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選んだ答え
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土曜日から、及川くんのことを考えてばかりだ。考えないようにと思うのに、気付くと及川くんの顔が頭に浮かんでいた。
「おーい、早野…っ」
目の前10cmの至近距離で手を振られ、我に返る。
「あ、ごめん、鈴木くん。なに…?」
「字、ミミズ。何書いてんの」
そう言われて自分の手元を見てみれば、確かに文字とは呼べないミミズのようなものを書いていた。
慌てて消ゴムで消す。
今日は私が日直で、鈴木くんは日誌を書く私に付き合って残ってくれている。人を付き合わせておいて、ミミズを書いている場合ではない。
「なんか、今週に入ってから変だろ」
「そ、そんなこと…ないけど」
「さっきのリーディングで当たった時も変だった」
「え…?」
「和訳、速すぎ。いつももっとゆっくり訳してやってるくせに、今日のあれは完全に早野ペースだろ」
「そ、そうだった…?」
「うん。みんな目が点で、俺は面白かった」
そう言いながら、鈴木くんは笑った。
「早野がそんな上の空になるなんて、あの質問の答えでも出た?」
「え…っ」
鈴木くんが優しい表情で私を見る。
答えは、出たといえば、出た。
でも、この答えにはもう意味がない。及川くんは他の女の子を選んだんだから。
なんでもっと早く自覚しなかったんだろう…?
こんな気持ちになるなら、気付かない方が良かった。
「早野…?なんでそんな泣きそうな顔して…」
いつも真っ直ぐ私を好きでいてくれる鈴木くん。そのうちきっと、私も好きになれる。
鈴木くんに甘えても許されるだろうか…
「私、鈴木くんが想ってくれるのと同じぐらい、鈴木くんのこと好きになれるかな…」
「え…っ」
鈴木くんの動きが止まる。
「何それ。もしかして、俺を選ぶってこと…?」
そう確認する鈴木くんに、私は頷いた。言葉で返せるほどの決意がない自分に、ずるさを感じた。
「なるよ。ちゃんと好きにさせる」
真っ直ぐ私を見て、強い言葉で鈴木くんがそう言った。後悔とか罪悪感とか、色んな気持ちが我慢しきれずに涙が溢れた。
そんな私の頬に鈴木くんの手の平が触れて、指で優しく涙をぬぐってくれる。
「早野…、目、瞑って…」
キスの気配がした。
私は静かに、瞳を閉じた。
次の瞬間。
私は頬を強くつねられていた。
「い、痛…っ、な…んで…」
「ばーか。間違った答え出そうとしてんじゃねぇよ」
そう言って、目の前の鈴木くんは溜め息とともに呆れた顔をした。
「及川が好きって、顔に書いてあるよ」
「え…っ!」
「なのに、なんでそんな答え、出そうとすんの」
そう言いながら鈴木くんが優しく笑う。
なんで鈴木くんは、全部わかってしまうんだろう。
「ごめんなさい…」
私は素直に頭を下げて、まずは鈴木くんに謝った。
「鈴木くんの言う通り。私、及川くんのことが好きだった」
「うん…」
鈴木くんは穏やかな表情で、静かに頷いた。
「この2ヶ月、早野と一緒にいて、なんとなくわかってた」
「ごめんなさい…」
「謝らなくてもいいよ。楽しかったし」
「鈴木くん…」
「なんで俺を選ぼうとしたのかわかんないけどさ、気持ち、ちゃんと及川に伝えろよ」
鈴木くんのその言葉を聞いて、私は返事に詰まった。
見間違いじゃない。仲良さそうに手を繋いでいた。休みの日に会って、なんでもない相手と普通そんなことをするわけない…
「早野…?」
「駄目…なの。私、気付くのが遅かった…」
「何言ってんだよ。駄目なわけないだろ」
そう言う鈴木くんに、私は俯いて首を振った。
机の上に開かれた日誌のページをめくり、3月のカレンダーを鈴木くんが指を差す。
「早野、この日、何の日かわかる?」
3月4日…
来週の水曜日…
「学年末テストの日…?」
「そ。及川が始めた馬鹿な遊び、最後に早野も勝負してきなよ」
「え…?」
「何があったのか知らないけど、早野が勝負かけて、もし及川がお前じゃ駄目だなんて言うなら、今度こそちゃんと俺のこと好きにさせるから」
半分冗談のようにそう言って鈴木くんが笑う。
「せっかく気づいた気持ちなんだから、ちゃんと言ってこいよ」
そう強い瞳で励まされて、私はこれ以上ない勇気を貰った。
「おーい、早野…っ」
目の前10cmの至近距離で手を振られ、我に返る。
「あ、ごめん、鈴木くん。なに…?」
「字、ミミズ。何書いてんの」
そう言われて自分の手元を見てみれば、確かに文字とは呼べないミミズのようなものを書いていた。
慌てて消ゴムで消す。
今日は私が日直で、鈴木くんは日誌を書く私に付き合って残ってくれている。人を付き合わせておいて、ミミズを書いている場合ではない。
「なんか、今週に入ってから変だろ」
「そ、そんなこと…ないけど」
「さっきのリーディングで当たった時も変だった」
「え…?」
「和訳、速すぎ。いつももっとゆっくり訳してやってるくせに、今日のあれは完全に早野ペースだろ」
「そ、そうだった…?」
「うん。みんな目が点で、俺は面白かった」
そう言いながら、鈴木くんは笑った。
「早野がそんな上の空になるなんて、あの質問の答えでも出た?」
「え…っ」
鈴木くんが優しい表情で私を見る。
答えは、出たといえば、出た。
でも、この答えにはもう意味がない。及川くんは他の女の子を選んだんだから。
なんでもっと早く自覚しなかったんだろう…?
