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特別な気持ち③

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自分のデスクに戻り、ノートパソコンを開きながら、窓際の席の西野さんを横目で盗み見る。

いつも通り、淡々と仕事をしている。その姿を見ているだけなのに、なんだか頬が熱くなりそうになって、あたしは慌てて視線を自分のデスクに戻した。芽衣ちゃんが面白がって揶揄からかってきたりするから…

最近のあたしは、少し変。西野さんのことを意識している。姿を見かけてドキッとしたり、笑ってもらえると嬉しくなったり。

この気持ちが何なのかは、もう自覚している。いつの間にか、同僚や隣人に抱くものではない感情が自分の心の中にあった。勿論それは、友人と呼べるものでもない。

西野さん相手にそういう感情を抱いていたことに戸惑った。だけど、それは悠真と付き合い始めた頃とは違って、静かで穏やかにあたしを満たしていた。



「栗原さん…!」

夕方、仕事が終わりオフィスから出ると、後ろから声を掛けられた。聞き慣れた声にドキッとして振り返る。帰り支度を済ませた西野さんが小走りで駆け寄ってくる所だった。

「西野さん…! お疲れさまです!」
「お疲れさまです。会えて良かったです。今日予約したお店、ちょっと分かりづらい場所にあるので」

そう。実は今日は西野さんと食事に行く約束をしている。

「今日は、和食のお店…でしたっけ?」
「そうですね。鎌倉野菜が美味しいお店だそうです」
「鎌倉野菜…、オシャレそうですね」
「料理上手な栗原さんに気に入って貰えるといいんですが」
「じ、上手だなんてことは、全然…」

そう言ったあたしに、西野さんが柔らかく微笑んだ。

「あの…、いつも素敵なお店を選んでくれて、ありがとうございます」
「いえ、むしろ僕の趣味を押し付けてないかなって心配なぐらいで…」
「そんなことないです…!」

全力でそう答えたあたしに、西野さんが嬉しそうに笑う。…うん。今の笑顔、好きかもしれない。



「じゃあ、乾杯ですね」
「はい!お疲れさまです!」

そう言って、生ビールが入ったグラスで二人で乾杯をする。こうやって乾杯するのは、もう何回目だろう…?

西野さんと行った2回目の食事は、約束通り、あたしに奢らせてくれた。やっとちゃんとお礼ができたことが嬉しかった。

だけど、2回目で終わりではなく、その後も西野さんはこうやって定期的に食事に誘ってくれている。

最初は、そこに特別な意味はないと思っていた。西野さんにはずっと助けてもらっていたし、今回も、悠真とあんな別れ方をしたあたしを気に掛けてくれているのだろうと考えていた。

あたしにとって、西野さんとの時間は居心地がよかった。ずっと弱いところばかり見せてきたせいか、西野さんの前では変に取り繕う必要はなくて、自然体でいられる関係が安心できた。

その時間に、多分、心が少しずつ癒されていた。そして、自分でも気づかないうちに西野さんに惹かれていた。

あたしなんかが西野さんと釣り合う訳ないという考えは勿論ある。でも、職場では見せない柔らかい表情とか笑顔を、あたしには見せてくれていることにも気付いている。

図々しいけれど、一緒に過ごすこの時間が特別なものであれば良いと、今のあたしは思っている。
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