28 / 75
〜5. 真紅の薔薇姫〜
戸惑い
しおりを挟む
私は一体何を血迷っているのだろう。サイラス殿下への想いを自覚した私が、冷静になって最初に考えたのはそれだった。
殿下との間にそのような感情が生まれるなど、微塵も予想していなかった。当たり前だ。私は無理矢理押し付けられた妻。セントレア帝国の皇子に婚約破棄を突き付けられた「いわく付き」の身。
こんな私を愛する人など、生涯、現れることはない。勿論、殿下とて同じ。それが分かっているのに惹かれてしまうだなんて、血迷っているとしか言いようがない。
◇
「クラウス…、なぜお前がロザリアの部屋にいるのだ」
執務の休憩時間に私の部屋を訪れたサイラス殿下。すでに私の部屋のソファで寛いでいるクラウス王子を観た瞬間、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「わ、私が、お誘いしたのです…!」
慌ててお二人の間に入る。
「クラウス殿下とサイラス殿下、三人で話してみたかったのですわ。ほら、殿下もお座りになって」
そう言った私に、殿下は納得できない表情のまま、渋々とクラウス王子の向かいに座った。
今日は殿下とお茶の約束をしていた。当初は二人の予定だったところを、急遽、クラウス王子もお誘いして、三人のお茶会に切り替えた。
サイラス殿下と二人の時間をどう過ごせば良いか分からなかった。殿下を慕うクラウス王子なら、誘えば嫌味を言いながらも来てくれるだろうと思った。
読み通り、クラウス王子が来てくれたおかげで、私はいつも通りに振る舞えている。
「つーか、何。その薔薇…」
クラウス王子のその言葉に、殿下がはっとしたように先ほどから自身の腕に抱えたままの花束を見た。
「ロザリア、茶に招いて貰った礼だ」
「ふふ。いつもありがとうございます」
そう返事をしながら、殿下からいつもの薔薇──ロゼ・ブランシュを受け取る。
「え…、寒…。兄上、コイツに薔薇なんか贈ってるの…」
「あら、クラウス殿下。女性は誰でもお花を頂いたら嬉しいものですよ」
嫌味を吐くクラウス王子にそう言いながら、いただいた薔薇の花を眺める。上品で美しいこの薔薇は殿下が私に一番似合うと選んでくれたもの。嬉しい…。
鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ。甘く優しい香りに微笑むと、殿下と目が合った。
その瞬間、殿下の表情がふわっと柔らかく綻んだ。その笑顔を見て高鳴る心臓に、あぁ…やはり、私は血迷っているのだわ、と思った。
殿下との間にそのような感情が生まれるなど、微塵も予想していなかった。当たり前だ。私は無理矢理押し付けられた妻。セントレア帝国の皇子に婚約破棄を突き付けられた「いわく付き」の身。
こんな私を愛する人など、生涯、現れることはない。勿論、殿下とて同じ。それが分かっているのに惹かれてしまうだなんて、血迷っているとしか言いようがない。
◇
「クラウス…、なぜお前がロザリアの部屋にいるのだ」
執務の休憩時間に私の部屋を訪れたサイラス殿下。すでに私の部屋のソファで寛いでいるクラウス王子を観た瞬間、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「わ、私が、お誘いしたのです…!」
慌ててお二人の間に入る。
「クラウス殿下とサイラス殿下、三人で話してみたかったのですわ。ほら、殿下もお座りになって」
そう言った私に、殿下は納得できない表情のまま、渋々とクラウス王子の向かいに座った。
今日は殿下とお茶の約束をしていた。当初は二人の予定だったところを、急遽、クラウス王子もお誘いして、三人のお茶会に切り替えた。
サイラス殿下と二人の時間をどう過ごせば良いか分からなかった。殿下を慕うクラウス王子なら、誘えば嫌味を言いながらも来てくれるだろうと思った。
読み通り、クラウス王子が来てくれたおかげで、私はいつも通りに振る舞えている。
「つーか、何。その薔薇…」
クラウス王子のその言葉に、殿下がはっとしたように先ほどから自身の腕に抱えたままの花束を見た。
「ロザリア、茶に招いて貰った礼だ」
「ふふ。いつもありがとうございます」
そう返事をしながら、殿下からいつもの薔薇──ロゼ・ブランシュを受け取る。
「え…、寒…。兄上、コイツに薔薇なんか贈ってるの…」
「あら、クラウス殿下。女性は誰でもお花を頂いたら嬉しいものですよ」
嫌味を吐くクラウス王子にそう言いながら、いただいた薔薇の花を眺める。上品で美しいこの薔薇は殿下が私に一番似合うと選んでくれたもの。嬉しい…。
鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ。甘く優しい香りに微笑むと、殿下と目が合った。
その瞬間、殿下の表情がふわっと柔らかく綻んだ。その笑顔を見て高鳴る心臓に、あぁ…やはり、私は血迷っているのだわ、と思った。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説

婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています

何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること
大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。
それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。
幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。
誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。
貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか?
前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?
待鳥園子
恋愛
幼馴染みで従兄弟の王太子から、女避けのための婚約者になって欲しいと頼まれていた令嬢。いよいよ自分の婚期を逃してしまうと焦り、そろそろ婚約解消したいと申し込む。
女避け要員だったはずなのにつれない王太子をずっと一途に好きな伯爵令嬢と、色々と我慢しすぎて良くわからなくなっている王太子のもだもだした恋愛事情。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる