぁ、こんな素敵な方が私の義姉様になるのだわ、と」
そう言った彼女の笑顔は、表面的なものではなく、本当に嬉しそうに見えた。
「…でも、私のような者がサイラス殿下の妃になるなど、驚いたのではないですか?」
「ロザリア義姉様を見ていれば、そんなことは杞憂だと分かりますわ。クラウス殿下ともよくそう話しておりますのよ」
その言葉に耳を疑った。
「え…? クラウス殿下と…ですか…?」
「えぇ。クラウス殿下もよく義姉様のことを褒めておりますわ」
そう言って微笑むリディア嬢に、頭の中に「?」が浮かぶ。口を開けば嫌味ばかり言っているクラウス王子が私を褒めるなど、何かの間違いではないだろうか…
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