【完結】定期試験ゲーム 〜俺が勝ったら彼女になって〜

緑野 蜜柑

文字の大きさ
上 下
15 / 19

気付いた気持ち

しおりを挟む
昼休み、自分の机で本を読んでいると、ふいに、ドアの所からうちのクラスを覗く及川くんが目に入った。

咄嗟に気付かない振りをして、手元の本に視線を落とす。

「あ、鈴木くん!」

そう呼ぶのが聞こえて、窓際の私の位置から二人の会話が聴こえるはずもないのに、つい耳を澄ましてしまう。

何の話をしているんだろう、そう思った矢先に、

「早野!」

鈴木くんが私を呼んだ。

「な、なに…?」

呼ばれるままにドアまで向かい、遠慮がちに聞く。

「及川がさ、話があるっていうんだ。俺も一緒でいいって言うんだけど、今日俺日直でさ、職員室呼ばれてるから。聞いてきなよ」

「え…っ、いいの、鈴木くん」

及川くんが驚いた顔をして鈴木くんを見る。

「いいよ。早野への嫌がらせの話だろ」

「う、うん」

「でも、どさくさに紛れて口説くなよ」

一言そう釘を指すと、鈴木くんはニッと笑って教室を出ていった。


「じゃあ、ちょっといいかな」

そう言って及川くんが廊下を歩き出す。

頷いて私も横を歩いた。

「まさか二人にさせてくれると思わなかったから、ちょっとびっくり」

頬を掻きながら及川くんが天井を見上げる。

同感だ。
そして、久しぶりのこの距離に、少し緊張する。

渡り廊下に出ると及川くんが立ち止まり、話し始めた。

「楓音ちゃんに嫌がらせしていた子、わかったよ」

「え…っ」

「鈴木くんの言う通り、俺に関係してた。ちゃんと話して、もうしないって約束してくれたから、もう大丈夫」

「そっ…か…」

「誰か知りたい?」

「う、ううん!もうしないなら、それでいい」

「うん。楓音ちゃんならそう言うと思った。嫌な思いさせてごめんね」

「ううん!あ、ありがとう。及川くん」

「なんで楓音ちゃんがお礼言うのさ」

そう言って呆れたような顔をして及川くんが笑った。優しい瞳と目が合って、急に恥ずかしくなって目を反らした。

「そ、それにしてもっ、やっぱり及川くんってモテるんだね…!」

「急に、何それ。つーか、モテてるの楓音ちゃんでしょ」

「え…、モテてないよ、何言ってるの…」

「鈴木くん。強敵すぎるでしょ」

そう言いながら、及川くんは困ったような顔をして笑った。

「楓音ちゃんの上履きに落書きされてた日さ」

「うん…?」

「あのとき、鈴木くんが言ってくれなかったら、俺は楓音ちゃんが嫌がらせされてるのに気付けなかった」

「…うん」

「俺のせいで楓音ちゃんが嫌がらせされてたのにな。鈴木くん、わざと教えてくれたのかな」

「思わず怒鳴ってしまったって言ってたけど…」

「どうかな。鈴木くん真っ直ぐだからね。楓音ちゃんじゃない子を好きになってくれれば良かったのに」

そう言って及川くんが笑った。

言葉とは裏腹に、穏やかな表情…

その顔を見て、ふと思った。及川くんって、もしかしたら、鈴木くんのこと結構好きなのかも。

性格が真反対だからこそ、惹かれるものがあるのかもしれない。


次の日は土曜日だった。
学校は休みだったけど、朝から予備校で模試だった。

全教科終わったのは夕方で、鈴木くんと駅まで帰ってきたのだけれど、あたしは駅の本屋に寄りたくて、改札の所で鈴木くんと別れた。

9階の本屋に向かおうとエスカレーターに乗ろうとしたところで、目の前のカップルに足が止まった。

エスカレーターの一段上には女の子。
見たことがある。名前まではわからないけど、及川くんのクラスの女の子だ。

一段下の男の子と仲良く繋がれた手。
女の子の嬉しそうな表情。

どう見たって仲良しのカップル。
だけど、そんなわけない。

あの後ろ姿も、一瞬見えた横顔も、
及川くんに間違いないのだ…

私は咄嗟に方向転換すると、改札に向かった。

なんで…?

帰り道、私の頭の中はその言葉でいっぱいだった。

及川くんが好きなのは、私ではなかったのだろうか。鈴木くんが強敵だと、昨日話していたばかりじゃないか。

人のことを好きだとか言っておいて、他の女の子とあんな風に手を繋いだり笑ったりできるなんて、信じられない。

いや、でもよく考えれば " 好きだ " という言葉を本人から聞いたのは一度しかない。現に私だって、及川くんの気持ちがどこまで本気かわからないと、疑っていた。

私が疑っていた通り、元々そこまで本気ではなかったということなんだろうか。

鈴木くんは私が答えを出すまで待てるよと言ってくれたけど、及川くんだってそうとは限らない。そもそも始まりだって、『ゲーム』だったじゃないか。

それにしたって…
一言ぐらい言ってくれたっていいじゃない。


どんなに優しくされても、いつもどこかで思っていた。及川くんが私なんかを好きになる理由がないと。

その通りだっただけのことだと自分に言い聞かせながら、胸が痛むのを抑えていた。

なのに、家に帰って部屋で一人になったら、涙が止まらなかった。


嬉しかったの。
勉強ばっかりだった私を、初めて女の子として扱ってくれた。

可愛いって言葉も、優しい笑顔も、私にとっては特別なものだった。

私を好きになる理由がないと予防線を張っていたけど、惹かれていた。

好きになって傷付くのが怖かっただけだ。


今なら、わかる。
私、及川くんが好きなんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

処理中です...