【完結】定期試験ゲーム 〜俺が勝ったら彼女になって〜

緑野 蜜柑

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嫌がらせ

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体育の授業で倒れた数日後、教室に入るとクラスの男の子から話し掛けられた。

「ねぇ、早野さんってさ、鈴木のこと、どう思ってんの?」

「え…?」

「この前、助けられてときめいちゃった感じ?」

「え…、と…?」

「でも早野さんって隣のクラスの及川とも噂あったし、実のところ、鈴木とどっちが本命なの?」

突然の質問に当惑する。

というか、そもそもこの男の子の名前って何だっけ…?と、同じクラスになって10ヶ月も経つ癖に、方向違いな疑問を私は抱いていた。

そんな状況のなか、鈴木くんが背後から文庫本で男の子の頭を軽く叩いて、会話の中に入ってきた。

「お前さぁ、早野が "及川" って答えたら、責任取って俺を慰めてくれんの?」

そう言いながら、男の子の顎を引き寄せ、キスをしそうな勢いで問い詰める。

まさか鈴木くんに捕まるとは思っていなかったのか、男の子は慌てて鈴木くんから離れ、誤魔化すように笑いながら、逃げていった。

「なんだよ…」

そう言う鈴木くんの表情がなぜか少し寂しそうで、キスをしたかったのだろうかと思ったら、思わず笑ってしまった。

「何笑ってんの、早野」

「あ、鈴木くんもふざけてあんなことするんだと思って」

「まぁ…」

そう言いながら鈴木くんは少し照れた表情を見せた。しかし、その表情はすぐに真剣な物へと変わる。

「あのさ、早野…」

「ん…?」

「さっきの質問、なんて答えるつもりだった…?」

「え…?」

さっきの質問…

それは、及川くんと鈴木くんのどちらなのかという質問に間違いない。

「ごめん、やっぱいいや」

私が答える間もなく、鈴木くんはそう言った。

「そういえば早野、今日のリーディングの予習してある?」

「え…っ、あ…、うん!」

「ちょっとわかんないとこあって、今から聞いてもいいかな」

「う、うん!」

全く違う方向に話をそらされ、そのまま休み時間はリーディングの勉強で終わってしまった。


" なんて答えるつもりだった…? "

鈴木くんのその言葉が、頭の中を巡っていた。

真っ直ぐに気持ちをくれる鈴木くん。変な駆け引きもせず、直球で向き合ってくれる人。

こんな人に想ってもらえるなんて、すごく贅沢なことで、他の誰かと悩んで答えを待たせている自分って何様なのと思う。


「あ…」

放課後、下駄箱に一枚の紙が入っていた。雑に破いたノートの切れ端が四つ折りになっており、開くとそこには悪口が並んでいた。

"ガリ勉"
"地味"
"男好き"
"いい気になるな"

などなど。こんな小さな紙にぎっしりと書かれた悪意の言葉たち。

落ち着いて眺められるのは、初めてではないからだ。差出人は誰だかわからないが、今週に入ってから既に3回目。さすがに、貰う方も慣れてくる。

「早野…?」

「あ…、なんでもない」

「今、隠したろ」

「な、なにが…?」

「出してみ」

有無を言わさぬ態度で鈴木くんが言う。

最初にこの手紙が入っていたのは月曜の放課後。その時一緒にいた鈴木くんには、既にこの手紙の存在を知られてしまっている。

うまく隠せなかった私は、おとなしく今日のそれを差し出した。

「またか…」

「うん…」

鈴木くんは不機嫌そうに、手紙を握り潰した。

「気にすんなよ」

「うん、大丈夫。なんかもう慣れたというか…」

そう苦笑した私に、鈴木くんは困ったような顔をして、そっと私の頭を撫でた。

「あの…、鈴木くん…?」

「早野の方が大人だな」

「え…?」

「早野本人は普通にしてるのに、俺はこの手紙、イラついてたまんないや」

そう言いながら、握り潰した手紙を見て、鈴木くんは眉間にシワを寄せる。

正義感の強い鈴木くんらしいなと思う。

「なんかあったら、すぐ言えよ」

そう言いながら鈴木くんが強い瞳で私を見る。その真っ直ぐな瞳を直視出来なくて、私は少し俯きぎみに、ありがとう、と答えた。

鈴木くんのように、怒る気持ちにならないのは、なんとなく手紙の主が言いたいことがわかるから。

手紙の差出人が、鈴木くんや及川くんに本気で恋をしている女の子だとしたら、私の存在に苛つくのは当然だ。

及川くんか、鈴木くんか。

その答えを、私は早く出さなければいけない。
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