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1-2. 先輩の秘密
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週が明けた月曜日。誰もいない書庫で俺は溜息をつく。
「女の子は幸せを掴んでるけど、俺は貧乏クジしか引いてないよなぁ…」
いつもあのパターンだ。女の子に縁が無い訳では無いのだが、彼女たちはいつも本命が別にいる。
過去に忘れられない男がいたり、今回のように付き合えたと思ったら横取りされたり。いずれにせよ、彼女たちは俺と関わっている間になぜか本命の男を見事に振り向かせている。
好きな子が、俺のことを好きになってくれる。言葉にすると単純なのに、俺はいつもそれが手に入らない。
「あんな顔して想ってもらえるって、いいよな…」
好きだった奴と両思いになれた女の子たちは本当に幸せそうな顔をする。あれを見てしまうと、本命との恋が叶って良かったし、心から「おめでとう」と思う。
いつか俺にもあんな顔をしてくれる女の子が現れると信じたい。だけど、こうも続くと、俺を本命として見てくれる女の子はこの世にはいないのではないかと、流石に不安にならないこともない。
◇
ピピ…ッ、カチャ…
その時だった。資料室の入口でドアが開く音がして、誰かが入ってきた物音がする。
「待…っ、水原部長…っ」
女子社員の声と、隣の部署の部長だ。なんだか様子がおかしい。そもそも部長の立場の人が、普通、こんな場所に来ることはない。
棚の影からそっと入り口側を見る。すると、水原部長が女性社員を壁際に追いやり、喰おうとしているところだった。
マジか…、最悪…
俺は見つからないよう、とりあえずその場に座り込む。
「や…っ、駄目ですってば…」
「大丈夫だよ、ここなら」
大丈夫じゃねーよ…
しかもあんな入り口でやりやがって…
俺が逃げられないじゃないか。
…つーか、水原部長って既婚者だったはずでは。女子社員と不倫ってことか…?
マジか。それって絶対知っちゃ駄目なやつだ。
他人の情事など見たくはないが、ここで息を潜めているしかない。隣の部署とはいえ、地位のある奴に目をつけられたくはない。
そんなことを思っている間に、女子社員の声色が潤みを含んでくる。
「や…っ、あ…、駄目…」
おいおい。そんな甘い声出したら、駄目も何もないだろ。
一体誰だと思いつつ、棚の隙間からそっと覗いたが、俯いた髪に隠れて顔がよく見えない。水原部長の骨張った指が、彼女の胸を揉んでいる。
細いわりに、意外と巨乳…。イイ身体だ。
あれなら不倫などしなくても、いくらでも相手はいるだろうに…
その時だった。
突然、スマホの着信音が響く。
一瞬慌てたものの、俺ではない。水原部長の業務用スマホだった。
「ああ…、うん…、そうか。わかった、すぐに行く…」
呼び出しだろうか。このまま行為に及ばれたらどうしようかと思っていたが、俺は静かに安堵のため息を漏らした。
「ごめん、呼び出しだ」
「いえ…、大丈夫です」
「続きは明日の夜に」
そう言うと、水原部長は彼女に軽くキスをして、資料室から出ていった。
残された彼女は、静かに服装を整える。その横顔に、俺は思わず息を飲んだ。
隣の部署の、樫木先輩だ。
樫木結菜。彼女は男子社員の憧れの存在だ。小柄で可愛くて、人当たりも良く癒やし系。その一方で、出るトコが出た抱きごたえのありそうな身体は、もはや男の夢と言っても過言ではない。
部署が違う為、俺はあまり関わったことがないが、新人の頃に初めて話したとき、その笑顔が陽だまりみたいで、思わず心を奪われたのを覚えている。
その樫木先輩が、水原部長と不倫…
俺は思わず、彼女に声をかけていた。
「女の子は幸せを掴んでるけど、俺は貧乏クジしか引いてないよなぁ…」
いつもあのパターンだ。女の子に縁が無い訳では無いのだが、彼女たちはいつも本命が別にいる。
過去に忘れられない男がいたり、今回のように付き合えたと思ったら横取りされたり。いずれにせよ、彼女たちは俺と関わっている間になぜか本命の男を見事に振り向かせている。
好きな子が、俺のことを好きになってくれる。言葉にすると単純なのに、俺はいつもそれが手に入らない。
「あんな顔して想ってもらえるって、いいよな…」
好きだった奴と両思いになれた女の子たちは本当に幸せそうな顔をする。あれを見てしまうと、本命との恋が叶って良かったし、心から「おめでとう」と思う。
いつか俺にもあんな顔をしてくれる女の子が現れると信じたい。だけど、こうも続くと、俺を本命として見てくれる女の子はこの世にはいないのではないかと、流石に不安にならないこともない。
◇
ピピ…ッ、カチャ…
その時だった。資料室の入口でドアが開く音がして、誰かが入ってきた物音がする。
「待…っ、水原部長…っ」
女子社員の声と、隣の部署の部長だ。なんだか様子がおかしい。そもそも部長の立場の人が、普通、こんな場所に来ることはない。
棚の影からそっと入り口側を見る。すると、水原部長が女性社員を壁際に追いやり、喰おうとしているところだった。
マジか…、最悪…
俺は見つからないよう、とりあえずその場に座り込む。
「や…っ、駄目ですってば…」
「大丈夫だよ、ここなら」
大丈夫じゃねーよ…
しかもあんな入り口でやりやがって…
俺が逃げられないじゃないか。
…つーか、水原部長って既婚者だったはずでは。女子社員と不倫ってことか…?
マジか。それって絶対知っちゃ駄目なやつだ。
他人の情事など見たくはないが、ここで息を潜めているしかない。隣の部署とはいえ、地位のある奴に目をつけられたくはない。
そんなことを思っている間に、女子社員の声色が潤みを含んでくる。
「や…っ、あ…、駄目…」
おいおい。そんな甘い声出したら、駄目も何もないだろ。
一体誰だと思いつつ、棚の隙間からそっと覗いたが、俯いた髪に隠れて顔がよく見えない。水原部長の骨張った指が、彼女の胸を揉んでいる。
細いわりに、意外と巨乳…。イイ身体だ。
あれなら不倫などしなくても、いくらでも相手はいるだろうに…
その時だった。
突然、スマホの着信音が響く。
一瞬慌てたものの、俺ではない。水原部長の業務用スマホだった。
「ああ…、うん…、そうか。わかった、すぐに行く…」
呼び出しだろうか。このまま行為に及ばれたらどうしようかと思っていたが、俺は静かに安堵のため息を漏らした。
「ごめん、呼び出しだ」
「いえ…、大丈夫です」
「続きは明日の夜に」
そう言うと、水原部長は彼女に軽くキスをして、資料室から出ていった。
残された彼女は、静かに服装を整える。その横顔に、俺は思わず息を飲んだ。
隣の部署の、樫木先輩だ。
樫木結菜。彼女は男子社員の憧れの存在だ。小柄で可愛くて、人当たりも良く癒やし系。その一方で、出るトコが出た抱きごたえのありそうな身体は、もはや男の夢と言っても過言ではない。
部署が違う為、俺はあまり関わったことがないが、新人の頃に初めて話したとき、その笑顔が陽だまりみたいで、思わず心を奪われたのを覚えている。
その樫木先輩が、水原部長と不倫…
俺は思わず、彼女に声をかけていた。
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