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もう1つのゲーム
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早野へ
昼休み、中庭に来てほしい。
話したいことがあるから。
鈴木
そんなメモが下駄箱に入っていたのは、及川くんとゲームの約束をした次の日の朝だった。
なんとなく、知られたら面倒くさそうだと思い、一緒に登校した及川くんに見つからないよう、すぐにポケットにしまった。
廊下で及川くんと別れて教室に入ると、自分の席でいつものように本を読む鈴木くんの姿にドキッとする。隣の席なのに、わざわざあんな手紙で中庭で話って、私、何かしただろうか。
「お、おはよう…、 鈴木くん」
「はよ、早野」
いつも通りの朝の挨拶。
話したいことって一体なんだろう。
昼休み。
「鈴木…くん?」
中庭に行くとそこにはもう鈴木くんがいた。私を見ると安堵した表情を見せ、
「よかった、来てくれないかもと思ってたから」
と軽く微笑んだが、その表情はすぐに真面目な物へと戻った。
「単刀直入に聞く。早野、及川を好きで付き合ってるんじゃないのか?昨日言ってた、"ゲーム"って、何?」
「え…っ」
「ごめん。昨日、二人の会話聞いてたんだ。忘れ物取りに戻って、たまたま」
「あ…」
まさか、聞かれていたなんて、気がつかなかった。
「でも、なんだよ、あの条件。勝ったら別れて、負けたらキスって。無茶苦茶じゃんか」
「えと…、うん…」
付き合っている二人の会話にしては、確かに無茶苦茶だ。
「別れるって条件出すくらいだから、早野、好きでも何でもないんだろ!?あんな噂まで我慢して…」
「でも、次は勝つつもりだし!大丈夫だよ!」
「大丈夫じゃないよ、全然…」
心配されている。
鈴木くんは正義感が強いから、私が及川くんのおかしなゲームに付き合わされているのも我慢できないのかも。
そう思った瞬間だった。
「え…っ!?」
突然引き寄せられた腕。
気づくと鈴木くんの腕のなかにいた。
「好きだ。早野のことが。今の早野も、前の早野も、俺はずっと…」
「へ…!?」
「及川のことが好きなら仕方ないって思ってたけど、そうじゃないんなら、諦める必要なんかないじゃないか」
抱き締める腕の力が強くなる。
え、なに…?
好き…?
抱き締められてる…?
ど、どういうこと…?
「あ、あの…、鈴木…くん…?」
「俺ともゲームをしてほしい。条件は、及川と同じ。俺が、早野に勝ったらキスしてほしい」
「は…!?」
キ、キスって…!
鈴木くんまで何を言い出すの…!
「正直、このまま無理矢理してしまいたいけど、それはフェアじゃないし、"無理矢理"じゃ意味がない」
「ちょ…っ、鈴木くん何言って…」
「もし俺が勝ったら、早野のファーストキスは、俺が貰う」
そう言うと、鈴木くんはあたしの頬に軽く唇で触れて、体を離した。
ひぃ…!
キ、キスした!ほっぺに…!
「いきなりごめん。でも、俺は及川とは違う。早野しか考えられない」
そう言うと、走って去って行ってしまった。
突然のことに、私は脚の力が抜け、その場にしゃがみこんだ。キスされた側の頬に手を当て、混乱した頭を整理する。
" 俺ともゲームをしてほしい "
" 早野のファーストキスは、俺が貰う "
聞き間違いではない。確かにそう言っていた。
いや、待って、落ち着いて。
いつも優しくて真面目な鈴木くんが、あんなこと言うなんて、なんかの間違いでは?
