17 / 75
~3. 深瞳の恋慕~
レイラの忠誠
しおりを挟む
レリック公国に嫁ぐにあたり、私はクレディア公爵家の使用人を誰一人として連れてこなかった。
この婚姻が心から望まれているものではないことは承知していた。だとしたら、嫁いだ先で私の使用人もどんな待遇を受けるかわからない。冷遇されるなら、私一人で充分。関係のない使用人を巻き込むべきではないと思ったのだ。
ここへ来た日、一人も使用人を連れてこなかった私を見て、サイラス殿下は一瞬だけ驚いていた。でも、その日のうちに、一通りの使用人を配置してくれた。
レイラもその一人。雇い主はサイラス殿下であるのに、彼女は誰よりも私を一番に考えてくれている。
「レイラは私の専属メイドだけど、雇い主はサイラス殿下なのでしょう?」
「大丈夫ですよ。こんなことでサイラス殿下はお給料を減らしたりしませんから」
そう言ってレイラはあっけらかんと笑う。
「それに、妃殿下を第一に優先するのが、私の仕事なので」
「え…?」
「サイラス殿下にも、そう言われています。だから今回も、私の言葉に殿下は大人しく従ってくれているのですわ」
先程まで殿下に怒っていたのとは対照的な優しい表情でレイラが笑った。
「帝国の皇子妃になるはずだった方が、サイラス殿下の元に嫁ぐと伺ったときは、複雑な気持ちでしたけど…」
「……」
「実際にお会いしたら、そんなことはどうでも良くなりました」
「え…?」
「サイラス殿下の奥様として、ロザリア妃殿下以上に相応しい方はいません。私の人生を掛けて尽くすつもりです」
そう言って、レイラは私の方をまっすぐ向いて、深く頭を下げた。
◇
「ところで、殿下が贈ってくるのは、いつもこの薔薇ですね」
レイラが "ロゼ・ブランシュ" を見る。窓辺から入る朝の光に照らされ、淡桃色の花心から花びらが純白に変わっていくグラデーションが綺麗だ。
「殿下も、毎日違う薔薇を贈るぐらいすればいいのに、気が利かないですね」
「ふふ。庭に咲く薔薇の中で、その薔薇が私に一番似合うと仰っていたわ」
そう答えて、レイラに微笑む。
「まぁ…確かに。品が良くてロザリア妃殿下によく似合いますね」
「ありがとう」
「だからと言って、薔薇ぐらいでは、妃殿下を寝込ませた殿下を私は許しませんけど!」
「ふふ。頼もしい専属メイドね」
そう言って私はレイラと笑い合った。
窓辺で咲く "ロゼ・ブランシュ" を見て少しだけ思う。サイラス殿下が本当に薔薇を贈りたいのは、別の相手ではないのかしら、と。
そして、その相手には、殿下も情熱的な『真紅の薔薇』を贈るのではないかしら…
この婚姻が心から望まれているものではないことは承知していた。だとしたら、嫁いだ先で私の使用人もどんな待遇を受けるかわからない。冷遇されるなら、私一人で充分。関係のない使用人を巻き込むべきではないと思ったのだ。
ここへ来た日、一人も使用人を連れてこなかった私を見て、サイラス殿下は一瞬だけ驚いていた。でも、その日のうちに、一通りの使用人を配置してくれた。
レイラもその一人。雇い主はサイラス殿下であるのに、彼女は誰よりも私を一番に考えてくれている。
「レイラは私の専属メイドだけど、雇い主はサイラス殿下なのでしょう?」
「大丈夫ですよ。こんなことでサイラス殿下はお給料を減らしたりしませんから」
そう言ってレイラはあっけらかんと笑う。
「それに、妃殿下を第一に優先するのが、私の仕事なので」
「え…?」
「サイラス殿下にも、そう言われています。だから今回も、私の言葉に殿下は大人しく従ってくれているのですわ」
先程まで殿下に怒っていたのとは対照的な優しい表情でレイラが笑った。
「帝国の皇子妃になるはずだった方が、サイラス殿下の元に嫁ぐと伺ったときは、複雑な気持ちでしたけど…」
「……」
「実際にお会いしたら、そんなことはどうでも良くなりました」
「え…?」
「サイラス殿下の奥様として、ロザリア妃殿下以上に相応しい方はいません。私の人生を掛けて尽くすつもりです」
そう言って、レイラは私の方をまっすぐ向いて、深く頭を下げた。
◇
「ところで、殿下が贈ってくるのは、いつもこの薔薇ですね」
レイラが "ロゼ・ブランシュ" を見る。窓辺から入る朝の光に照らされ、淡桃色の花心から花びらが純白に変わっていくグラデーションが綺麗だ。
「殿下も、毎日違う薔薇を贈るぐらいすればいいのに、気が利かないですね」
「ふふ。庭に咲く薔薇の中で、その薔薇が私に一番似合うと仰っていたわ」
そう答えて、レイラに微笑む。
「まぁ…確かに。品が良くてロザリア妃殿下によく似合いますね」
「ありがとう」
「だからと言って、薔薇ぐらいでは、妃殿下を寝込ませた殿下を私は許しませんけど!」
「ふふ。頼もしい専属メイドね」
そう言って私はレイラと笑い合った。
窓辺で咲く "ロゼ・ブランシュ" を見て少しだけ思う。サイラス殿下が本当に薔薇を贈りたいのは、別の相手ではないのかしら、と。
そして、その相手には、殿下も情熱的な『真紅の薔薇』を贈るのではないかしら…
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説

あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?
待鳥園子
恋愛
幼馴染みで従兄弟の王太子から、女避けのための婚約者になって欲しいと頼まれていた令嬢。いよいよ自分の婚期を逃してしまうと焦り、そろそろ婚約解消したいと申し込む。
女避け要員だったはずなのにつれない王太子をずっと一途に好きな伯爵令嬢と、色々と我慢しすぎて良くわからなくなっている王太子のもだもだした恋愛事情。
その日がくるまでは
キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。
私は彼の事が好き。
今だけでいい。
彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。
この想いを余す事なく伝えたい。
いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。
わたしは、彼に想いを伝え続ける。
故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。
ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。
確実に訪れる、別れのその日がくるまで。
完全ご都合、ノーリアリティです。
誤字脱字、お許しくださいませ。
小説家になろうさんにも時差投稿します。

女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…

9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。
結婚だってそうだった。
良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。
夫の9番目の妻だと知るまでは――
「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」
嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。
※最後はさくっと終わっております。
※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
無能令嬢だと見離された私ですが、美貌の公爵様がなぜか放っておいてくれません
天宮叶
恋愛
魔法使いの名門であるエルシー伯爵家に産まれたルーナ。
期待されながら育てられたルーナだったが、魔力測定の儀式を受けた際に魔力がないことがわかってしまう。
そして魔力のないルーナのことを両親は咎め、空気のように扱うようになった。また妹であるケティが膨大な魔力を有しているとわかると、ルーナの扱いはますます酷くなってしまう。
ある日、ケティの引き立て役として一緒に参加したデビュタント。
そこでルーナは周りから無能令嬢だと馬鹿にされてしまう。
さらに男に絡まれてしまい、困っていると美貌の公爵と呼ばれているフェリクスが通りかかり助けてくれる。
フェリクスにお礼を伝えて別れようとしたルーナだったが、なぜかフェリクスに呼び止められてしまう。
さらにルーナにはフェリクスの魅了の魔法が効かないことがわかり──
無能だと馬鹿にされてきた令嬢が、天才魔法使いの公爵の力を借りて、強く成長していくファンタジーラブロマンスです!
よろしくお願いします(●´ω`●)

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる