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貴方が恋をした人は②
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「あ…の…?」
「すみません。本当に、気にしないで下さい」
そう言った西野さんは、動揺した素振りであたしから視線を逸らす。橋田さん─…思い浮かぶのは、もちろん今日の昼間に食事に誘われたことだ。
橋田さんとのやり取りは、デスクが近い西野さんにも筒抜けだったと思う。でもあの時、西野さんはいつも通り淡々と仕事をしていた。だから、西野さんの口から橋田さんの名前が出てくるとは思わなかった。
「あの…、あたし、橋田さんとは何も…」
「…すみません。余計なことを言いました。忘れてください」
そう言いながら、西野さんがふぃっと向こうを向く。なんだろう。西野さんがこんな態度取るなんて…
…というか、ちょっと待って。あたし、橋田さんに誘われたことに浮かれて今日はよく笑っていると思われていたんだろうか? だとしたら、それは大きな誤解だ。
「ち、違いますから…! は、橋田さんのせいで浮かれている訳じゃ…!」
思わずそう声を上げていた。だって、西野さんに勘違いされるのは困る。あたしが今惹かれているのは、西野さんなのだから。
「た、たくさん笑っていたのだとしたら…、それは西野さんといたからで…!」
「え…?」
驚いた表情で西野さんがこちらを向く。そして目が合った瞬間、我に返った。急に何を言っているの、あたしってば…!
「ま、間違えました…! 今のは、その…っ、あ、あの、深い意味は…なくてですね…」
我ながら苦しい言い訳。ついさっき、余計なことを口走らないようにと思ったばかりだったのに、早速墓穴を掘っているなんて間抜けすぎる。どうしよう。これ以上、なんて言えば…
「…橋田さんと話していた時」
「え…?」
「栗原さんに、こういう時間を…、僕以外の誰かと過ごして欲しくないと、思いました…」
西野さんがそう呟く。驚いた表情だった瞳は、ゆっくり真面目なものへと変わって、そのままあたしを真っ直ぐ捉えた。
「今日、栗原さんがたくさん笑っていたのは、僕といて、嬉しいと思ってくれていたからなんですか…?」
「─…っ!」
西野さんの問い掛けに、カァっと頬が熱くなる。先ほど口を滑らせてしまったように、それはその通りなのだけど、素直に「はい」と言う訳にもいかず、金魚みたいにただ口をパクパクする。そんなあたしを見て、西野さんがふわっと笑った。
「…僕は、栗原さんが、好きです」
「え…?」
「貴女を支えるのは、僕でありたい」
そう言った西野さんの瞳は、真っ直ぐ、だけど優しく、あたしを見つめていた。
「すみません。本当に、気にしないで下さい」
そう言った西野さんは、動揺した素振りであたしから視線を逸らす。橋田さん─…思い浮かぶのは、もちろん今日の昼間に食事に誘われたことだ。
橋田さんとのやり取りは、デスクが近い西野さんにも筒抜けだったと思う。でもあの時、西野さんはいつも通り淡々と仕事をしていた。だから、西野さんの口から橋田さんの名前が出てくるとは思わなかった。
「あの…、あたし、橋田さんとは何も…」
「…すみません。余計なことを言いました。忘れてください」
そう言いながら、西野さんがふぃっと向こうを向く。なんだろう。西野さんがこんな態度取るなんて…
…というか、ちょっと待って。あたし、橋田さんに誘われたことに浮かれて今日はよく笑っていると思われていたんだろうか? だとしたら、それは大きな誤解だ。
「ち、違いますから…! は、橋田さんのせいで浮かれている訳じゃ…!」
思わずそう声を上げていた。だって、西野さんに勘違いされるのは困る。あたしが今惹かれているのは、西野さんなのだから。
「た、たくさん笑っていたのだとしたら…、それは西野さんといたからで…!」
「え…?」
驚いた表情で西野さんがこちらを向く。そして目が合った瞬間、我に返った。急に何を言っているの、あたしってば…!
「ま、間違えました…! 今のは、その…っ、あ、あの、深い意味は…なくてですね…」
我ながら苦しい言い訳。ついさっき、余計なことを口走らないようにと思ったばかりだったのに、早速墓穴を掘っているなんて間抜けすぎる。どうしよう。これ以上、なんて言えば…
「…橋田さんと話していた時」
「え…?」
「栗原さんに、こういう時間を…、僕以外の誰かと過ごして欲しくないと、思いました…」
西野さんがそう呟く。驚いた表情だった瞳は、ゆっくり真面目なものへと変わって、そのままあたしを真っ直ぐ捉えた。
「今日、栗原さんがたくさん笑っていたのは、僕といて、嬉しいと思ってくれていたからなんですか…?」
「─…っ!」
西野さんの問い掛けに、カァっと頬が熱くなる。先ほど口を滑らせてしまったように、それはその通りなのだけど、素直に「はい」と言う訳にもいかず、金魚みたいにただ口をパクパクする。そんなあたしを見て、西野さんがふわっと笑った。
「…僕は、栗原さんが、好きです」
「え…?」
「貴女を支えるのは、僕でありたい」
そう言った西野さんの瞳は、真っ直ぐ、だけど優しく、あたしを見つめていた。
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