公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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〜5. 真紅の薔薇姫〜

理想の妃

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この情景を見て、心を奪われぬ男性などいるだろうか。勿論、彼女はレリック公国第一王子の婚約者という身。普通の男性であれば、このような距離で話をすることすら許されない。

でも、この場にいるのがサイラス殿下であったなら…? 堪らなく愛らしい彼女を見て、彼は何を思っただろうか。「綺麗だ」と、わたくしには見せない表情で、思わず言葉を漏らしていたかもしれない。

…胸の奥がジリっと焦げるようだった。心の中にあるのは、リディア嬢に対する嫉妬と羨望。彼女と殿下が過ごしてきた長い年月を思えば、わたくしがそんな感情を抱くのはお門違いだと分かっている。それでも止められなかった。

サイラス殿下の妃はわたくし。白い結婚ではなく、身体も重ねている。でも、どんなに優しくされ、どんなに身体を求められても、殿下の心は彼女を向いているのだ。



「初めてロザリア義姉おねえ様に会った日、わたくしの理想とするお妃様が目の前に現れたのだと思いました」

こちらを振り返ったリディア嬢が、わたくしの瞳を見ながらそう言った。

「え…?」
義姉おねえ様と何度か接するにつれて、それは確信に変わりました。この方はわたくしと同じように、いえ、セントレア帝国という大国で、わたくし以上に、ご自身を磨いてきた方なのだわ、と」

リディア嬢の言葉に驚く。そんなことを言われるとは思っていなかった。

「か、買い被りすぎですわ…」
「いいえ。わたくしも幼い頃からこの国で妃教育を受けてきた身。他の者では気付けぬ細かな所作も、わたくしだけは気付きます」

それは、わたくしの人生のほとんどの時間を費やしてきたもの。リディア嬢も同じだろう。彼女の振舞いや仕草を見ていればわかる。

ただ一つ違うのは、わたくしはすでに婚約破棄された身であるという事。

「リディア様に褒めていただけたのは光栄なことですけれど…、わたくしにはもう無用なことですから…」

そう言って彼女から視線を逸らす。アーサー皇子から婚約破棄を言い渡された時点で、全ては無駄になったのだ。

「ふふ。そんなこと仰らないでください。わたくし、嬉しかったのです」
「…?」
「あぁ、こんな素敵な方がわたくし義姉おねえ様になるのだわ、と」

そう言った彼女の笑顔は、表面的なものではなく、本当に嬉しそうに見えた。

「…でも、わたくしのような者がサイラス殿下の妃になるなど、驚いたのではないですか?」
「ロザリア義姉おねえ様を見ていれば、そんなことは杞憂だと分かりますわ。クラウス殿下ともよくそう話しておりますのよ」

その言葉に耳を疑った。

「え…? クラウス殿下と…ですか…?」
「えぇ。クラウス殿下もよく義姉おねえ様のことを褒めておりますわ」

そう言って微笑むリディア嬢に、頭の中に「?」が浮かぶ。口を開けば嫌味ばかり言っているクラウス王子がわたくしを褒めるなど、何かの間違いではないだろうか…
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