【完結】定期試験ゲーム 〜俺が勝ったら彼女になって〜

緑野 蜜柑

文字の大きさ
上 下
5 / 19

もう1つのゲーム

しおりを挟む
早野へ

昼休み、中庭に来てほしい。
話したいことがあるから。

鈴木

そんなメモが下駄箱に入っていたのは、及川くんとゲームの約束をした次の日の朝だった。

なんとなく、知られたら面倒くさそうだと思い、一緒に登校した及川くんに見つからないよう、すぐにポケットにしまった。

廊下で及川くんと別れて教室に入ると、自分の席でいつものように本を読む鈴木くんの姿にドキッとする。隣の席なのに、わざわざあんな手紙で中庭で話って、私、何かしただろうか。

「お、おはよう…、 鈴木くん」

「はよ、早野」

いつも通りの朝の挨拶。
話したいことって一体なんだろう。


昼休み。

「鈴木…くん?」

中庭に行くとそこにはもう鈴木くんがいた。私を見ると安堵した表情を見せ、

「よかった、来てくれないかもと思ってたから」

と軽く微笑んだが、その表情はすぐに真面目な物へと戻った。

「単刀直入に聞く。早野、及川を好きで付き合ってるんじゃないのか?昨日言ってた、"ゲーム"って、何?」

「え…っ」

「ごめん。昨日、二人の会話聞いてたんだ。忘れ物取りに戻って、たまたま」

「あ…」

まさか、聞かれていたなんて、気がつかなかった。

「でも、なんだよ、あの条件。勝ったら別れて、負けたらキスって。無茶苦茶じゃんか」

「えと…、うん…」

付き合っている二人の会話にしては、確かに無茶苦茶だ。

「別れるって条件出すくらいだから、早野、好きでも何でもないんだろ!?あんな噂まで我慢して…」

「でも、次は勝つつもりだし!大丈夫だよ!」

「大丈夫じゃないよ、全然…」

心配されている。
鈴木くんは正義感が強いから、私が及川くんのおかしなゲームに付き合わされているのも我慢できないのかも。

そう思った瞬間だった。

「え…っ!?」

突然引き寄せられた腕。
気づくと鈴木くんの腕のなかにいた。

「好きだ。早野のことが。今の早野も、前の早野も、俺はずっと…」

「へ…!?」

「及川のことが好きなら仕方ないって思ってたけど、そうじゃないんなら、諦める必要なんかないじゃないか」

抱き締める腕の力が強くなる。

え、なに…?

好き…?
抱き締められてる…?

ど、どういうこと…?

「あ、あの…、鈴木…くん…?」

「俺ともゲームをしてほしい。条件は、及川と同じ。俺が、早野に勝ったらキスしてほしい」

「は…!?」

キ、キスって…!
鈴木くんまで何を言い出すの…!

「正直、このまま無理矢理してしまいたいけど、それはフェアじゃないし、"無理矢理"じゃ意味がない」

「ちょ…っ、鈴木くん何言って…」

「もし俺が勝ったら、早野のファーストキスは、俺が貰う」

そう言うと、鈴木くんはあたしの頬に軽く唇で触れて、体を離した。

ひぃ…!
キ、キスした!ほっぺに…!

「いきなりごめん。でも、俺は及川とは違う。早野しか考えられない」

そう言うと、走って去って行ってしまった。

突然のことに、私は脚の力が抜け、その場にしゃがみこんだ。キスされた側の頬に手を当て、混乱した頭を整理する。

" 俺ともゲームをしてほしい "
" 早野のファーストキスは、俺が貰う "

聞き間違いではない。確かにそう言っていた。

いや、待って、落ち着いて。
いつも優しくて真面目な鈴木くんが、あんなこと言うなんて、なんかの間違いでは?

ほら、よくある地味な私をからかうやつ。

…違う。鈴木くんは私をからかったり一度もしたことない。絶対にそういうことをする人じゃない。

じゃあ、抱き締められて、ほっぺたにキスまでされたのは…

だ、だから、落ち着こうってば。
私に男の子から好かれる要素なんて…

そんなことを考えながら、頭の中は一向に整理されず、私は昼休みの時間じゅう、頭を抱えてそこから動けなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

スパルタ上司と甘くとろけるチョコレートキス

散りぬるを
恋愛
2月14日バレンタインデー。その日、大園紗和(26)は朝から頭を悩ませていた。 物腰柔らかな口調とは裏腹に、妥協を許さないスパルタ上司ーー米山将彦(34)にチョコを渡すかどうかで。 それは「日頃のお礼として」用意したチョコだったのだが、米山に対して苦手意識を持つ紗和は、昼休みになっても渡せずにいた。しかし、ふいに訪れた2人きりの時間。そしてまさかの、米山からの告白。 会社では見せることのない米山の意外な一面に、紗和はドキドキしてしまって……? 最初から最後まで甘い、バレンタインデーをテーマにした短編です。 ※ムーンライトノベルズからの転載です。

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

処理中です...