16 / 19
選んだ答え
しおりを挟む
土曜日から、及川くんのことを考えてばかりだ。考えないようにと思うのに、気付くと及川くんの顔が頭に浮かんでいた。
「おーい、早野…っ」
目の前10cmの至近距離で手を振られ、我に返る。
「あ、ごめん、鈴木くん。なに…?」
「字、ミミズ。何書いてんの」
そう言われて自分の手元を見てみれば、確かに文字とは呼べないミミズのようなものを書いていた。
慌てて消ゴムで消す。
今日は私が日直で、鈴木くんは日誌を書く私に付き合って残ってくれている。人を付き合わせておいて、ミミズを書いている場合ではない。
「なんか、今週に入ってから変だろ」
「そ、そんなこと…ないけど」
「さっきのリーディングで当たった時も変だった」
「え…?」
「和訳、速すぎ。いつももっとゆっくり訳してやってるくせに、今日のあれは完全に早野ペースだろ」
「そ、そうだった…?」
「うん。みんな目が点で、俺は面白かった」
そう言いながら、鈴木くんは笑った。
「早野がそんな上の空になるなんて、あの質問の答えでも出た?」
「え…っ」
鈴木くんが優しい表情で私を見る。
答えは、出たといえば、出た。
でも、この答えにはもう意味がない。及川くんは他の女の子を選んだんだから。
なんでもっと早く自覚しなかったんだろう…?
こんな気持ちになるなら、気付かない方が良かった。
「早野…?なんでそんな泣きそうな顔して…」
いつも真っ直ぐ私を好きでいてくれる鈴木くん。そのうちきっと、私も好きになれる。
鈴木くんに甘えても許されるだろうか…
「私、鈴木くんが想ってくれるのと同じぐらい、鈴木くんのこと好きになれるかな…」
「え…っ」
鈴木くんの動きが止まる。
「何それ。もしかして、俺を選ぶってこと…?」
そう確認する鈴木くんに、私は頷いた。言葉で返せるほどの決意がない自分に、ずるさを感じた。
「なるよ。ちゃんと好きにさせる」
真っ直ぐ私を見て、強い言葉で鈴木くんがそう言った。後悔とか罪悪感とか、色んな気持ちが我慢しきれずに涙が溢れた。
そんな私の頬に鈴木くんの手の平が触れて、指で優しく涙をぬぐってくれる。
「早野…、目、瞑って…」
キスの気配がした。
私は静かに、瞳を閉じた。
次の瞬間。
私は頬を強くつねられていた。
「い、痛…っ、な…んで…」
「ばーか。間違った答え出そうとしてんじゃねぇよ」
そう言って、目の前の鈴木くんは溜め息とともに呆れた顔をした。
「及川が好きって、顔に書いてあるよ」
「え…っ!」
「なのに、なんでそんな答え、出そうとすんの」
そう言いながら鈴木くんが優しく笑う。
なんで鈴木くんは、全部わかってしまうんだろう。
「ごめんなさい…」
私は素直に頭を下げて、まずは鈴木くんに謝った。
「鈴木くんの言う通り。私、及川くんのことが好きだった」
「うん…」
鈴木くんは穏やかな表情で、静かに頷いた。
「この2ヶ月、早野と一緒にいて、なんとなくわかってた」
「ごめんなさい…」
「謝らなくてもいいよ。楽しかったし」
「鈴木くん…」
「なんで俺を選ぼうとしたのかわかんないけどさ、気持ち、ちゃんと及川に伝えろよ」
鈴木くんのその言葉を聞いて、私は返事に詰まった。
見間違いじゃない。仲良さそうに手を繋いでいた。休みの日に会って、なんでもない相手と普通そんなことをするわけない…
「早野…?」
「駄目…なの。私、気付くのが遅かった…」
「何言ってんだよ。駄目なわけないだろ」
そう言う鈴木くんに、私は俯いて首を振った。
机の上に開かれた日誌のページをめくり、3月のカレンダーを鈴木くんが指を差す。
「早野、この日、何の日かわかる?」
3月4日…
来週の水曜日…
「学年末テストの日…?」
「そ。及川が始めた馬鹿な遊び、最後に早野も勝負してきなよ」
「え…?」
「何があったのか知らないけど、早野が勝負かけて、もし及川がお前じゃ駄目だなんて言うなら、今度こそちゃんと俺のこと好きにさせるから」
半分冗談のようにそう言って鈴木くんが笑う。
「せっかく気づいた気持ちなんだから、ちゃんと言ってこいよ」
そう強い瞳で励まされて、私はこれ以上ない勇気を貰った。
「おーい、早野…っ」
目の前10cmの至近距離で手を振られ、我に返る。
「あ、ごめん、鈴木くん。なに…?」
「字、ミミズ。何書いてんの」
そう言われて自分の手元を見てみれば、確かに文字とは呼べないミミズのようなものを書いていた。
慌てて消ゴムで消す。
今日は私が日直で、鈴木くんは日誌を書く私に付き合って残ってくれている。人を付き合わせておいて、ミミズを書いている場合ではない。
「なんか、今週に入ってから変だろ」
「そ、そんなこと…ないけど」
「さっきのリーディングで当たった時も変だった」
「え…?」
「和訳、速すぎ。いつももっとゆっくり訳してやってるくせに、今日のあれは完全に早野ペースだろ」
「そ、そうだった…?」
「うん。みんな目が点で、俺は面白かった」
そう言いながら、鈴木くんは笑った。
「早野がそんな上の空になるなんて、あの質問の答えでも出た?」
「え…っ」
鈴木くんが優しい表情で私を見る。
答えは、出たといえば、出た。
でも、この答えにはもう意味がない。及川くんは他の女の子を選んだんだから。
なんでもっと早く自覚しなかったんだろう…?
