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~3. 深瞳の恋慕~
レイラの忠誠
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レリック公国に嫁ぐにあたり、私はクレディア公爵家の使用人を誰一人として連れてこなかった。
この婚姻が心から望まれているものではないことは承知していた。だとしたら、嫁いだ先で私の使用人もどんな待遇を受けるかわからない。冷遇されるなら、私一人で充分。関係のない使用人を巻き込むべきではないと思ったのだ。
ここへ来た日、一人も使用人を連れてこなかった私を見て、サイラス殿下は一瞬だけ驚いていた。でも、その日のうちに、一通りの使用人を配置してくれた。
レイラもその一人。雇い主はサイラス殿下であるのに、彼女は誰よりも私を一番に考えてくれている。
「レイラは私の専属メイドだけど、雇い主はサイラス殿下なのでしょう?」
「大丈夫ですよ。こんなことでサイラス殿下はお給料を減らしたりしませんから」
そう言ってレイラはあっけらかんと笑う。
「それに、妃殿下を第一に優先するのが、私の仕事なので」
「え…?」
「サイラス殿下にも、そう言われています。だから今回も、私の言葉に殿下は大人しく従ってくれているのですわ」
先程まで殿下に怒っていたのとは対照的な優しい表情でレイラが笑った。
「帝国の皇子妃になるはずだった方が、サイラス殿下の元に嫁ぐと伺ったときは、複雑な気持ちでしたけど…」
「……」
「実際にお会いしたら、そんなことはどうでも良くなりました」
「え…?」
「サイラス殿下の奥様として、ロザリア妃殿下以上に相応しい方はいません。私の人生を掛けて尽くすつもりです」
そう言って、レイラは私の方をまっすぐ向いて、深く頭を下げた。
◇
「ところで、殿下が贈ってくるのは、いつもこの薔薇ですね」
レイラが "ロゼ・ブランシュ" を見る。窓辺から入る朝の光に照らされ、淡桃色の花心から花びらが純白に変わっていくグラデーションが綺麗だ。
「殿下も、毎日違う薔薇を贈るぐらいすればいいのに、気が利かないですね」
「ふふ。庭に咲く薔薇の中で、その薔薇が私に一番似合うと仰っていたわ」
そう答えて、レイラに微笑む。
「まぁ…確かに。品が良くてロザリア妃殿下によく似合いますね」
「ありがとう」
「だからと言って、薔薇ぐらいでは、妃殿下を寝込ませた殿下を私は許しませんけど!」
「ふふ。頼もしい専属メイドね」
そう言って私はレイラと笑い合った。
窓辺で咲く "ロゼ・ブランシュ" を見て少しだけ思う。サイラス殿下が本当に薔薇を贈りたいのは、別の相手ではないのかしら、と。
そして、その相手には、殿下も情熱的な『真紅の薔薇』を贈るのではないかしら…
この婚姻が心から望まれているものではないことは承知していた。だとしたら、嫁いだ先で私の使用人もどんな待遇を受けるかわからない。冷遇されるなら、私一人で充分。関係のない使用人を巻き込むべきではないと思ったのだ。
ここへ来た日、一人も使用人を連れてこなかった私を見て、サイラス殿下は一瞬だけ驚いていた。でも、その日のうちに、一通りの使用人を配置してくれた。
レイラもその一人。雇い主はサイラス殿下であるのに、彼女は誰よりも私を一番に考えてくれている。
「レイラは私の専属メイドだけど、雇い主はサイラス殿下なのでしょう?」
「大丈夫ですよ。こんなことでサイラス殿下はお給料を減らしたりしませんから」
そう言ってレイラはあっけらかんと笑う。
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「え…?」
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「帝国の皇子妃になるはずだった方が、サイラス殿下の元に嫁ぐと伺ったときは、複雑な気持ちでしたけど…」
「……」
「実際にお会いしたら、そんなことはどうでも良くなりました」
「え…?」
「サイラス殿下の奥様として、ロザリア妃殿下以上に相応しい方はいません。私の人生を掛けて尽くすつもりです」
そう言って、レイラは私の方をまっすぐ向いて、深く頭を下げた。
◇
「ところで、殿下が贈ってくるのは、いつもこの薔薇ですね」
レイラが "ロゼ・ブランシュ" を見る。窓辺から入る朝の光に照らされ、淡桃色の花心から花びらが純白に変わっていくグラデーションが綺麗だ。
「殿下も、毎日違う薔薇を贈るぐらいすればいいのに、気が利かないですね」
「ふふ。庭に咲く薔薇の中で、その薔薇が私に一番似合うと仰っていたわ」
そう答えて、レイラに微笑む。
「まぁ…確かに。品が良くてロザリア妃殿下によく似合いますね」
「ありがとう」
「だからと言って、薔薇ぐらいでは、妃殿下を寝込ませた殿下を私は許しませんけど!」
「ふふ。頼もしい専属メイドね」
そう言って私はレイラと笑い合った。
窓辺で咲く "ロゼ・ブランシュ" を見て少しだけ思う。サイラス殿下が本当に薔薇を贈りたいのは、別の相手ではないのかしら、と。
そして、その相手には、殿下も情熱的な『真紅の薔薇』を贈るのではないかしら…
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