こんな気持ちになるなら、気付かない方が良かった。
「早野…?なんでそんな泣きそうな顔して…」
いつも真っ直ぐ私を好きでいてくれる鈴木くん。そのうちきっと、私も好きになれる。
鈴木くんに甘えても許されるだろうか…
「私、鈴木くんが想ってくれるのと同じぐらい、鈴木くんのこと好きになれるかな…」
「え…っ」
鈴木くんの動きが止まる。
「何それ。もしかして、俺を選ぶってこと…?」
そう確認する鈴木くんに、私は頷いた。言葉で返せるほどの決意がない自分に、ずるさを感じた。
「なるよ。ちゃんと好きにさせる」
真っ直ぐ私を見て、強い言葉で鈴木くんがそう言った。後悔とか罪悪感とか、色んな気持ちが我慢しきれずに涙が溢れた。
そんな私の頬に鈴木くんの手の平が触れて、指で優しく涙をぬぐってくれる。
「早野…、目、瞑って…」
キスの気配がした。
私は静かに、瞳を閉じた。
次の瞬間。
私は頬を強くつねられていた。
「い、痛…っ、な…んで…」
「ばーか。間違った答え出そうとしてんじゃねぇよ」
そう言って、目の前の鈴木くんは溜め息とともに呆れた顔をした。
「及川が好きって、顔に書いてあるよ」
「え…っ!」
「なのに、なんでそんな答え、出そうとすんの」
そう言いながら鈴木くんが優しく笑う。
なんで鈴木くんは、全部わかってしまうんだろう。
「ごめんなさい…」
私は素直に頭を下げて、まずは鈴木くんに謝った。
「鈴木くんの言う通り。私、及川くんのことが好きだった」
「うん…」
鈴木くんは穏やかな表情で、静かに頷いた。
「この2ヶ月、早野と一緒にいて、なんとなくわかってた」
「ごめんなさい…」
「謝らなくてもいいよ。楽しかったし」
「鈴木くん…」
「なんで俺を選ぼうとしたのかわかんないけどさ、気持ち、ちゃんと及川に伝えろよ」
鈴木くんのその言葉を聞いて、私は返事に詰まった。
見間違いじゃない。仲良さそうに手を繋いでいた。休みの日に会って、なんでもない相手と普通そんなことをするわけない…
「早野…?」
「駄目…なの。私、気付くのが遅かった…」
「何言ってんだよ。駄目なわけないだろ」
そう言う鈴木くんに、私は俯いて首を振った。
机の上に開かれた日誌のページをめくり、3月のカレンダーを鈴木くんが指を差す。
「早野、この日、何の日かわかる?」
3月4日…
来週の水曜日…
「学年末テストの日…?」
「そ。及川が始めた馬鹿な遊び、最後に早野も勝負してきなよ」
「え…?」
「何があったのか知らないけど、早野が勝負かけて、もし及川がお前じゃ駄目だなんて言うなら、今度こそちゃんと俺のこと好きにさせるから」
半分冗談のようにそう言って鈴木くんが笑う。
「せっかく気づいた気持ちなんだから、ちゃんと言ってこいよ」
そう強い瞳で励まされて、私はこれ以上ない勇気を貰った。
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