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~4. サイラスの回想~
愛しのロザリア
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「ロザリア・フォン・クレディアと申します」
レリック公国に到着した彼女が僕の前でそう挨拶をしたとき、夢を見ているのではないかと思った。まさか彼女が僕の妻になるだなんて、そんな日が来るとは思ってもみなかった。
艶のある長い髪。透き通るような白い肌。女性らしい美しい外見を備えながら、瞳の奥には深い知性と強い意志を秘めている。その瞳が今、僕だけを映している。
「あの…、殿下…?」
彼女に見とれたまま返事を忘れていると、ロザリア嬢は不安そうな表情でそう声を掛けた。
「あぁ…すまない。サイラス・ヴァン・レリックだ」
そう言って、彼女にエスコートの手を差し出す。初めて触れた彼女の華奢な指先に、身体中の血が沸き立ちそうだった。
◇
「クラウス…、なぜお前がロザリアの部屋にいるのだ」
そう言って、妻の部屋のソファで寛ぐ我が弟、クラウスを問い詰める。勿論、最大限に殺意を込めた視線を送りながら。
今日は執務の合間にロザリアと茶の約束をしていた。時間になって彼女の部屋を訪ねたのだが、そこには弟が居た次第だ。
「わ、私がお誘いしたのです…!」
慌てた表情でクラウスと僕の間をロザリアが遮る。今日も我が妻は美しい。慌てた顔すらも愛らしい。しかし…
「…意味が、わからないのだが」
そう。全く以って意味がわからない。楽しみにしていた妻との時間に、なぜ弟を入れなくてはいけないのだ。
「クラウス殿下とサイラス殿下、三人で話してみたかったのですわ。ほら、殿下もお座りになって」
そう言って微笑むロザリアに促され、納得できぬまま腰掛ける。
「意味が分からないのは、こっちだよ。どうしてもと言うから来てやったのに、いきなり兄上に睨まれてさ」
足をだらしなく組み、そう嫌味を吐く我が弟。いっそこのまま窓から捨ててやろうか。
「つーか、何。その薔薇…」
ドン引きした目でクラウスがこちらを見る。クラウスが居ることに動揺して渡すのをすっかり忘れていた。
「ロザリア。茶に招いて貰った礼だ」
「ふふ。いつもありがとうございます」
嬉しそうに微笑んで、ロザリアは "ロゼ・ブランシュ" を受け取った。やはり彼女には、この清楚な薔薇がよく似合う。
「え…、寒…。兄上、コイツに薔薇なんか贈ってるの…」
「あら、クラウス殿下。女性は誰でもお花を頂いたら嬉しいものですよ」
クラウスの言葉にロザリアがそう反論する。
「ふーん…。アンタは花より食い物の方が好きそうだけど」
「ふふ。美味しいケーキもちゃんと用意していますわ。ね、レイラ」
そう言ってロザリアが笑う。どうやらこの三人が集まったのは、ロザリアが企んだことのようだった。
意図は全く分からぬが、彼女が笑っているのを嬉しく思う。あの国で貴女が生きるはずだった未来の何十倍──いや、何百倍も──、僕が貴女を幸せにすると決めたのだから。
レリック公国に到着した彼女が僕の前でそう挨拶をしたとき、夢を見ているのではないかと思った。まさか彼女が僕の妻になるだなんて、そんな日が来るとは思ってもみなかった。
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彼女に見とれたまま返事を忘れていると、ロザリア嬢は不安そうな表情でそう声を掛けた。
「あぁ…すまない。サイラス・ヴァン・レリックだ」
そう言って、彼女にエスコートの手を差し出す。初めて触れた彼女の華奢な指先に、身体中の血が沸き立ちそうだった。
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そう言って、妻の部屋のソファで寛ぐ我が弟、クラウスを問い詰める。勿論、最大限に殺意を込めた視線を送りながら。
今日は執務の合間にロザリアと茶の約束をしていた。時間になって彼女の部屋を訪ねたのだが、そこには弟が居た次第だ。
「わ、私がお誘いしたのです…!」
慌てた表情でクラウスと僕の間をロザリアが遮る。今日も我が妻は美しい。慌てた顔すらも愛らしい。しかし…
「…意味が、わからないのだが」
そう。全く以って意味がわからない。楽しみにしていた妻との時間に、なぜ弟を入れなくてはいけないのだ。
「クラウス殿下とサイラス殿下、三人で話してみたかったのですわ。ほら、殿下もお座りになって」
そう言って微笑むロザリアに促され、納得できぬまま腰掛ける。
「意味が分からないのは、こっちだよ。どうしてもと言うから来てやったのに、いきなり兄上に睨まれてさ」
足をだらしなく組み、そう嫌味を吐く我が弟。いっそこのまま窓から捨ててやろうか。
「つーか、何。その薔薇…」
ドン引きした目でクラウスがこちらを見る。クラウスが居ることに動揺して渡すのをすっかり忘れていた。
「ロザリア。茶に招いて貰った礼だ」
「ふふ。いつもありがとうございます」
嬉しそうに微笑んで、ロザリアは "ロゼ・ブランシュ" を受け取った。やはり彼女には、この清楚な薔薇がよく似合う。
「え…、寒…。兄上、コイツに薔薇なんか贈ってるの…」
「あら、クラウス殿下。女性は誰でもお花を頂いたら嬉しいものですよ」
クラウスの言葉にロザリアがそう反論する。
「ふーん…。アンタは花より食い物の方が好きそうだけど」
「ふふ。美味しいケーキもちゃんと用意していますわ。ね、レイラ」
そう言ってロザリアが笑う。どうやらこの三人が集まったのは、ロザリアが企んだことのようだった。
意図は全く分からぬが、彼女が笑っているのを嬉しく思う。あの国で貴女が生きるはずだった未来の何十倍──いや、何百倍も──、僕が貴女を幸せにすると決めたのだから。
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