こんな気持ちになるなら、気付かない方が良かった。
「早野…?なんでそんな泣きそうな顔して…」
いつも真っ直ぐ私を好きでいてくれる鈴木くん。そのうちきっと、私も好きになれる。
鈴木くんに甘えても許されるだろうか…
「私、鈴木くんが想ってくれるのと同じぐらい、鈴木くんのこと好きになれるかな…」
「え…っ」
鈴木くんの動きが止まる。
「何それ。もしかして、俺を選ぶってこと…?」
そう確認する鈴木くんに、私は頷いた。言葉で返せるほどの決意がない自分に、ずるさを感じた。
「なるよ。ちゃんと好きにさせる」
真っ直ぐ私を見て、強い言葉で鈴木くんがそう言った。後悔とか罪悪感とか、色んな気持ちが我慢しきれずに涙が溢れた。
そんな私の頬に鈴木くんの手の平が触れて、指で優しく涙をぬぐってくれる。
「早野…、目、瞑って…」
キスの気配がした。
私は静かに、瞳を閉じた。
次の瞬間。
私は頬を強くつねられていた。
「い、痛…っ、な…んで…」
「ばーか。間違った答え出そうとしてんじゃねぇよ」
そう言って、目の前の鈴木くんは溜め息とともに呆れた顔をした。
「及川が好きって、顔に書いてあるよ」
「え…っ!」
「なのに、なんでそんな答え、出そうとすんの」
そう言いながら鈴木くんが優しく笑う。
なんで鈴木くんは、全部わかってしまうんだろう。
「ごめんなさい…」
私は素直に頭を下げて、まずは鈴木くんに謝った。
「鈴木くんの言う通り。私、及川くんのことが好きだった」
「うん…」
鈴木くんは穏やかな表情で、静かに頷いた。
「この2ヶ月、早野と一緒にいて、なんとなくわかってた」
「ごめんなさい…」
「謝らなくてもいいよ。楽しかったし」
「鈴木くん…」
「なんで俺を選ぼうとしたのかわかんないけどさ、気持ち、ちゃんと及川に伝えろよ」
鈴木くんのその言葉を聞いて、私は返事に詰まった。
見間違いじゃない。仲良さそうに手を繋いでいた。休みの日に会って、なんでもない相手と普通そんなことをするわけない…
「早野…?」
「駄目…なの。私、気付くのが遅かった…」
「何言ってんだよ。駄目なわけないだろ」
そう言う鈴木くんに、私は俯いて首を振った。
机の上に開かれた日誌のページをめくり、3月のカレンダーを鈴木くんが指を差す。
「早野、この日、何の日かわかる?」
3月4日…
来週の水曜日…
「学年末テストの日…?」
「そ。及川が始めた馬鹿な遊び、最後に早野も勝負してきなよ」
「え…?」
「何があったのか知らないけど、早野が勝負かけて、もし及川がお前じゃ駄目だなんて言うなら、今度こそちゃんと俺のこと好きにさせるから」
半分冗談のようにそう言って鈴木くんが笑う。
「せっかく気づいた気持ちなんだから、ちゃんと言ってこいよ」
そう強い瞳で励まされて、私はこれ以上ない勇気を貰った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる