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2学期 期末試験ゲーム
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「楓音ちゃん、そこ65°じゃなくて75°だよ。引き算間違えてる」
「う"…、ホントだ」
期末試験を明日に控えた昼休み、数学の勉強をしていた私は、またもや及川くんにちょっかいを出されていた。
「俺に負けるのは別にいいけど、鈴木くんにまで負けたら許さないからね」
「…うん」
むしろ及川くんに勝ちたいと毎回思っている。それはゲームをしてない今回も変わらない。
「鈴木くんは飄々と読書してるなぁ…」
廊下側を眺めながら及川くんが呟く。
「前日に必死に勉強しても、結果は変わらないと思うんだけど。日々あんなに勉強してるくせに、今さら何が不安なの」
目の前でそう笑う及川くん。
確かにそうなんだけど、私は昔から、テストの直前まで何かしていないと不安で仕方ないのだった。
2学期の期末テストは全13科目。
そのうち、選択科目を除く計7科目の上位10名の順位が学年掲示板に貼り出される。
試験期間は4日間。
その最終日。
及川くんは、学校に来なかった。
クラスが違う私たちが、及川くんが学校に来ていないと知ったのは放課後になってからだった。
慌ててメッセージを送ると、すぐに返信が来た。内容はまさかのインフルエンザということと、巻き込んでごめんという謝罪。
インフルエンザだなんて。
よりにもよってテスト当日に。
「及川、何だって?」
「あ、鈴木くん…。インフルエンザ…だって」
「マジか。自分から勝手な条件でふっかけてきておいて不戦敗って、ほんと勝手だなアイツ…」
呆れたように鈴木くんが笑う。
「正直、諦めるしかないなって思ってたけど、俺、チャンスだと思うことにするから」
「え…?」
「負けたら話しかけない、及川も同じ条件なんだ。インフルエンザだろうが何だろうが負けは負け。つまり俺は及川に邪魔されずに早野のこと口説けるってことだろ」
「へ…?」
「というわけだから、またな早野」
そう言うと鈴木くんは颯爽と帰っていった。
私は急な展開についていけずに、しばらく教室にたたずんでいた。
期末テストから一週間後。
学年掲示板に貼り出された順位表を私は眺めていた。
一番上に、久しぶりに私の名前。
そして、その下に、鈴木くん。
2教科欠けた及川くんの名前は、当然のことながら、そこにはなかった。
「さすが楓音ちゃん。俺がいなきゃ不動の一位だね」
背後から声がして、慌てて振り返る。
「及川くん!」
「おはよ。インフルエンザの出席停止、やっと明けたんだ。てか、そんなに眺めてもないでしょ、俺の名前は」
「…うん」
複雑な気持ちで及川くんを見る。
「残り2教科は、今日の放課後に追試なんだ」
「そっか…」
「不戦敗って、カッコ悪い負け方だよなぁ。鈴木くんから聞いてる?」
「うん…」
「話し掛けちゃいけないって、自分で決めたルールながら、キツイな…」
そう言って、及川くんは苦笑した。
「まぁ、自分で決めたルールだし、仕方ないか。鈴木くんに意地悪した罰かなー」
割りきったように、及川くんはそう言った。
「多分さ、鈴木くん、口説いてくると思うんだ」
「そう…かな…」
「うん。だって楓音ちゃんのこと相当本気だからね」
穏やかな表情で及川くんは笑う。
「ちゃんと考えて答えを出せばいいと思うんだ」
「え…?」
「俺が強引に付き合い始めたせいもあると思うけど、まだ楓音ちゃん、自分の気持ちよくわかんないでしょ」
及川くんの言葉に言葉が出ない。
「きっとこれから鈴木くんは結構頑張るから、それで楓音ちゃんの気持ちが動くかもしれない。そしたら、楓音ちゃんの答えは鈴木くんってことだけど…」
優しい表情の及川くんと目が合う。
「すきだよ、楓音ちゃん」
まっすぐな言葉。
いつものからかうような口調とは違った。
「話し掛けちゃいけなくたって、俺がすきなのは楓音ちゃんだから。覚えておいてね」
そう言うと、私の頭をポンポンと軽く叩いて及川くんは行ってしまった。
