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〜0. プロローグ〜
白い結婚
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「あ、あの…!」
新月の静まり返った春の夜。オレンジ色の柔らかなロウソクの灯りの部屋で、繊細なレースが豪華にほどこされた寝着を纏った私は、ベッドの上で逞しい腕の中で抱き締められていた。
「な、なにを、なさるのですか…!?」
私を抱き締めるこの男性は、レリック公国の第二王子、サイラス・ヴァン・レリック殿下。この方と私は、今日の昼間に婚姻を結んだ。
つまり今夜はいわゆる "初夜" なのだけど、私たちの場合は少し事情が違った。この結婚は単なる利害関係の一致。"白い結婚"だと聞かされ、私はレリック公国に嫁いで来た。
「何って、おかしなことを聞くのだな。貴女は今日、僕の妻になったというのに」
「で、ですが…っ」
骨張った大きな手に、私の胸元のリボンが緩められていく。聞いていた話と違う。
「帝国でも閨教育は受けただろう? まぁ、戸惑う顔も、可愛いが…」
「か、かわ…っ!?」
柔らかく笑いながら、サイラス殿下が私の手の甲にキスをする。慈しむように、ちゅ…と触れた唇は、逞しい身体に反して優しい。
「ち、父から…っ、し、白い結婚…だと、聞いています…」
「…白い結婚?」
私の言葉に、サイラス殿下がキョトンとした顔をする。
「は、はい…。サイラス殿下は…、私に、こういう事を…、お望みではないと…」
私達の婚姻は両国の思惑が働いた結果だ。私を体よく追い出したかった帝国と、帝国王家に繋がりが深い者を迎え入れたかった公国。それ故に、第二王子であるサイラス殿下に私を押し付けるに至ったのだ。
そして、もう一つ。とある筋から、サイラス殿下には長年想いを寄せている令嬢がいると聞いている。叶わない恋に懸想し続ける彼に、公国陛下が私という正妻を添えただけで、サイラス殿下にはその気はないと。
「そ、その…、私も弁えておりますから…、正妻だからといって、無理に抱いていただかなくとも、構いません…」
きっと責任感が強い方なのだろう。無理矢理押し付けられた私のことも、妻としてちゃんと扱おうとしてくれているのだと思う。
「無理をしているつもりはないのだが…」
「え…? きゃ…っ!?」
ぐるんと視界が回って、柔らかいベッドに背中が沈む。つまりは、押し倒された形だ。
「貴女を妻に迎えられたことを、僕はこの上なく、嬉しく思っている」
「え…?」
「白い結婚にするつもりは毛頭ないから、貴女も覚悟するように」
優しい瞳が、私を捉えてそう笑う。その言葉の意味を理解する間もないまま、サイラス殿下が私に甘い口吻をした──
新月の静まり返った春の夜。オレンジ色の柔らかなロウソクの灯りの部屋で、繊細なレースが豪華にほどこされた寝着を纏った私は、ベッドの上で逞しい腕の中で抱き締められていた。
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つまり今夜はいわゆる "初夜" なのだけど、私たちの場合は少し事情が違った。この結婚は単なる利害関係の一致。"白い結婚"だと聞かされ、私はレリック公国に嫁いで来た。
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「か、かわ…っ!?」
柔らかく笑いながら、サイラス殿下が私の手の甲にキスをする。慈しむように、ちゅ…と触れた唇は、逞しい身体に反して優しい。
「ち、父から…っ、し、白い結婚…だと、聞いています…」
「…白い結婚?」
私の言葉に、サイラス殿下がキョトンとした顔をする。
「は、はい…。サイラス殿下は…、私に、こういう事を…、お望みではないと…」
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そして、もう一つ。とある筋から、サイラス殿下には長年想いを寄せている令嬢がいると聞いている。叶わない恋に懸想し続ける彼に、公国陛下が私という正妻を添えただけで、サイラス殿下にはその気はないと。
「そ、その…、私も弁えておりますから…、正妻だからといって、無理に抱いていただかなくとも、構いません…」
きっと責任感が強い方なのだろう。無理矢理押し付けられた私のことも、妻としてちゃんと扱おうとしてくれているのだと思う。
「無理をしているつもりはないのだが…」
「え…? きゃ…っ!?」
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「貴女を妻に迎えられたことを、僕はこの上なく、嬉しく思っている」
「え…?」
「白い結婚にするつもりは毛頭ないから、貴女も覚悟するように」
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