【完結】定期試験ゲーム 〜俺が勝ったら彼女になって〜

緑野 蜜柑

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クリスマス

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期末テストが終わって早2週間、季節はあっという間に冬を迎えて、クリスマス間近な街中はイルミネーションで彩られていた。

現在、私は予備校からの帰り道を鈴木くんと歩いていたりする。

「もうすぐ冬休みだな」

「あ、うん。鈴木くん何か予定でもあるの?」

「冬期講習みっちりだけど。早野もだろ?」

「そう…でした、うん…」

そうなのだ。大晦日と三が日以外は予備校の冬期講習が毎日入っていて、さすがの私でも少しゲンナリする。

「あのさ、終業式の日、午後用事ある?」

終業式の日…?

12月25日。
それはつまり、クリスマス。

用事はないけれど、この日は一般的に特別な意味がある。

「及川となんか約束でもしてた?」

「う、ううん。及川くんとは、最近全然話してないから…」

「じゃあ、空いてる?」

「う…ん、まぁ…」

「早野に付き合ってほしい場所があるんだ。駄目かな」

「う、ううん。大丈夫…」

「やった」

そう言って、鈴木くんは嬉しそうに笑った。
あっさり流されている自分に、及川くんが怒る顔が浮かぶ。

あれから及川くんとは一度も話していない。クラスも違うし、廊下ですれ違ったりすることもほとんどなかった。

まるで何もなかったかのように、付き合う前の他人だった頃のように、毎日が過ぎていた。

そして、及川くんがいなくなった隙間を埋めるように、気付くと鈴木くんがそばにいた。


「じゃあ、行こっか」

終業式の日、帰りのHRが終わると鈴木くんがそう声をかけてきた。

「あ、待って。急いで片付ける」

「いいよ、焦んなくて」

「う、うん」

「早野、成績どうだった?」

「ん? まぁまぁ…かな」

「早野のまぁまぁは、すげー良さそうだな…。でも、体育は3だろ」

「う"…、なんでわかるの」

「なんか駄目そうだもん。2学期、女子はバレーボールだったろ。ああいうチームプレー、向いてなさそう」

そうなのだ。個人競技はまだマシなのだが、日頃から協調性に欠けているせいか、私は団体競技は全く駄目なのだ。

帰り支度をしながらそんなことを話していると、ふいに机の中を確認した手に何かが触れた。

「…?」

「早野、どうかした?」

「う、ううん、何でもない!行こっか」

そう鈴木くんに言いながら、四角い小さなその箱を、あたしは素早くカバンにしまった。


鈴木くんが連れてきてくれたのは、山手線沿いにある大学だった。明治時代、アメリカの宣教師が設立したというその大学は、キリスト教らしくクリスマスのムードが漂っていた。

「きれい…」

正門の横には大きなモミの木。色とりどりの飾りが施され、大きなクリスマスツリーとなっていた。

「クリスマスだから、一般公開されてるみたいでさ。大学見学も兼ねて、いいかと思って」

「そうなんだ…、素敵」

「ちなみにこの大学が強いのはやっぱり外国語教育。留学支援なんかも充実してる」

「そ、そうなんだ…」

さすが、真面目な鈴木くん。ただ、遊びに来たわけではない。

「鈴木くんは外国語科とか興味あるの?」

「ううん、俺、理系だもん。早野は英語得意だろ」

「得意…かなぁ。机上の勉強は好きだけど、そもそも日本語で喋るのも苦手っていうか…」

「そうかな。早野って頭の回転も速いし、先生とか通訳なんかになるのもいいと思うけど」

「そ、そういう、人との関わりが強い職業は、私には無理だよ…!」

「人と喋るのはさ、まだちょっと自分に自信がないだけだろ。その真面目で誠実な性格なら、どんな人が相手でも大丈夫だと俺は思うんだけど」

「か、買いかぶりすぎだよ、鈴木くん…」

「そんなことないって。早野のことは、ずっと見てきたんだから」

そう言うと、鈴木くんは照れたように上を向いた。


帰り道、大学案内のパンフレットをしっかり手に入れた私は、充足感に満たされていた。

「すごかったね、チャペル!讃美歌もきれいだったなぁ」

「早野も、ああいうの好きなんだな。普通の女子っぽいとこ見れて意外」

「鈴木くん、なんかそれ、微妙なコメント…」

「まぁ、事実だからな。テストのたびにあんな鬼のような得点毎回取って、入学した頃は脳みそコンピューターなんじゃないかと思ってたから」

そう言うと、鈴木くんは思い出したように笑っていた。

「早野、俺と最初に予備校で会ったときのこと、覚えてる?」

「え…?」

「1年の秋ごろかな」

「お、覚えてない…」

「だよな。あん時さ、俺、予備校で教室わかんなくてキョロキョロしながら歩いてたら早野とぶつかってさ。手に持ってたノートやら何やらばらまいて、早野が拾ってくれたんだよ」

「そう…だったっけ…?」

「うん。で、その中に、その頃読んでた本が一冊あって。早野が、あたしこの本好きなんですよって言って拾ってくれたんだ。で、数日後その本を読み終えた俺は感動して号泣!なんだ、あいつ、全然コンピューターじゃないじゃんって思ったんだよ」

全く覚えていなかった。おそらく当時の私は、男の子なんてみんな同じに見えていたんだろうけど。

「学校では孤高の存在だったけど、話し掛けてみたら別に普通だしさ。笑うと可愛いのとか、俺だけが知ってると思ってた。あの鬼のような成績に、いつか追いついて告白するって決めてた」

「そう…なんだ…」

「でも、追いついてからなんて悠長なこと、もう言ってられないから、本気で及川から奪うよ」

そう言って、鈴木くんはポケットから何かを取り出し、私の手首につけた。

それは華奢なデザインのブレスレットだった。

「鈴木くん…!?」

「プレゼント。クリスマスだから」

「や…っ、駄目だよ!こんな高そうなもの…」

「俺が好きであげたいんだから、持っていて。俺にもチャンスがあるんだってことだから」

そう言うと、鈴木くんはにっこり笑った。


家に帰ると、私は鈴木くんからもらったブレスレットをボーッと眺めた。

大学見学、楽しかったな。

鈴木くんは、まっすぐ気持ちをくれる。はぐらかしたりしないし、私なんかを一生懸命好きでいてくれる。

なのに、目を瞑ると及川くんの顔が浮かんだ。

私は鈴木くんからもらったブレスレットを外すと、箱に入れ、机にしまった。

箱…
そういえば…

急いでカバンを開けると、放課後に机の中に入っていた小さな箱を取り出した。

5cm角ほどの白い箱に、細い赤いリボン。

そーっとリボンを解いて、箱を開けると、そこにはネックレスが入っていた。

" Merry Christmas 楓音ちゃん! "

手描きでそう書いてあるメッセージカードには、差出人の名前はなかった。

名前なんてなくたって、

私を、" 楓音ちゃん " と呼ぶのは…

この字は…

及川くんに間違いなかった。
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