" すきだよ "
その言葉を、及川くんの口から聞くのは初めてだった。
「う"…、ホントだ」
期末試験を明日に控えた昼休み、数学の勉強をしていた私は、またもや及川くんにちょっかいを出されていた。
「俺に負けるのは別にいいけど、鈴木くんにまで負けたら許さないからね」
「…うん」
むしろ及川くんに勝ちたいと毎回思っている。それはゲームをしてない今回も変わらない。
「鈴木くんは飄々と読書してるなぁ…」
廊下側を眺めながら及川くんが呟く。
「前日に必死に勉強しても、結果は変わらないと思うんだけど。日々あんなに勉強してるくせに、今さら何が不安なの」
目の前でそう笑う及川くん。
確かにそうなんだけど、私は昔から、テストの直前まで何かしていないと不安で仕方ないのだった。
2学期の期末テストは全13科目。
そのうち、選択科目を除く計7科目の上位10名の順位が学年掲示板に貼り出される。
試験期間は4日間。
その最終日。
及川くんは、学校に来なかった。
クラスが違う私たちが、及川くんが学校に来ていないと知ったのは放課後になってからだった。
慌ててメッセージを送ると、すぐに返信が来た。内容はまさかのインフルエンザということと、巻き込んでごめんという謝罪。
インフルエンザだなんて。
よりにもよってテスト当日に。
「及川、何だって?」
「あ、鈴木くん…。インフルエンザ…だって」
「マジか。自分から勝手な条件でふっかけてきておいて不戦敗って、ほんと勝手だなアイツ…」
呆れたように鈴木くんが笑う。
「正直、諦めるしかないなって思ってたけど、俺、チャンスだと思うことにするから」
「え…?」
「負けたら話しかけない、及川も同じ条件なんだ。インフルエンザだろうが何だろうが負けは負け。つまり俺は及川に邪魔されずに早野のこと口説けるってことだろ」
「へ…?」
「というわけだから、またな早野」
そう言うと鈴木くんは颯爽と帰っていった。
私は急な展開についていけずに、しばらく教室にたたずんでいた。
期末テストから一週間後。
学年掲示板に貼り出された順位表を私は眺めていた。
一番上に、久しぶりに私の名前。
そして、その下に、鈴木くん。
2教科欠けた及川くんの名前は、当然のことながら、そこにはなかった。
「さすが楓音ちゃん。俺がいなきゃ不動の一位だね」
背後から声がして、慌てて振り返る。
「及川くん!」
「おはよ。インフルエンザの出席停止、やっと明けたんだ。てか、そんなに眺めてもないでしょ、俺の名前は」
「…うん」
複雑な気持ちで及川くんを見る。
「残り2教科は、今日の放課後に追試なんだ」
「そっか…」
「不戦敗って、カッコ悪い負け方だよなぁ。鈴木くんから聞いてる?」
「うん…」
「話し掛けちゃいけないって、自分で決めたルールながら、キツイな…」
そう言って、及川くんは苦笑した。
「まぁ、自分で決めたルールだし、仕方ないか。鈴木くんに意地悪した罰かなー」
割りきったように、及川くんはそう言った。
「多分さ、鈴木くん、口説いてくると思うんだ」
「そう…かな…」
「うん。だって楓音ちゃんのこと相当本気だからね」
穏やかな表情で及川くんは笑う。
「ちゃんと考えて答えを出せばいいと思うんだ」
「え…?」
「俺が強引に付き合い始めたせいもあると思うけど、まだ楓音ちゃん、自分の気持ちよくわかんないでしょ」
及川くんの言葉に言葉が出ない。
「きっとこれから鈴木くんは結構頑張るから、それで楓音ちゃんの気持ちが動くかもしれない。そしたら、楓音ちゃんの答えは鈴木くんってことだけど…」
優しい表情の及川くんと目が合う。
「すきだよ、楓音ちゃん」
まっすぐな言葉。
いつものからかうような口調とは違った。
「話し掛けちゃいけなくたって、俺がすきなのは楓音ちゃんだから。覚えておいてね」
そう言うと、私の頭をポンポンと軽く叩いて及川くんは行ってしまった。
" すきだよ "
その言葉を、及川くんの口から聞くのは初めてだった。
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