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〜1. 婚約破棄と代替の婚姻〜
二度目の夜*
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「な…っ、何をなさいますの…!?」
サイラス殿下の部屋。キングサイズよりもっと広いベッドの中央で、私は両脚を端なく開かされていた。
「何って、此処を舐めようかと…」
「舐…っ!?」
とんでもないことを言い出すサイラス殿下に、私の声が裏返った。先程から必死に閉じようとしている脚は、サイラス殿下の腕の力で、いとも簡単に封じられている。
「そ…、そんな箇所を、舐めて…、どうしますの…」
「もちろん、貴女が悦くなるよう頑張るが…」
「─…っ!?」
頭の中が混乱している。"悦くなる" とは気持ち良くなるということだろうか。こんなふうに端なく脚を拡げ、男性に舐められて感じるなど、淑女として何かを失うような気がする。
「こ、こんな行為は、閨教育でも習っていませんわ…」
「あー…、まぁな…。僕は、貴女にならしたいと思うのだが…」
習わないということは、こんな破廉恥なことは普通はしないということだろうか。サイラス殿下が望むのなら従うのが妻の役目だとは思うが、さすがにこれは羞恥心が勝る。
「や、やっぱり駄目ですわ…。で、殿下ともあろう方が、そんな箇所に口をつけては…」
「駄目じゃないさ。それに貴女の此処は、甘い花の香りがして、随分と美味そうだ」
「そ、それは、ただの香油の香りで…」
「はは。準備万端じゃないか」
おかしい。これ以上、私を抱く義務はないことをしっかり話そうと思っていたはずなのに、何がどうして、こんな展開になってしまったのだろうか。
◇
レイラ達に準備を整えられてサイラス殿下の部屋を訪ねたのは、ほんの30分ほど前のことだった。
「こ、こんばんは…」
「あぁ、ロザリア。待っていた」
私を笑顔で迎え入れてくれたサイラス殿下は湯浴みを済ませたようで、心地良い石鹸の香りがした。
「失礼致します…」
殿下の部屋に入るのは、一週間前のあの日以来。初夜を迎えたベッドが視界に入り、私は慌てて目を逸らした。
「寒いか? 指先が冷たいな…」
そう言って、エスコートする私の指先に殿下が視線を向けた。
「あ、いえ…、だ、大丈夫ですわ…」
咄嗟にそう答えたものの、本当は緊張していた。顔には出ないようにしていたつもりだったが、指先が冷たくなっていたのは盲点だった。
「少し部屋の温度を上げよう。貴女はそこに座っていてくれ」
そう言って私をソファへ座らせると、殿下は暖炉に薪を焚べてくれる。
逞しい腕。薄い寝着姿だと鍛えている体格がよくわかる。あの大きな身体に抱かれたのだと思ったらカァっと頬が火照って、慌てて首を左右に振った。
「ご公務、少し落ち着かれたのですね」
「あぁ。来て早々の貴女を放っておいてすまなかったな」
「いえ。サイラス殿下は働き過ぎだと、皆さん心配していらしたわ」
「仕事人間だと呆れていただろう?」
「まさか! 少しは休むように私からも殿下に言って欲しいと頼まれたぐらいで…」
…余計なことを言ったかもしれない。私が殿下に言ったところで何の効果もないだろうと、ルバート達と話したときも思ったというのに。
「…確かに、貴女が相手をしてくれるのなら、公務など喜んで止めてしまう気がするな」
「え…?」
「そんなこと言うのはルバートだろう?」
「そう…ですけど…」
サイラス殿下が可笑しそうに笑う。どうしてルバートだとわかったのだろう。というか、今の言葉を私はどう受け取れば良いのかしら…
戸惑う私に近づき、殿下が再び手を取った。
「指先が温まってきたな」
そう微笑んだサイラス殿下は、そのまま私を引き寄せて、優しい口吻をした。
サイラス殿下の部屋。キングサイズよりもっと広いベッドの中央で、私は両脚を端なく開かされていた。
「何って、此処を舐めようかと…」
「舐…っ!?」
とんでもないことを言い出すサイラス殿下に、私の声が裏返った。先程から必死に閉じようとしている脚は、サイラス殿下の腕の力で、いとも簡単に封じられている。
「そ…、そんな箇所を、舐めて…、どうしますの…」
「もちろん、貴女が悦くなるよう頑張るが…」
「─…っ!?」
頭の中が混乱している。"悦くなる" とは気持ち良くなるということだろうか。こんなふうに端なく脚を拡げ、男性に舐められて感じるなど、淑女として何かを失うような気がする。
「こ、こんな行為は、閨教育でも習っていませんわ…」
「あー…、まぁな…。僕は、貴女にならしたいと思うのだが…」
習わないということは、こんな破廉恥なことは普通はしないということだろうか。サイラス殿下が望むのなら従うのが妻の役目だとは思うが、さすがにこれは羞恥心が勝る。
「や、やっぱり駄目ですわ…。で、殿下ともあろう方が、そんな箇所に口をつけては…」
「駄目じゃないさ。それに貴女の此処は、甘い花の香りがして、随分と美味そうだ」
「そ、それは、ただの香油の香りで…」
「はは。準備万端じゃないか」
おかしい。これ以上、私を抱く義務はないことをしっかり話そうと思っていたはずなのに、何がどうして、こんな展開になってしまったのだろうか。
◇
レイラ達に準備を整えられてサイラス殿下の部屋を訪ねたのは、ほんの30分ほど前のことだった。
「こ、こんばんは…」
「あぁ、ロザリア。待っていた」
私を笑顔で迎え入れてくれたサイラス殿下は湯浴みを済ませたようで、心地良い石鹸の香りがした。
「失礼致します…」
殿下の部屋に入るのは、一週間前のあの日以来。初夜を迎えたベッドが視界に入り、私は慌てて目を逸らした。
「寒いか? 指先が冷たいな…」
そう言って、エスコートする私の指先に殿下が視線を向けた。
「あ、いえ…、だ、大丈夫ですわ…」
咄嗟にそう答えたものの、本当は緊張していた。顔には出ないようにしていたつもりだったが、指先が冷たくなっていたのは盲点だった。
「少し部屋の温度を上げよう。貴女はそこに座っていてくれ」
そう言って私をソファへ座らせると、殿下は暖炉に薪を焚べてくれる。
逞しい腕。薄い寝着姿だと鍛えている体格がよくわかる。あの大きな身体に抱かれたのだと思ったらカァっと頬が火照って、慌てて首を左右に振った。
「ご公務、少し落ち着かれたのですね」
「あぁ。来て早々の貴女を放っておいてすまなかったな」
「いえ。サイラス殿下は働き過ぎだと、皆さん心配していらしたわ」
「仕事人間だと呆れていただろう?」
「まさか! 少しは休むように私からも殿下に言って欲しいと頼まれたぐらいで…」
…余計なことを言ったかもしれない。私が殿下に言ったところで何の効果もないだろうと、ルバート達と話したときも思ったというのに。
「…確かに、貴女が相手をしてくれるのなら、公務など喜んで止めてしまう気がするな」
「え…?」
「そんなこと言うのはルバートだろう?」
「そう…ですけど…」
サイラス殿下が可笑しそうに笑う。どうしてルバートだとわかったのだろう。というか、今の言葉を私はどう受け取れば良いのかしら…
戸惑う私に近づき、殿下が再び手を取った。
「指先が温まってきたな」
そう微笑んだサイラス殿下は、そのまま私を引き寄せて、優しい口吻をした。
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