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気付いた気持ち
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昼休み、自分の机で本を読んでいると、ふいに、ドアの所からうちのクラスを覗く及川くんが目に入った。
咄嗟に気付かない振りをして、手元の本に視線を落とす。
「あ、鈴木くん!」
そう呼ぶのが聞こえて、窓際の私の位置から二人の会話が聴こえるはずもないのに、つい耳を澄ましてしまう。
何の話をしているんだろう、そう思った矢先に、
「早野!」
鈴木くんが私を呼んだ。
「な、なに…?」
呼ばれるままにドアまで向かい、遠慮がちに聞く。
「及川がさ、話があるっていうんだ。俺も一緒でいいって言うんだけど、今日俺日直でさ、職員室呼ばれてるから。聞いてきなよ」
「え…っ、いいの、鈴木くん」
及川くんが驚いた顔をして鈴木くんを見る。
「いいよ。早野への嫌がらせの話だろ」
「う、うん」
「でも、どさくさに紛れて口説くなよ」
一言そう釘を指すと、鈴木くんはニッと笑って教室を出ていった。
「じゃあ、ちょっといいかな」
そう言って及川くんが廊下を歩き出す。
頷いて私も横を歩いた。
「まさか二人にさせてくれると思わなかったから、ちょっとびっくり」
頬を掻きながら及川くんが天井を見上げる。
同感だ。
そして、久しぶりのこの距離に、少し緊張する。
渡り廊下に出ると及川くんが立ち止まり、話し始めた。
「楓音ちゃんに嫌がらせしていた子、わかったよ」
「え…っ」
「鈴木くんの言う通り、俺に関係してた。ちゃんと話して、もうしないって約束してくれたから、もう大丈夫」
「そっ…か…」
「誰か知りたい?」
「う、ううん!もうしないなら、それでいい」
「うん。楓音ちゃんならそう言うと思った。嫌な思いさせてごめんね」
「ううん!あ、ありがとう。及川くん」
「なんで楓音ちゃんがお礼言うのさ」
そう言って呆れたような顔をして及川くんが笑った。優しい瞳と目が合って、急に恥ずかしくなって目を反らした。
「そ、それにしてもっ、やっぱり及川くんってモテるんだね…!」
「急に、何それ。つーか、モテてるの楓音ちゃんでしょ」
「え…、モテてないよ、何言ってるの…」
「鈴木くん。強敵すぎるでしょ」
そう言いながら、及川くんは困ったような顔をして笑った。
「楓音ちゃんの上履きに落書きされてた日さ」
「うん…?」
「あのとき、鈴木くんが言ってくれなかったら、俺は楓音ちゃんが嫌がらせされてるのに気付けなかった」
「…うん」
「俺のせいで楓音ちゃんが嫌がらせされてたのにな。鈴木くん、わざと教えてくれたのかな」
「思わず怒鳴ってしまったって言ってたけど…」
「どうかな。鈴木くん真っ直ぐだからね。楓音ちゃんじゃない子を好きになってくれれば良かったのに」
そう言って及川くんが笑った。
言葉とは裏腹に、穏やかな表情…
その顔を見て、ふと思った。及川くんって、もしかしたら、鈴木くんのこと結構好きなのかも。
性格が真反対だからこそ、惹かれるものがあるのかもしれない。
次の日は土曜日だった。
学校は休みだったけど、朝から予備校で模試だった。
全教科終わったのは夕方で、鈴木くんと駅まで帰ってきたのだけれど、あたしは駅の本屋に寄りたくて、改札の所で鈴木くんと別れた。
9階の本屋に向かおうとエスカレーターに乗ろうとしたところで、目の前のカップルに足が止まった。
エスカレーターの一段上には女の子。
見たことがある。名前まではわからないけど、及川くんのクラスの女の子だ。
一段下の男の子と仲良く繋がれた手。
女の子の嬉しそうな表情。
どう見たって仲良しのカップル。
だけど、そんなわけない。
あの後ろ姿も、一瞬見えた横顔も、
及川くんに間違いないのだ…
私は咄嗟に方向転換すると、改札に向かった。
なんで…?
帰り道、私の頭の中はその言葉でいっぱいだった。
及川くんが好きなのは、私ではなかったのだろうか。鈴木くんが強敵だと、昨日話していたばかりじゃないか。
人のことを好きだとか言っておいて、他の女の子とあんな風に手を繋いだり笑ったりできるなんて、信じられない。
いや、でもよく考えれば " 好きだ " という言葉を本人から聞いたのは一度しかない。現に私だって、及川くんの気持ちがどこまで本気かわからないと、疑っていた。
私が疑っていた通り、元々そこまで本気ではなかったということなんだろうか。
鈴木くんは私が答えを出すまで待てるよと言ってくれたけど、及川くんだってそうとは限らない。そもそも始まりだって、『ゲーム』だったじゃないか。
それにしたって…
一言ぐらい言ってくれたっていいじゃない。
どんなに優しくされても、いつもどこかで思っていた。及川くんが私なんかを好きになる理由がないと。
その通りだっただけのことだと自分に言い聞かせながら、胸が痛むのを抑えていた。
なのに、家に帰って部屋で一人になったら、涙が止まらなかった。
嬉しかったの。
勉強ばっかりだった私を、初めて女の子として扱ってくれた。
可愛いって言葉も、優しい笑顔も、私にとっては特別なものだった。
私を好きになる理由がないと予防線を張っていたけど、惹かれていた。
好きになって傷付くのが怖かっただけだ。
今なら、わかる。
私、及川くんが好きなんだ。
咄嗟に気付かない振りをして、手元の本に視線を落とす。
「あ、鈴木くん!」
そう呼ぶのが聞こえて、窓際の私の位置から二人の会話が聴こえるはずもないのに、つい耳を澄ましてしまう。
何の話をしているんだろう、そう思った矢先に、
「早野!」
鈴木くんが私を呼んだ。
「な、なに…?」
呼ばれるままにドアまで向かい、遠慮がちに聞く。
「及川がさ、話があるっていうんだ。俺も一緒でいいって言うんだけど、今日俺日直でさ、職員室呼ばれてるから。聞いてきなよ」
「え…っ、いいの、鈴木くん」
及川くんが驚いた顔をして鈴木くんを見る。
「いいよ。早野への嫌がらせの話だろ」
「う、うん」
「でも、どさくさに紛れて口説くなよ」
一言そう釘を指すと、鈴木くんはニッと笑って教室を出ていった。
「じゃあ、ちょっといいかな」
そう言って及川くんが廊下を歩き出す。
頷いて私も横を歩いた。
「まさか二人にさせてくれると思わなかったから、ちょっとびっくり」
頬を掻きながら及川くんが天井を見上げる。
同感だ。
そして、久しぶりのこの距離に、少し緊張する。
渡り廊下に出ると及川くんが立ち止まり、話し始めた。
「楓音ちゃんに嫌がらせしていた子、わかったよ」
「え…っ」
「鈴木くんの言う通り、俺に関係してた。ちゃんと話して、もうしないって約束してくれたから、もう大丈夫」
「そっ…か…」
「誰か知りたい?」
「う、ううん!もうしないなら、それでいい」
「うん。楓音ちゃんならそう言うと思った。嫌な思いさせてごめんね」
「ううん!あ、ありがとう。及川くん」
「なんで楓音ちゃんがお礼言うのさ」
そう言って呆れたような顔をして及川くんが笑った。優しい瞳と目が合って、急に恥ずかしくなって目を反らした。
「そ、それにしてもっ、やっぱり及川くんってモテるんだね…!」
「急に、何それ。つーか、モテてるの楓音ちゃんでしょ」
「え…、モテてないよ、何言ってるの…」
「鈴木くん。強敵すぎるでしょ」
そう言いながら、及川くんは困ったような顔をして笑った。
「楓音ちゃんの上履きに落書きされてた日さ」
「うん…?」
「あのとき、鈴木くんが言ってくれなかったら、俺は楓音ちゃんが嫌がらせされてるのに気付けなかった」
「…うん」
「俺のせいで楓音ちゃんが嫌がらせされてたのにな。鈴木くん、わざと教えてくれたのかな」
「思わず怒鳴ってしまったって言ってたけど…」
「どうかな。鈴木くん真っ直ぐだからね。楓音ちゃんじゃない子を好きになってくれれば良かったのに」
そう言って及川くんが笑った。
言葉とは裏腹に、穏やかな表情…
その顔を見て、ふと思った。及川くんって、もしかしたら、鈴木くんのこと結構好きなのかも。
性格が真反対だからこそ、惹かれるものがあるのかもしれない。
次の日は土曜日だった。
学校は休みだったけど、朝から予備校で模試だった。
全教科終わったのは夕方で、鈴木くんと駅まで帰ってきたのだけれど、あたしは駅の本屋に寄りたくて、改札の所で鈴木くんと別れた。
9階の本屋に向かおうとエスカレーターに乗ろうとしたところで、目の前のカップルに足が止まった。
エスカレーターの一段上には女の子。
見たことがある。名前まではわからないけど、及川くんのクラスの女の子だ。
一段下の男の子と仲良く繋がれた手。
女の子の嬉しそうな表情。
どう見たって仲良しのカップル。
だけど、そんなわけない。
あの後ろ姿も、一瞬見えた横顔も、
及川くんに間違いないのだ…
私は咄嗟に方向転換すると、改札に向かった。
なんで…?
帰り道、私の頭の中はその言葉でいっぱいだった。
及川くんが好きなのは、私ではなかったのだろうか。鈴木くんが強敵だと、昨日話していたばかりじゃないか。
人のことを好きだとか言っておいて、他の女の子とあんな風に手を繋いだり笑ったりできるなんて、信じられない。
いや、でもよく考えれば " 好きだ " という言葉を本人から聞いたのは一度しかない。現に私だって、及川くんの気持ちがどこまで本気かわからないと、疑っていた。
私が疑っていた通り、元々そこまで本気ではなかったということなんだろうか。
鈴木くんは私が答えを出すまで待てるよと言ってくれたけど、及川くんだってそうとは限らない。そもそも始まりだって、『ゲーム』だったじゃないか。
それにしたって…
一言ぐらい言ってくれたっていいじゃない。
どんなに優しくされても、いつもどこかで思っていた。及川くんが私なんかを好きになる理由がないと。
その通りだっただけのことだと自分に言い聞かせながら、胸が痛むのを抑えていた。
なのに、家に帰って部屋で一人になったら、涙が止まらなかった。
嬉しかったの。
勉強ばっかりだった私を、初めて女の子として扱ってくれた。
可愛いって言葉も、優しい笑顔も、私にとっては特別なものだった。
私を好きになる理由がないと予防線を張っていたけど、惹かれていた。
好きになって傷付くのが怖かっただけだ。
今なら、わかる。
私、及川くんが好きなんだ。
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