公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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~4. サイラスの回想~

婚約破棄

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「ロザリア嬢、君とは婚約を破棄させてもらう…!」

それは今から一ヵ月半ほど前のことだった。セントレア帝国で行われた今年の社交シーズン最初の王宮舞踏会。隣国から来賓として出席したその場でそれは起きた。

舞踏会の開始の合図のファーストダンス。それが始まる間際、高らかに婚約破棄を宣言したのはセントレア帝国のアーサー皇子だった。

宣言された相手はクレディア公爵家令嬢、ロザリア・フォン・クレディア嬢。アーサー皇子の婚約者だった。

馬鹿なことを。クレディア公爵家と言えば、セントレア帝国内で一、二を争う地位を持つ貴族だ。歴史も長く、内政は勿論、外交から貿易に至るまで、重要な役割を担っている。

このような形でクレディア家の令嬢を晒し物にするなど、王家もただでは済むまい。その場にいた多くがそう思っていた。頭の弱そうなあの皇子とその横で傲慢に笑う令嬢を除いては。

以前から、彼の評判はあまり良くなかった。広大で豊かな土地を持つセントレア帝国。温暖な気候で作物には困らない。昔はひどかった北方諸国からの侵攻も、現在は我がレリック公国が緩衝地帯となり、落ち着いている。

幸い、セントレア帝国の現王は人格の優れた御方だとは思う。だけど、一人息子であるアーサー皇子はぬるま湯に浸り、王族としての自覚もないまま、好き勝手に生きているようだった。

ここにいる皆が、彼女を不憫だと思っていた。あんな男の婚約者として幼い頃から己を磨き、その行く末がこれだ。彼女が重ねた努力は、セントレア帝国の皇子からの婚約破棄という不名誉で穢された。

後でクレディア公爵がこっぴどい仕返しをするとは思うが、今、この瞬間はたった一人で、あの場に立たされている。まだ若い女性にとって、あれではあまりにも酷だ。

思わずてのひらをキツく握る。あの場へ助けに出るか…? いや、他国のことに余計な干渉をすべきではないが…

「その愚かな婚約破棄、謹んでお受け致しますわ。アーサー殿下」

そう答えた彼女の声に、はっとした。意志の強い瞳が、皇子を冷静に見つめていた。周囲が、シン…と静まり返る。その中央に立つ彼女は、誇り高く、美しかった。

あぁ…そうだ。あの瞳こそ、僕が惚れた彼女だ。久しぶりに見たその姿に、心が鷲掴みにされたようだった。
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