公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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〜8. それぞれの思惑〜

手紙の主

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それから数日後のことだった。殿下の執務室から借りていた帳簿や書物を返しに行った帰り、自室に続く廊下の曲がり角で、わたくしは人にぶつかった。

「きゃ…っ!?」

相手はレイラだった。ぶつかった瞬間、足元に何かが散らばる。

「す、すみません、ロザリア妃殿下!」
わたくしこそ! 前を見ていなかったわ」

レイラは手に持っていた手紙を落としたようだった。落ちた衝撃で束ねていた紐が解け、複数の封筒が床に散らばっている。

「あら、大変…!」
「わ、私が拾いますから、妃殿下はどうかそのままで…!」
「ふふ。大丈夫よ。一緒に拾った方が早いのだし…」

そう言って、足元のそれを一緒に拾う。

「あら…?」

たまたま手にした白い封筒。サイラス殿下宛のそれを見て、わたくしの手が止まった。

「……」

上質な封筒。裏返して差出人を確認する。あの日、殿下の執務室で見た手紙と同じ…

「ねぇ、レイラ。この方を知っている…?」
「あ、はい。定期的に殿下にお手紙を下さる方ですね」

定期的に…? 

「この手紙は、私がここへ来る前から届いているの?」
「はい。殿下の古いお知り合いらしく、私がここで働き始めた時にはすでに…」

レイラはここで5年以上働いている。少なくともそれ以上前から、この手紙の主は殿下とやり取りをしていたということになる。

「お会いする約束と入れ違いになったのでしょうか」
「え…?」
「ちょうど今、サイラス殿下はこの方に会いに行っているのですよ」

その言葉に、指先に力が入る。

「この住所は…、レリック公国よね…?」
「はい。セントレア帝国の国境近くの町ですね」
「殿下は、何の用でこの方に…?」
「詳しいことは…。急な商談だとは仰っていましたけれど…」

急な商談…? この手紙の差出主と…? わたくしには何も言わずに…? そう思いながら、わたくしはその手紙の文字を見つめる。

「そのお手紙が、どうかしましたか?」
「い、いえ…、何でもないわ…」

そう言って、レイラにその手紙を手渡した。

万年筆で書かれた達筆な字。そこに記された差出人の名も住所も、わたくしは知らない。だけど、その字をわたくしはよく知っている。見間違えるはずはない。

それは、クレディア公爵──わたくしの父上の字なのだから…
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