55 / 75
〜8. それぞれの思惑〜
手紙の主
しおりを挟む
それから数日後のことだった。殿下の執務室から借りていた帳簿や書物を返しに行った帰り、自室に続く廊下の曲がり角で、私は人にぶつかった。
「きゃ…っ!?」
相手はレイラだった。ぶつかった瞬間、足元に何かが散らばる。
「す、すみません、ロザリア妃殿下!」
「私こそ! 前を見ていなかったわ」
レイラは手に持っていた手紙を落としたようだった。落ちた衝撃で束ねていた紐が解け、複数の封筒が床に散らばっている。
「あら、大変…!」
「わ、私が拾いますから、妃殿下はどうかそのままで…!」
「ふふ。大丈夫よ。一緒に拾った方が早いのだし…」
そう言って、足元のそれを一緒に拾う。
「あら…?」
たまたま手にした白い封筒。サイラス殿下宛のそれを見て、私の手が止まった。
「……」
上質な封筒。裏返して差出人を確認する。あの日、殿下の執務室で見た手紙と同じ…
「ねぇ、レイラ。この方を知っている…?」
「あ、はい。定期的に殿下にお手紙を下さる方ですね」
定期的に…?
「この手紙は、私がここへ来る前から届いているの?」
「はい。殿下の古いお知り合いらしく、私がここで働き始めた時にはすでに…」
レイラはここで5年以上働いている。少なくともそれ以上前から、この手紙の主は殿下とやり取りをしていたということになる。
「お会いする約束と入れ違いになったのでしょうか」
「え…?」
「ちょうど今、サイラス殿下はこの方に会いに行っているのですよ」
その言葉に、指先に力が入る。
「この住所は…、レリック公国よね…?」
「はい。セントレア帝国の国境近くの町ですね」
「殿下は、何の用でこの方に…?」
「詳しいことは…。急な商談だとは仰っていましたけれど…」
急な商談…? この手紙の差出主と…? 私には何も言わずに…? そう思いながら、私はその手紙の文字を見つめる。
「そのお手紙が、どうかしましたか?」
「い、いえ…、何でもないわ…」
そう言って、レイラにその手紙を手渡した。
万年筆で書かれた達筆な字。そこに記された差出人の名も住所も、私は知らない。だけど、その字を私はよく知っている。見間違えるはずはない。
それは、クレディア公爵──私の父上の字なのだから…
「きゃ…っ!?」
相手はレイラだった。ぶつかった瞬間、足元に何かが散らばる。
「す、すみません、ロザリア妃殿下!」
「私こそ! 前を見ていなかったわ」
レイラは手に持っていた手紙を落としたようだった。落ちた衝撃で束ねていた紐が解け、複数の封筒が床に散らばっている。
「あら、大変…!」
「わ、私が拾いますから、妃殿下はどうかそのままで…!」
「ふふ。大丈夫よ。一緒に拾った方が早いのだし…」
そう言って、足元のそれを一緒に拾う。
「あら…?」
たまたま手にした白い封筒。サイラス殿下宛のそれを見て、私の手が止まった。
「……」
上質な封筒。裏返して差出人を確認する。あの日、殿下の執務室で見た手紙と同じ…
「ねぇ、レイラ。この方を知っている…?」
「あ、はい。定期的に殿下にお手紙を下さる方ですね」
定期的に…?
「この手紙は、私がここへ来る前から届いているの?」
「はい。殿下の古いお知り合いらしく、私がここで働き始めた時にはすでに…」
レイラはここで5年以上働いている。少なくともそれ以上前から、この手紙の主は殿下とやり取りをしていたということになる。
「お会いする約束と入れ違いになったのでしょうか」
「え…?」
「ちょうど今、サイラス殿下はこの方に会いに行っているのですよ」
その言葉に、指先に力が入る。
「この住所は…、レリック公国よね…?」
「はい。セントレア帝国の国境近くの町ですね」
「殿下は、何の用でこの方に…?」
「詳しいことは…。急な商談だとは仰っていましたけれど…」
急な商談…? この手紙の差出主と…? 私には何も言わずに…? そう思いながら、私はその手紙の文字を見つめる。
「そのお手紙が、どうかしましたか?」
「い、いえ…、何でもないわ…」
そう言って、レイラにその手紙を手渡した。
万年筆で書かれた達筆な字。そこに記された差出人の名も住所も、私は知らない。だけど、その字を私はよく知っている。見間違えるはずはない。
それは、クレディア公爵──私の父上の字なのだから…
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。

白い結婚はそちらが言い出したことですわ
来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!



この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる