【完結】定期試験ゲーム 〜俺が勝ったら彼女になって〜

緑野 蜜柑

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3学期

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冬期講習も終わり、3学期が始まった。

及川くんとの関係は相変わらず。クラスも違うし、ほとんど見かけることはなく、たまに見かけたとしてもだいぶ距離があった。

それでも、3学期が始まってから最初に及川くんを見かけた時には、久しぶりに見たその姿に、なぜか私はホッとした気持ちになったのだった。

そんなある日。

「なんか今日、早野、顔色悪くない?」

朝、鈴木くんにそう声を掛けられた。

「そう…? 外寒かったからかな…」

「ならいいけど…、無理すんなよ」

「うん、大丈夫」

少し、自覚はあった。その日は生理2日目で軽く貧血気味だったのだ。だけど、生理痛もほとんどなく、生理中にしては体調はかなりマシな方だった。

午後に体育の授業があったが、朝から雨が降っていたこともあり、体育館でバスケットボールになると思っていた。球技が極端に苦手な私は、おそらくほとんど動くことはない。バスケなら、見学にするほどでもない。

だが、雨はお昼前に止み、午後の体育は持久走となったのだった。

元々私は持久走は比較的得意で、それが油断を呼んだのかもしれない。体育の先生が男の先生ということもあり、直前になって生理を理由に見学にしてもらうのも、なんだか嫌だった。

幸い今月は生理痛もキツくないし、無理をしなければ大丈夫、そう判断し、体育着に着替えて校庭へ出たのだった。

「では、今から30分。個人個人のペースでいいのでなるべく止まらないように。用意、スタート」

準備運動が終わり、先生の合図と共に走り始める。

うちの高校は敷地の周りが遊歩道になっていて、一周が約1kmのコースになっていた。今日は男子も持久走のようで、既に先に走り始めていた。

2周目までは問題なく走っていた。無理をしないようにと抑えている分、いつもよりは遅いものの、わりと上位のペースで走れていた。

しかし3周目から段々と体調が悪くなり、さすがにまずいなと思ったときには3周目の中間付近にいた。

校庭のバックネット裏に相当するこの場所では、構内に入れる門がなく、一番近い西門までも結構な距離がある。

こんなところで倒れたら、長い距離を担架で運ばれるんだろうか、と考えると恥ずかしさにゾッとして、何としても西門までは行かなくてはと思った。

そんなギリギリの状態で走っていると、後ろから聞き馴れた声で呼ばれた。

「早野っ!」

鈴木くんだった。

「女子にしては、速いな。やっぱ個人競技は得意なんだな」

ペースをあたしに合わせて、鈴木くんが並走する。

「って、早野、なんか顔色悪くないか」

「なんか…さっきから…体調…」

「ぅわっ、早野…っ!」

" 体調悪くて " そう言いかけたところで、私はフッと意識を失ったのだった。


目が覚めると、白い天井が見えた。

「早野…?」

名前を呼ばれて視線を移すと、制服姿の鈴木くんがいた。

「大丈夫か…?」

「私…、あれ…?走ってて…」

「体調悪くて、倒れたんだよ。ここ、保健室。気分悪くない?」

「うん…、今はもう大丈夫…」

そう答えると、鈴木くんの心配そうな表情が安堵に変わる。

「ごめん、急に倒れて…。迷惑かけて…」

「全然いいよ。大丈夫。つーか、そばに俺がいる時で良かった」

そう言って鈴木くんは優しく笑った。

「朝から顔色ちょっと蒼白かったもんな…。もっと早く気にかけてやれば良かった」

「う、ううん…!私がちゃんと自分の体調わかってなかったせいだから」

その時、チャイムが鳴った。

「あ、チャイム…?」

「うん。6時間目が始まるチャイムだよ」

制服姿の鈴木くんを見て、もう放課後ぐらいかと思っていたが、思ったよりも気を失っていた時間は短かったらしい。

「放課後になったら迎えに来るから、もう少し寝ていればいいよ」

「うん、ありがとう…」

「クラスの女子が持ってきてくれた早野の制服もそこにあるから」

「うん」

「じゃあ、よく休めよ」

そう言うと、鈴木くんは保健室を出ていった。

それにしても…
倒れるなんて、情けない…

鈴木くんには大丈夫と言ったものの、まだ少し貧血気味のようで、もう少し休もうと、あたしは目を瞑った。

すると5分もしないうちに、保健室のドアがガラッと開く音がした。

「すいません、腹が痛くて… って、なんだ。先生いないじゃん」

え、この声…

カーテンの向こうで、足音がゆっくり近づいてくる。

「楓音ちゃん…?」

間違いない。
カーテン越しにいるのは及川くんだった。

「起きてる…?」

「う、うん…」

「大丈夫…?」

「うん…、どうしたの及川くん…。どこか体調でも…」

「5時間目に、窓から楓音ちゃんが見えたから」

「え…っ」

「すぐに来たかったけど、鈴木くんと鉢合わせると思ったから、6時間目に入ってから仮病使って来たんだ」

「そ、そうなんだ…」

カーテン越しとはいえ、久しぶりに話す及川くん…

「急に倒れるなんて…、どっか悪いわけじゃないよね?」

「う、うん。朝からちょっと貧血気味だっただけで、大丈夫…」

「駄目だよ、持久走なんかやったら」

「ごもっとも…です」

「素直だね。鈴木くんに怒られでもした?」

「う、ううん!でもすごく心配かけたみたいで、反省した…」

「そっか…。鈴木くん、自分からは言ってないかもしれないけど、あの距離を楓音ちゃんを抱いたまま走ったんだよ」

「え…っ」

てっきり担架か何かで運ばれたのかと思っていた。鈴木くんが運んでくれたなんて…

先ほど " 迷惑かけてごめん " と謝ったけれど、思っていた以上に、鈴木くんに迷惑をかけていたようだ。

「俺、話せなくても、離れていても、鈴木くんに負けない自信あったんだけどな…」

「及川くん…?」

「あの瞬間、なんであそこにいたの俺じゃなかったんだろうって、思った」

カーテンが、及川くんの手でぎゅっと握られる。

及川くん…
なんだかいつもの軽い口調とは違う…

「余裕ぶってる間に、ああいうふうに鈴木くんに取られるのかもしれないって思ったら、思わず来ちゃったけど」

「…?」

「よく考えたら、俺がどんなに心配したって今日の鈴木くんには勝てるわけないんだよな…」

その言葉と共に、及川くんの手がカーテンから離れた。

「ごめん。楓音ちゃんの前で何言ってんだろな、俺」

「あの…っ」

「ごめん。今の忘れて。気にしないでよく休んで。じゃあ…」

そう言うと、カーテン越しに足音が離れていき、及川くんは保健室から出ていった。

あの及川くんが鈴木くんに負けたかのようなことを言うなんて意外で、残された私は、しばらくそのままそこに立ち尽くしていた…
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