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1-8. 本命の恋
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「でね、檜山さんってば村瀬くんのこと、うっかり名前で呼んじゃって、バレちゃったのよ」
「へぇ、あの二人付き合ってたんすね。でも、似合ってますね」
「うん、あたしもそう思う!」
いつものバーで、最近会社で話題の二人のことを樫木先輩が楽しそうに話す。デートした日はあんなに狼狽えていたのに、歳上の余裕なのか、先輩はすっかり普段通りに振る舞っている。
「先輩、口の横、ソースついてますよ」
「え…?」
口の端に付いたそれを手を伸ばして拭う。
「あ、ありがと…」
「どういたしまして」
恥ずかしそうに先輩が視線をそらす。頬がほんのりと赤い。
彼女の様子が前とは少しだけ違うことに気付いていた。あれ以降、先輩は俺の前で水原部長の話題を出すことはなくなった。そして、俺たちの間には、時折、今みたいに微かに甘い、くすぐったいような空気が漂うようになった。
わからないけど、多分、うまく行っている。先輩は確実に俺のことを意識するようになっているし、水原部長との不毛な恋愛なんかより、幸せにできる自信もある。
焦る必要はない。ちゃんと時間を掛けて一緒にいれば、きっと…
◇
それから数日後だった。
打ち合わせ後、会議室の片付けをしていると、隣の会議室から微かに声が聞こえた。
「離婚…しようと思うんだ…」
意識して耳を澄まさなければ聴きとれない程の声であったが、それは水原部長の声だった。
「幸野、片付け終わったか?」
「あ…っ、はい…」
「ちょっと仕事頼んでもいいか?」
「…いいっすよ」
会話の続きを聞きたかったが、入り口から上司にそう声を掛けられ、俺は会議室を後にした。
多分、あの部屋に水原部長と樫木先輩がいたんだろう。彼女は、なんて答えたのか。そんなの、聞くまでもない。
全身の力が抜ける気がした。
長期戦を覚悟して、少しずつ振り向かせるつもりだったのに、運命ってやつは俺にそんな時間を与えるつもりはないらしい。
つーか、凄すぎて自分でも笑う…
樫木先輩まで、本命の水原部長を落とせるなんて、俺は百発百中、決して外れることのない『幸福を呼ぶ男』だ。
「へぇ、あの二人付き合ってたんすね。でも、似合ってますね」
「うん、あたしもそう思う!」
いつものバーで、最近会社で話題の二人のことを樫木先輩が楽しそうに話す。デートした日はあんなに狼狽えていたのに、歳上の余裕なのか、先輩はすっかり普段通りに振る舞っている。
「先輩、口の横、ソースついてますよ」
「え…?」
口の端に付いたそれを手を伸ばして拭う。
「あ、ありがと…」
「どういたしまして」
恥ずかしそうに先輩が視線をそらす。頬がほんのりと赤い。
彼女の様子が前とは少しだけ違うことに気付いていた。あれ以降、先輩は俺の前で水原部長の話題を出すことはなくなった。そして、俺たちの間には、時折、今みたいに微かに甘い、くすぐったいような空気が漂うようになった。
わからないけど、多分、うまく行っている。先輩は確実に俺のことを意識するようになっているし、水原部長との不毛な恋愛なんかより、幸せにできる自信もある。
焦る必要はない。ちゃんと時間を掛けて一緒にいれば、きっと…
◇
それから数日後だった。
打ち合わせ後、会議室の片付けをしていると、隣の会議室から微かに声が聞こえた。
「離婚…しようと思うんだ…」
意識して耳を澄まさなければ聴きとれない程の声であったが、それは水原部長の声だった。
「幸野、片付け終わったか?」
「あ…っ、はい…」
「ちょっと仕事頼んでもいいか?」
「…いいっすよ」
会話の続きを聞きたかったが、入り口から上司にそう声を掛けられ、俺は会議室を後にした。
多分、あの部屋に水原部長と樫木先輩がいたんだろう。彼女は、なんて答えたのか。そんなの、聞くまでもない。
全身の力が抜ける気がした。
長期戦を覚悟して、少しずつ振り向かせるつもりだったのに、運命ってやつは俺にそんな時間を与えるつもりはないらしい。
つーか、凄すぎて自分でも笑う…
樫木先輩まで、本命の水原部長を落とせるなんて、俺は百発百中、決して外れることのない『幸福を呼ぶ男』だ。
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