ほら、よくある地味な私をからかうやつ。
…違う。鈴木くんは私をからかったり一度もしたことない。絶対にそういうことをする人じゃない。
じゃあ、抱き締められて、ほっぺたにキスまでされたのは…
だ、だから、落ち着こうってば。
私に男の子から好かれる要素なんて…
そんなことを考えながら、頭の中は一向に整理されず、私は昼休みの時間じゅう、頭を抱えてそこから動けなかった。
昼休み、中庭に来てほしい。
話したいことがあるから。
鈴木
そんなメモが下駄箱に入っていたのは、及川くんとゲームの約束をした次の日の朝だった。
なんとなく、知られたら面倒くさそうだと思い、一緒に登校した及川くんに見つからないよう、すぐにポケットにしまった。
廊下で及川くんと別れて教室に入ると、自分の席でいつものように本を読む鈴木くんの姿にドキッとする。隣の席なのに、わざわざあんな手紙で中庭で話って、私、何かしただろうか。
「お、おはよう…、 鈴木くん」
「はよ、早野」
いつも通りの朝の挨拶。
話したいことって一体なんだろう。
昼休み。
「鈴木…くん?」
中庭に行くとそこにはもう鈴木くんがいた。私を見ると安堵した表情を見せ、
「よかった、来てくれないかもと思ってたから」
と軽く微笑んだが、その表情はすぐに真面目な物へと戻った。
「単刀直入に聞く。早野、及川を好きで付き合ってるんじゃないのか?昨日言ってた、"ゲーム"って、何?」
「え…っ」
「ごめん。昨日、二人の会話聞いてたんだ。忘れ物取りに戻って、たまたま」
「あ…」
まさか、聞かれていたなんて、気がつかなかった。
「でも、なんだよ、あの条件。勝ったら別れて、負けたらキスって。無茶苦茶じゃんか」
「えと…、うん…」
付き合っている二人の会話にしては、確かに無茶苦茶だ。
「別れるって条件出すくらいだから、早野、好きでも何でもないんだろ!?あんな噂まで我慢して…」
「でも、次は勝つつもりだし!大丈夫だよ!」
「大丈夫じゃないよ、全然…」
心配されている。
鈴木くんは正義感が強いから、私が及川くんのおかしなゲームに付き合わされているのも我慢できないのかも。
そう思った瞬間だった。
「え…っ!?」
突然引き寄せられた腕。
気づくと鈴木くんの腕のなかにいた。
「好きだ。早野のことが。今の早野も、前の早野も、俺はずっと…」
「へ…!?」
「及川のことが好きなら仕方ないって思ってたけど、そうじゃないんなら、諦める必要なんかないじゃないか」
抱き締める腕の力が強くなる。
え、なに…?
好き…?
抱き締められてる…?
ど、どういうこと…?
「あ、あの…、鈴木…くん…?」
「俺ともゲームをしてほしい。条件は、及川と同じ。俺が、早野に勝ったらキスしてほしい」
「は…!?」
キ、キスって…!
鈴木くんまで何を言い出すの…!
「正直、このまま無理矢理してしまいたいけど、それはフェアじゃないし、"無理矢理"じゃ意味がない」
「ちょ…っ、鈴木くん何言って…」
「もし俺が勝ったら、早野のファーストキスは、俺が貰う」
そう言うと、鈴木くんはあたしの頬に軽く唇で触れて、体を離した。
ひぃ…!
キ、キスした!ほっぺに…!
「いきなりごめん。でも、俺は及川とは違う。早野しか考えられない」
そう言うと、走って去って行ってしまった。
突然のことに、私は脚の力が抜け、その場にしゃがみこんだ。キスされた側の頬に手を当て、混乱した頭を整理する。
" 俺ともゲームをしてほしい "
" 早野のファーストキスは、俺が貰う "
聞き間違いではない。確かにそう言っていた。
いや、待って、落ち着いて。
いつも優しくて真面目な鈴木くんが、あんなこと言うなんて、なんかの間違いでは?
ほら、よくある地味な私をからかうやつ。
…違う。鈴木くんは私をからかったり一度もしたことない。絶対にそういうことをする人じゃない。
じゃあ、抱き締められて、ほっぺたにキスまでされたのは…
だ、だから、落ち着こうってば。
私に男の子から好かれる要素なんて…
そんなことを考えながら、頭の中は一向に整理されず、私は昼休みの時間じゅう、頭を抱えてそこから動けなかった。
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