25 / 75
~4. サイラスの回想~
婚約破棄
しおりを挟む
「ロザリア嬢、君とは婚約を破棄させてもらう…!」
それは今から一ヵ月半ほど前のことだった。セントレア帝国で行われた今年の社交シーズン最初の王宮舞踏会。隣国から来賓として出席したその場でそれは起きた。
舞踏会の開始の合図のファーストダンス。それが始まる間際、高らかに婚約破棄を宣言したのはセントレア帝国のアーサー皇子だった。
宣言された相手はクレディア公爵家令嬢、ロザリア・フォン・クレディア嬢。アーサー皇子の婚約者だった。
馬鹿なことを。クレディア公爵家と言えば、セントレア帝国内で一、二を争う地位を持つ貴族だ。歴史も長く、内政は勿論、外交から貿易に至るまで、重要な役割を担っている。
このような形でクレディア家の令嬢を晒し物にするなど、王家もただでは済むまい。その場にいた多くがそう思っていた。頭の弱そうなあの皇子とその横で傲慢に笑う令嬢を除いては。
以前から、彼の評判はあまり良くなかった。広大で豊かな土地を持つセントレア帝国。温暖な気候で作物には困らない。昔はひどかった北方諸国からの侵攻も、現在は我がレリック公国が緩衝地帯となり、落ち着いている。
幸い、セントレア帝国の現王は人格の優れた御方だとは思う。だけど、一人息子であるアーサー皇子はぬるま湯に浸り、王族としての自覚もないまま、好き勝手に生きているようだった。
ここにいる皆が、彼女を不憫だと思っていた。あんな男の婚約者として幼い頃から己を磨き、その行く末がこれだ。彼女が重ねた努力は、セントレア帝国の皇子からの婚約破棄という不名誉で穢された。
後でクレディア公爵がこっぴどい仕返しをするとは思うが、今、この瞬間はたった一人で、あの場に立たされている。まだ若い女性にとって、あれではあまりにも酷だ。
思わず掌をキツく握る。あの場へ助けに出るか…? いや、他国のことに余計な干渉をすべきではないが…
「その愚かな婚約破棄、謹んでお受け致しますわ。アーサー殿下」
そう答えた彼女の声に、はっとした。意志の強い瞳が、皇子を冷静に見つめていた。周囲が、シン…と静まり返る。その中央に立つ彼女は、誇り高く、美しかった。
あぁ…そうだ。あの瞳こそ、僕が惚れた彼女だ。久しぶりに見たその姿に、心が鷲掴みにされたようだった。
それは今から一ヵ月半ほど前のことだった。セントレア帝国で行われた今年の社交シーズン最初の王宮舞踏会。隣国から来賓として出席したその場でそれは起きた。
舞踏会の開始の合図のファーストダンス。それが始まる間際、高らかに婚約破棄を宣言したのはセントレア帝国のアーサー皇子だった。
宣言された相手はクレディア公爵家令嬢、ロザリア・フォン・クレディア嬢。アーサー皇子の婚約者だった。
馬鹿なことを。クレディア公爵家と言えば、セントレア帝国内で一、二を争う地位を持つ貴族だ。歴史も長く、内政は勿論、外交から貿易に至るまで、重要な役割を担っている。
このような形でクレディア家の令嬢を晒し物にするなど、王家もただでは済むまい。その場にいた多くがそう思っていた。頭の弱そうなあの皇子とその横で傲慢に笑う令嬢を除いては。
以前から、彼の評判はあまり良くなかった。広大で豊かな土地を持つセントレア帝国。温暖な気候で作物には困らない。昔はひどかった北方諸国からの侵攻も、現在は我がレリック公国が緩衝地帯となり、落ち着いている。
幸い、セントレア帝国の現王は人格の優れた御方だとは思う。だけど、一人息子であるアーサー皇子はぬるま湯に浸り、王族としての自覚もないまま、好き勝手に生きているようだった。
ここにいる皆が、彼女を不憫だと思っていた。あんな男の婚約者として幼い頃から己を磨き、その行く末がこれだ。彼女が重ねた努力は、セントレア帝国の皇子からの婚約破棄という不名誉で穢された。
後でクレディア公爵がこっぴどい仕返しをするとは思うが、今、この瞬間はたった一人で、あの場に立たされている。まだ若い女性にとって、あれではあまりにも酷だ。
思わず掌をキツく握る。あの場へ助けに出るか…? いや、他国のことに余計な干渉をすべきではないが…
「その愚かな婚約破棄、謹んでお受け致しますわ。アーサー殿下」
そう答えた彼女の声に、はっとした。意志の強い瞳が、皇子を冷静に見つめていた。周囲が、シン…と静まり返る。その中央に立つ彼女は、誇り高く、美しかった。
あぁ…そうだ。あの瞳こそ、僕が惚れた彼女だ。久しぶりに見たその姿に、心が鷲掴みにされたようだった。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。

白い結婚はそちらが言い出したことですわ
来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!



この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる