公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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~3. 深瞳の恋慕~

妃教育の癖

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ベッドからろくに立ち上がれなかった3日間、わたくしは書物に没頭した。レリック公国に関する書物から目ぼしいものを執事のルバートに選んでもらい、片っ端から目を通した。

「物凄いスピードで読んでおられますね…」

新しい書物を持参したルバートがそう言いながら、ベッドサイドに散らばる読み終えた書物を揃えた。

サイラス殿下との婚姻は急だったこともあり、わたくしはこの国について事前に学ぶ時間をほとんど取ることができなかった。

もちろん帝国の妃教育の中でこの国の基本的な事は学んではいるけれど、それは近隣国に対する表面的な知識に過ぎなかった。自分がこの国の王族の一員として生きていくには、全く以って不十分だ。

「どんどん読めるのはルバートが選んでくる本が面白いからだわ。さすがレリック公国王家の執事ね」
「歴史書に法律、貿易…、これらの本にそのような感想を言う女性など、見たことないですよ…」

そう言ってルバートは苦笑した。



アーサー皇子の婚約者に決まったのは、わたくしが五歳になった年だった。それ以来、妃教育はわたくしの生活のほとんどの時間を占めていた。

中には厳しい教育もあったけれど、幼い頃からそうであったから、何かを学ぶことは苦ではなかった。自分が興味を持ったことであれば尚更だ。

わたくしとは対称的に、婚約相手であるアーサー皇子はそういった勉学を苦手としていた。事あるごとにわたくしと比較され、彼はおそらくわたくしを疎ましく思っていたのではないかと思う。

それでも、彼を支えるのがわたくしすべきことと思っていた。大国であるセントレア帝国の皇子妃になるために必要なことは、目の前のまだ浅慮なアーサー皇子に気に入られるか否かではない。

彼が皇子として自分の向き合うべきことに気付いたとき、相応しい婚約者であろうと思った。それまで、アーサー皇子が苦手なことはわたくしがカバーすればいい。

日々学ぶことの全てが、将来、セントレア帝国の王となるアーサー皇子を支えるために必要なものだと信じていた。



「妃殿下の様子をサイラス殿下に話したら、言葉を失っておりました」

そう言って、ルバートが思い出したように笑う。

「……?」
「殿下の部屋の本棚を漁っている僕を見て、そんなマニアックな本をどうするのか、と」

そう言って、ルバートはわたくしが今ちょうど膝の上に広げている本に視線を送る。"北方諸国産固有麦の品種改良と栽培法の遷移"。レリック公国を始め、植物の育ちづらい北方の国々にはこのような技術があるのかと、感心して読んでいたところなのだけれど…

「あ…。こんな本を読む妻など、生意気だと思われた…かしら…?」

…失敗した。わたくしはもうセントレア帝国の皇子妃になる訳ではないし、アーサー皇子と違い、勤勉で聡明なサイラス殿下はわたくしの助けなど必要ないだろう。

ベッドから出られないのであれば、大人しく刺繍でもしていた方がよっぽど印象が良かったはずだ。

「生意気だなんて、まさか。嬉しそうに笑っておられましたよ」
「う、嬉しそうに…?」

どういうことだろう…。麦の栽培に何か困っていらっしゃるのか、それとも可笑しな妻だと思われたのか…

「早く妃殿下に会いたがってました」
「……?」

キョトンとするわたくしに、ルバートは優しく微笑んでいた。
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