公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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〜1. 婚約破棄と代替の婚姻〜

サイラス・ヴァン・レリック

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「ねぇ、レイラ。いささか頑張り過ぎではないかしら…」
「何を仰ってるんです! 今頑張らずにいつ頑張るんですか!」

レイラの勢いにたじろぐ。わたくしの専属メイドとして、彼女が頑張る場面はもっと他にも色々あると思うのだけど、今日のレイラは一段と気合が入っている。

理由はサイラス殿下だ。昨夜話した通り、彼は公務が少し落ち着いたらしく、今日は夕方には執務室を出て、わたくしと夕食を共にしてくれた。

そして、食事が終わり、自室へ戻ろうとしたところで呼び止められた。

「できれば今夜は、貴女と過ごせたらと思っているのだが…」

その言葉をわたくしの後ろで聞いていたレイラは、その場では平静を保っていたが、部屋に戻るなり瞳を輝かせてメイド達を総動員し、今に至るというわけだ。

「見ましたか? サイラス殿下のあの表情…! ロザリア妃殿下を熱く見つめていらして…」

…そうだったろうか。レイラから見たサイラス殿下とわたくしは、レイラ自身の願望フィルターのようなものが掛かっている気がする。



レイラも含め、サイラス殿下に遣える使用人たちは皆、彼のことをとても慕っていた。まだここに来て間もないわたくしの目から見ても、その理由は明白だった。

聡明で冷静沈着。地位のある立場にありながら、彼は部下や使用人の一人一人にまで目をかけ、驕り高ぶるような素振りは微塵もない。人格者で理想的なあるじだ。

そんな人望の厚いサイラス殿下に押し付けられた "いわく付き" の妃。わたくしに対して反発でもありそうなものなのに、彼の部下やメイド達の態度は丁重で温かかった。

優しく接してもらうたび、申し訳なく思った。本来ならばサイラス殿下には、わたくしよりもよっぽど相応しい令嬢がいたに違いないのに。



それにしても。初夜の時も思ったけれど、閨の前の女性というのは、誰しもがこんなに大変なものなのかしら…

湯あみではこちらの羞恥心など構わぬ勢いで身体中を念入りに磨かれ(!)、全身を丁寧にスキンケアされた後、高価な香油を贅沢に使い、髪と肌に甘い花の香りを纏う。

袖を通した肌触りの良い絹の寝着は、初夜に着たものとはまた違うデザイン。繊細なレースが幾重にも紡がれて可愛らしいけれど、果たして寝着はあと何着用意されているのだろう。

「殿下はお仕事で疲れているのだし、こんなに準備をしても、今夜はただ眠るだけかもしれないわ…」

一週間前に初夜を経験して思ったのは、閨というのは想像以上に体力を使うものなのだということ。最中はサイラス殿下も辛そうなお顔をしてらしたし、今日のように仕事で疲れているときには難しいのではないかしら。

「何仰ってるんですか! ただ眠るだけなんて、こんなに美しいロザリア妃殿下を前にして、そんなわけないじゃないですか!」

その言葉に小さく微笑む。普通の夫婦ならば、そうなのだろう。だけどわたくしたちは違う。

白い結婚で構わなかったのに、すでに初夜に抱いていただいた。これでもうわたくしたちは正式な夫婦のていを満たしている。

だからもうこれ以上、サイラス殿下がわたくしに対して不要な義務を果たす必要はないことを、わたくしの口からも伝えたほうが良いだろう。
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