6 / 75
〜1. 婚約破棄と代替の婚姻〜
二度目の夜*
しおりを挟む
「な…っ、何をなさいますの…!?」
サイラス殿下の部屋。キングサイズよりもっと広いベッドの中央で、私は両脚を端なく開かされていた。
「何って、此処を舐めようかと…」
「舐…っ!?」
とんでもないことを言い出すサイラス殿下に、私の声が裏返った。先程から必死に閉じようとしている脚は、サイラス殿下の腕の力で、いとも簡単に封じられている。
「そ…、そんな箇所を、舐めて…、どうしますの…」
「もちろん、貴女が悦くなるよう頑張るが…」
「─…っ!?」
頭の中が混乱している。"悦くなる" とは気持ち良くなるということだろうか。こんなふうに端なく脚を拡げ、男性に舐められて感じるなど、淑女として何かを失うような気がする。
「こ、こんな行為は、閨教育でも習っていませんわ…」
「あー…、まぁな…。僕は、貴女にならしたいと思うのだが…」
習わないということは、こんな破廉恥なことは普通はしないということだろうか。サイラス殿下が望むのなら従うのが妻の役目だとは思うが、さすがにこれは羞恥心が勝る。
「や、やっぱり駄目ですわ…。で、殿下ともあろう方が、そんな箇所に口をつけては…」
「駄目じゃないさ。それに貴女の此処は、甘い花の香りがして、随分と美味そうだ」
「そ、それは、ただの香油の香りで…」
「はは。準備万端じゃないか」
おかしい。これ以上、私を抱く義務はないことをしっかり話そうと思っていたはずなのに、何がどうして、こんな展開になってしまったのだろうか。
◇
レイラ達に準備を整えられてサイラス殿下の部屋を訪ねたのは、ほんの30分ほど前のことだった。
「こ、こんばんは…」
「あぁ、ロザリア。待っていた」
私を笑顔で迎え入れてくれたサイラス殿下は湯浴みを済ませたようで、心地良い石鹸の香りがした。
「失礼致します…」
殿下の部屋に入るのは、一週間前のあの日以来。初夜を迎えたベッドが視界に入り、私は慌てて目を逸らした。
「寒いか? 指先が冷たいな…」
そう言って、エスコートする私の指先に殿下が視線を向けた。
「あ、いえ…、だ、大丈夫ですわ…」
咄嗟にそう答えたものの、本当は緊張していた。顔には出ないようにしていたつもりだったが、指先が冷たくなっていたのは盲点だった。
「少し部屋の温度を上げよう。貴女はそこに座っていてくれ」
そう言って私をソファへ座らせると、殿下は暖炉に薪を焚べてくれる。
逞しい腕。薄い寝着姿だと鍛えている体格がよくわかる。あの大きな身体に抱かれたのだと思ったらカァっと頬が火照って、慌てて首を左右に振った。
「ご公務、少し落ち着かれたのですね」
「あぁ。来て早々の貴女を放っておいてすまなかったな」
「いえ。サイラス殿下は働き過ぎだと、皆さん心配していらしたわ」
「仕事人間だと呆れていただろう?」
「まさか! 少しは休むように私からも殿下に言って欲しいと頼まれたぐらいで…」
…余計なことを言ったかもしれない。私が殿下に言ったところで何の効果もないだろうと、ルバート達と話したときも思ったというのに。
「…確かに、貴女が相手をしてくれるのなら、公務など喜んで止めてしまう気がするな」
「え…?」
「そんなこと言うのはルバートだろう?」
「そう…ですけど…」
サイラス殿下が可笑しそうに笑う。どうしてルバートだとわかったのだろう。というか、今の言葉を私はどう受け取れば良いのかしら…
戸惑う私に近づき、殿下が再び手を取った。
「指先が温まってきたな」
そう微笑んだサイラス殿下は、そのまま私を引き寄せて、優しい口吻をした。
サイラス殿下の部屋。キングサイズよりもっと広いベッドの中央で、私は両脚を端なく開かされていた。
「何って、此処を舐めようかと…」
「舐…っ!?」
とんでもないことを言い出すサイラス殿下に、私の声が裏返った。先程から必死に閉じようとしている脚は、サイラス殿下の腕の力で、いとも簡単に封じられている。
「そ…、そんな箇所を、舐めて…、どうしますの…」
「もちろん、貴女が悦くなるよう頑張るが…」
「─…っ!?」
頭の中が混乱している。"悦くなる" とは気持ち良くなるということだろうか。こんなふうに端なく脚を拡げ、男性に舐められて感じるなど、淑女として何かを失うような気がする。
「こ、こんな行為は、閨教育でも習っていませんわ…」
「あー…、まぁな…。僕は、貴女にならしたいと思うのだが…」
習わないということは、こんな破廉恥なことは普通はしないということだろうか。サイラス殿下が望むのなら従うのが妻の役目だとは思うが、さすがにこれは羞恥心が勝る。
「や、やっぱり駄目ですわ…。で、殿下ともあろう方が、そんな箇所に口をつけては…」
「駄目じゃないさ。それに貴女の此処は、甘い花の香りがして、随分と美味そうだ」
「そ、それは、ただの香油の香りで…」
「はは。準備万端じゃないか」
おかしい。これ以上、私を抱く義務はないことをしっかり話そうと思っていたはずなのに、何がどうして、こんな展開になってしまったのだろうか。
◇
レイラ達に準備を整えられてサイラス殿下の部屋を訪ねたのは、ほんの30分ほど前のことだった。
「こ、こんばんは…」
「あぁ、ロザリア。待っていた」
私を笑顔で迎え入れてくれたサイラス殿下は湯浴みを済ませたようで、心地良い石鹸の香りがした。
「失礼致します…」
殿下の部屋に入るのは、一週間前のあの日以来。初夜を迎えたベッドが視界に入り、私は慌てて目を逸らした。
「寒いか? 指先が冷たいな…」
そう言って、エスコートする私の指先に殿下が視線を向けた。
「あ、いえ…、だ、大丈夫ですわ…」
咄嗟にそう答えたものの、本当は緊張していた。顔には出ないようにしていたつもりだったが、指先が冷たくなっていたのは盲点だった。
「少し部屋の温度を上げよう。貴女はそこに座っていてくれ」
そう言って私をソファへ座らせると、殿下は暖炉に薪を焚べてくれる。
逞しい腕。薄い寝着姿だと鍛えている体格がよくわかる。あの大きな身体に抱かれたのだと思ったらカァっと頬が火照って、慌てて首を左右に振った。
「ご公務、少し落ち着かれたのですね」
「あぁ。来て早々の貴女を放っておいてすまなかったな」
「いえ。サイラス殿下は働き過ぎだと、皆さん心配していらしたわ」
「仕事人間だと呆れていただろう?」
「まさか! 少しは休むように私からも殿下に言って欲しいと頼まれたぐらいで…」
…余計なことを言ったかもしれない。私が殿下に言ったところで何の効果もないだろうと、ルバート達と話したときも思ったというのに。
「…確かに、貴女が相手をしてくれるのなら、公務など喜んで止めてしまう気がするな」
「え…?」
「そんなこと言うのはルバートだろう?」
「そう…ですけど…」
サイラス殿下が可笑しそうに笑う。どうしてルバートだとわかったのだろう。というか、今の言葉を私はどう受け取れば良いのかしら…
戸惑う私に近づき、殿下が再び手を取った。
「指先が温まってきたな」
そう微笑んだサイラス殿下は、そのまま私を引き寄せて、優しい口吻をした。
10
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる