【完結】とびきりの幸せを、君に

緑野 蜜柑

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1-8. 本命の恋

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「でね、檜山さんってば村瀬くんのこと、うっかり名前で呼んじゃって、バレちゃったのよ」
「へぇ、あの二人付き合ってたんすね。でも、似合ってますね」
「うん、あたしもそう思う!」

いつものバーで、最近会社で話題の二人のことを樫木先輩が楽しそうに話す。デートした日はあんなに狼狽えていたのに、歳上の余裕なのか、先輩はすっかり普段通りに振る舞っている。

「先輩、口の横、ソースついてますよ」
「え…?」

口の端に付いたそれを手を伸ばして拭う。

「あ、ありがと…」
「どういたしまして」

恥ずかしそうに先輩が視線をそらす。頬がほんのりと赤い。

彼女の様子が前とは少しだけ違うことに気付いていた。あれ以降、先輩は俺の前で水原部長の話題を出すことはなくなった。そして、俺たちの間には、時折、今みたいに微かに甘い、くすぐったいような空気が漂うようになった。

わからないけど、多分、うまく行っている。先輩は確実に俺のことを意識するようになっているし、水原部長との不毛な恋愛なんかより、幸せにできる自信もある。

焦る必要はない。ちゃんと時間を掛けて一緒にいれば、きっと…



それから数日後だった。

打ち合わせ後、会議室の片付けをしていると、隣の会議室から微かに声が聞こえた。

「離婚…しようと思うんだ…」

意識して耳を澄まさなければ聴きとれない程の声であったが、それは水原部長の声だった。

「幸野、片付け終わったか?」
「あ…っ、はい…」
「ちょっと仕事頼んでもいいか?」
「…いいっすよ」

会話の続きを聞きたかったが、入り口から上司にそう声を掛けられ、俺は会議室を後にした。

多分、あの部屋に水原部長と樫木先輩がいたんだろう。彼女は、なんて答えたのか。そんなの、聞くまでもない。

全身の力が抜ける気がした。
長期戦を覚悟して、少しずつ振り向かせるつもりだったのに、運命ってやつは俺にそんな時間を与えるつもりはないらしい。

つーか、凄すぎて自分でも笑う…
樫木先輩まで、本命の水原部長を落とせるなんて、俺は百発百中、決して外れることのない『幸福を呼ぶ男』だ。
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