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~2. 王位継承権~
憧れ
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「で、兄上とは何回寝たの」
「─…ッ! ゴホ…ッ」
口に含んでいた紅茶に思わず咽る。ちょうど昨夜のことを思い出していただけに尚更だ。
「汚いなぁ…。それでも兄上の妃なの?」
…誰のせいだ。貴方こそ、それでもサイラス殿下の弟君なのかと聞きたいぐらいだ。
「で。兄上とは寝たの? 寝てないの?」
「そんなこと、言える訳ありませんわ」
毅然とそう答える。王子とはいえ、まだ15歳の子供がなんてことを聞いてくるのだ。
「…まぁ、どうせ白い結婚でしょ。何かうまい交換条件を持ち込んだんだろうけど、アンタみたいな女を押し付けられた兄上が可哀想だ」
実は白い結婚ではないこと以外は、本当に全く以ってその通りなのだけど、どこか腹が立つのは彼の口調によるものなのだろうか。
それにしても。クラウス王子の言動と、私への対抗心。先ほどから、もしかして、と思っていることがある。私の読みが正しければ、彼はおそらく…
「あの、クラウス殿下…?」
「なに?」
「クラウス殿下は、サイラス殿下のことを、慕っておられるのでは…?」
私のその言葉に、彼は瞬時に苦虫を噛み潰したような顔をした。その顔を見て、私は「あぁ、やっぱり」と心の中で小さく微笑んだ。
彼はサイラス殿下を心から慕っている。その癖、その気持ちを隠そうとする随分とツンデレ気質みたいだ。
◇
「僕が兄上を慕ってるって、なにバカなこと言ってんの?」
私に冷たい視線を向けて、クラウス王子がそう言う。よく見ると、髪で半分隠れた耳が赤くなっている。
「あら、失礼いたしました」
謝りながらも確信する。やはり、彼は根は素直で可愛い御方みたいだ。
先ほどから私に当たりが厳しかったのは、大好きなサイラス殿下の妻にどこの馬の骨ともわからぬ私が突然嫁いできたから。嫌味をぶつけながら、さしずめ品定めをされていたというところか。
「なに見てるんだよ」
「いえ、何でもございませんわ」
そう言って、私は緩みそうになる表情を、しれっと元に戻す。こうなってしまっては、もはや嫌味を言われても、可愛らしい子犬に威嚇されているようなものだ。
彼がサイラス殿下に憧れる気持ちは私にもよくわかる。聡明で逞しく、人望も厚い完璧な兄上。きっとクラウス殿下の目標なのだろう。
だけど、実の兄上だからこそ、表立っては素直になれない部分もある。第一王子としてのプライドもあるだろう。
そう思うと、何とも微笑ましい。理由がわかってしまえば、先程からの彼の憎まれ口も一気に可愛く思えてくる。
「─…ッ! ゴホ…ッ」
口に含んでいた紅茶に思わず咽る。ちょうど昨夜のことを思い出していただけに尚更だ。
「汚いなぁ…。それでも兄上の妃なの?」
…誰のせいだ。貴方こそ、それでもサイラス殿下の弟君なのかと聞きたいぐらいだ。
「で。兄上とは寝たの? 寝てないの?」
「そんなこと、言える訳ありませんわ」
毅然とそう答える。王子とはいえ、まだ15歳の子供がなんてことを聞いてくるのだ。
「…まぁ、どうせ白い結婚でしょ。何かうまい交換条件を持ち込んだんだろうけど、アンタみたいな女を押し付けられた兄上が可哀想だ」
実は白い結婚ではないこと以外は、本当に全く以ってその通りなのだけど、どこか腹が立つのは彼の口調によるものなのだろうか。
それにしても。クラウス王子の言動と、私への対抗心。先ほどから、もしかして、と思っていることがある。私の読みが正しければ、彼はおそらく…
「あの、クラウス殿下…?」
「なに?」
「クラウス殿下は、サイラス殿下のことを、慕っておられるのでは…?」
私のその言葉に、彼は瞬時に苦虫を噛み潰したような顔をした。その顔を見て、私は「あぁ、やっぱり」と心の中で小さく微笑んだ。
彼はサイラス殿下を心から慕っている。その癖、その気持ちを隠そうとする随分とツンデレ気質みたいだ。
◇
「僕が兄上を慕ってるって、なにバカなこと言ってんの?」
私に冷たい視線を向けて、クラウス王子がそう言う。よく見ると、髪で半分隠れた耳が赤くなっている。
「あら、失礼いたしました」
謝りながらも確信する。やはり、彼は根は素直で可愛い御方みたいだ。
先ほどから私に当たりが厳しかったのは、大好きなサイラス殿下の妻にどこの馬の骨ともわからぬ私が突然嫁いできたから。嫌味をぶつけながら、さしずめ品定めをされていたというところか。
「なに見てるんだよ」
「いえ、何でもございませんわ」
そう言って、私は緩みそうになる表情を、しれっと元に戻す。こうなってしまっては、もはや嫌味を言われても、可愛らしい子犬に威嚇されているようなものだ。
彼がサイラス殿下に憧れる気持ちは私にもよくわかる。聡明で逞しく、人望も厚い完璧な兄上。きっとクラウス殿下の目標なのだろう。
だけど、実の兄上だからこそ、表立っては素直になれない部分もある。第一王子としてのプライドもあるだろう。
そう思うと、何とも微笑ましい。理由がわかってしまえば、先程からの彼の憎まれ口も一気に可愛く思えてくる。
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