公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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〜5. 真紅の薔薇姫〜

戸惑い

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わたくしは一体何を血迷っているのだろう。サイラス殿下への想いを自覚したわたくしが、冷静になって最初に考えたのはそれだった。

殿下との間にそのような感情が生まれるなど、微塵も予想していなかった。当たり前だ。わたくしは無理矢理押し付けられた妻。セントレア帝国の皇子に婚約破棄を突き付けられた「いわく付き」の身。

こんなわたくしを愛する人など、生涯、現れることはない。勿論、殿下とて同じ。それが分かっているのに惹かれてしまうだなんて、血迷っているとしか言いようがない。



「クラウス…、なぜお前がロザリアの部屋にいるのだ」

執務の休憩時間にわたくしの部屋を訪れたサイラス殿下。すでにわたくしの部屋のソファで寛いでいるクラウス王子を観た瞬間、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「わ、わたくしが、お誘いしたのです…!」

慌ててお二人の間に入る。

「クラウス殿下とサイラス殿下、三人で話してみたかったのですわ。ほら、殿下もお座りになって」

そう言ったわたくしに、殿下は納得できない表情のまま、渋々とクラウス王子の向かいに座った。

今日は殿下とお茶の約束をしていた。当初は二人の予定だったところを、急遽、クラウス王子もお誘いして、三人のお茶会に切り替えた。

サイラス殿下と二人の時間をどう過ごせば良いか分からなかった。殿下を慕うクラウス王子なら、誘えば嫌味を言いながらも来てくれるだろうと思った。

読み通り、クラウス王子が来てくれたおかげで、わたくしはいつも通りに振る舞えている。

「つーか、何。その薔薇…」

クラウス王子のその言葉に、殿下がはっとしたように先ほどから自身の腕に抱えたままの花束を見た。

「ロザリア、茶に招いて貰った礼だ」
「ふふ。いつもありがとうございます」

そう返事をしながら、殿下からいつもの薔薇──ロゼ・ブランシュを受け取る。

「え…、寒…。兄上、コイツに薔薇なんか贈ってるの…」
「あら、クラウス殿下。女性は誰でもお花を頂いたら嬉しいものですよ」

嫌味を吐くクラウス王子にそう言いながら、いただいた薔薇の花を眺める。上品で美しいこの薔薇は殿下がわたくしに一番似合うと選んでくれたもの。嬉しい…。

鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ。甘く優しい香りに微笑むと、殿下と目が合った。

その瞬間、殿下の表情がふわっと柔らかくほころんだ。その笑顔を見て高鳴る心臓に、あぁ…やはり、わたくしは血迷っているのだわ、と思った。
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