公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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~3. 深瞳の恋慕~

心に決めた人

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それは今から五年ほど前のこと。その日、レリック公国の要人と騎士団が、会談のため、セントレア帝国を訪問していた。

何かの余興だったのだろう。セントレア帝国の第一皇子であるアーサー皇子と、当時騎士団に所属していたレリック公国の第二王子の模擬戦が開かれた。

来賓の方々への御挨拶もあり、わたくしはその場には行かなかったが、終わってすぐにアーサー皇子がこてんぱんに負けたことを知った。

「今回はレリック公国側が来賓なのですから、別にいいではないですか…」

負けたことに苛立つアーサー皇子のなだめ役を押し付けられた婚約者のわたくしは、アーサー皇子にそう声を掛けた。

たかが模擬戦。誰も勝敗など気にしていない。もてなしをする側のアーサー皇子がレリック公国の第二王子に花を持たせた、と皆は解釈するのだから。

「試合中、アイツは俺を散々罵った」

それはあちらの戦略な気がした。短絡的なアーサー皇子の腹を立たせ、動きが雑になったところを仕留められた。そんな光景が容易に想像できる。

「一体、何を言われたのです…?」
「鍛錬をサボっているから筋力がないだの、剣捌きが単調で頭が悪そうだの…、アイツが俺の何を知っているんだ、クソ…」

…事実なのでは。そう思ったが、口には出さなかった。たかが数分、剣を交えただけでわかってしまうとは、男性も大変だなと思いながら。

「ああいう性悪な男だから、婚約者を弟に奪われるのだ。もう離せ!」

そう言い放ち、アーサー皇子はわたくしの手を振り払って行ってしまった。

レリック公国の王子のことなど詮索するつもりはなかったが、後で少しだけ調べた。アーサー皇子の言うことを全て信じた訳ではないが、たかが余興で他国の皇子を罵り、さらにこてんぱんにするなど、少しやりすぎにも思えた。

大方、素行の悪いアーサー皇子が粗相でもして機嫌を損ねたのだろうと思ったが、もし恨みでも買っているならば、早々に鎮めておかねばいけない。

だけど、二人の間にはいさかいどころか接点すら見受けられなかった。相手側の人格についても、問題があるどころか、かなり模範的な王子だという。頭を傾げるばかりだった。

アーサー皇子の言っていた通り、婚約者の相手が第二王子から第一王子へ変わっていたのは本当だったが、両者の間には後継争いもないようで、特に問題はないように思えた。

調べる中で、些細な、嘘か本当かもわからぬ噂を一つだけ知った。第二王子は婚約者どころか、生涯、結婚なさらないと決めているのだとか。決して叶わぬ恋の相手がおり、その相手以外を娶るつもりはないのだ、と。

そして、この第二王子が現在のわたくしの夫──サイラス殿下ということになる。
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