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それから①
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マンションへと帰るタクシーの中。泣き疲れてボーっとした頭に軽い痛みを感じながら、鼻をすする。
「……」
西野さんの骨張った左手が、あたしの右手を包むように繋いでいる。手なんて、いつから繋いでいたんだっけ…?
というか、病院でも西野さんの腕の中で思いっきり泣いてしまったような。涙が引いて落ち着いてきたら、なんだか色々と恥ずかしくなってきた。
横目で西野さんを盗み見る。何でもない顔をして、西野さんは窓の外を見ている。
繋がれた手に、他意がないのはわかっている。西野さんの温かい体温に安心したから、あたしは気の済むまで泣けた。またこの人に、甘えてしまった。
「あの…、もう、大丈夫…です」
気恥ずかしく思いながらそう言うと、泣き止んだあたしに気づいた西野さんが繋いでいた手をスッと離して、優しく微笑んだ。
「もう着きますね」
「あ、払います…!」
怪我をした手で会計をしようとする西野さんをあたしは慌てて制止して、自分のカバンから財布を出した。
◇
「栗原さん、ちょっとここで待っていて貰えますか?」
「え…?」
タクシーを降りた後、マンションのエレベータを上がると、西野さんの部屋の前でそう声を掛けられた。
「栗原さんは今夜は僕の部屋で寝てください。軽く片付けてきます」
その提案を聞いて驚く。
「な…っ、大丈夫です、あたし、自分の部屋で…!」
「ガラス割れてますし、あれでは防犯上、心配です」
「い、いや、でも…!」
確かにガラスは割れているけれど、1階ではないし、そこまで危なくはない気がする。というか、そこまで西野さんに迷惑は掛けられない。
「平気です…! ホントに…!」
「…そうか。あんなことがあった後じゃ、僕の部屋も嫌ですよね。駅前のビジネスホテルでも取りましょうか」
そう言って、ポケットからスマホを取り出す西野さんに慌てる。
「ひ、必要ないです…! むしろ自分の部屋で、何の問題もないですから…!」
「駄目です。万が一、彼が戻って来るようなことがあったら、どうするんですか」
「─…っ!」
西野さんのその言葉に、身体が強張る。悠真が戻ってくるかもしれないということは頭になかった。
「怖がらせて、すみません」
「い、いえ…」
「僕の部屋でも大丈夫なら、今夜は僕の部屋にいてください。その方が僕も安心なので」
「う…、でも…」
そこまで甘えてしまうのは、申し訳なさすぎる。
「あ、あたしが泊まったら、西野さん、困るじゃないですか…」
「いえ、栗原さんが嫌でなければ、自分は栗原さんの部屋をお借りできればと、思っているので」
「へ…?」
思わず変な声が出てしまう。
「あたし、てっきり、西野さんは西野さんの部屋で寝るのかと…」
「栗原さんを泊めるのに、ですか?」
「え…、はい…」
「…駄目ですね、それは絶対」
そう言った西野さんは、複雑そうな顔で眉間にシワを寄せている。それは駄目なのか。
「で、でも、あたしの部屋…、ガラス割れてますけど…、あと、血まみれですし…」
「…両方とも、自分のせいですけどね」
そう答えながら、西野さんがバツか悪そうに髪を掻く。そうじゃない。問題はそこじゃない。
「あ、あたしも、部屋を片付けます…!」
そう言って、あたしは慌てて自分の部屋を片付けた。
「……」
西野さんの骨張った左手が、あたしの右手を包むように繋いでいる。手なんて、いつから繋いでいたんだっけ…?
というか、病院でも西野さんの腕の中で思いっきり泣いてしまったような。涙が引いて落ち着いてきたら、なんだか色々と恥ずかしくなってきた。
横目で西野さんを盗み見る。何でもない顔をして、西野さんは窓の外を見ている。
繋がれた手に、他意がないのはわかっている。西野さんの温かい体温に安心したから、あたしは気の済むまで泣けた。またこの人に、甘えてしまった。
「あの…、もう、大丈夫…です」
気恥ずかしく思いながらそう言うと、泣き止んだあたしに気づいた西野さんが繋いでいた手をスッと離して、優しく微笑んだ。
「もう着きますね」
「あ、払います…!」
怪我をした手で会計をしようとする西野さんをあたしは慌てて制止して、自分のカバンから財布を出した。
◇
「栗原さん、ちょっとここで待っていて貰えますか?」
「え…?」
タクシーを降りた後、マンションのエレベータを上がると、西野さんの部屋の前でそう声を掛けられた。
「栗原さんは今夜は僕の部屋で寝てください。軽く片付けてきます」
その提案を聞いて驚く。
「な…っ、大丈夫です、あたし、自分の部屋で…!」
「ガラス割れてますし、あれでは防犯上、心配です」
「い、いや、でも…!」
確かにガラスは割れているけれど、1階ではないし、そこまで危なくはない気がする。というか、そこまで西野さんに迷惑は掛けられない。
「平気です…! ホントに…!」
「…そうか。あんなことがあった後じゃ、僕の部屋も嫌ですよね。駅前のビジネスホテルでも取りましょうか」
そう言って、ポケットからスマホを取り出す西野さんに慌てる。
「ひ、必要ないです…! むしろ自分の部屋で、何の問題もないですから…!」
「駄目です。万が一、彼が戻って来るようなことがあったら、どうするんですか」
「─…っ!」
西野さんのその言葉に、身体が強張る。悠真が戻ってくるかもしれないということは頭になかった。
「怖がらせて、すみません」
「い、いえ…」
「僕の部屋でも大丈夫なら、今夜は僕の部屋にいてください。その方が僕も安心なので」
「う…、でも…」
そこまで甘えてしまうのは、申し訳なさすぎる。
「あ、あたしが泊まったら、西野さん、困るじゃないですか…」
「いえ、栗原さんが嫌でなければ、自分は栗原さんの部屋をお借りできればと、思っているので」
「へ…?」
思わず変な声が出てしまう。
「あたし、てっきり、西野さんは西野さんの部屋で寝るのかと…」
「栗原さんを泊めるのに、ですか?」
「え…、はい…」
「…駄目ですね、それは絶対」
そう言った西野さんは、複雑そうな顔で眉間にシワを寄せている。それは駄目なのか。
「で、でも、あたしの部屋…、ガラス割れてますけど…、あと、血まみれですし…」
「…両方とも、自分のせいですけどね」
そう答えながら、西野さんがバツか悪そうに髪を掻く。そうじゃない。問題はそこじゃない。
「あ、あたしも、部屋を片付けます…!」
そう言って、あたしは慌てて自分の部屋を片付けた。
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