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禄でもない初恋を捨てて③ *
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「大丈夫ですか…っ! 栗原さん…っ!」
ドンドンッと玄関のドアを外から叩きながら、西野さんが叫ぶ。
「なん…で…」
西野さんの声に瞳が潤む。助けに来てくれたのだろうか…?
「…無駄だろ。鍵もねぇし、杏奈はいつもロックまでちゃんと掛けてるしな」
…わかってる。いつもの習慣で、今日も鍵だけでなくドアロックをちゃんと掛けている。仮に西野さんが管理人さんを呼んで鍵を開けたとしても、内側からロックを外さなければ入ってくることはできない。
そう。逃げられないのだ、この状況からは。さっき悠真に抱かれる覚悟はもう決めた。西野さんが助けようとしてくれただけで充分だ。
悠真に押さえつけられたまま、玄関のドアの外の西野さんに向かって大声を上げる。
「大丈夫です…! すみません、騒いで…! 何も問題ないので…!」
西野さんに、これ以上、迷惑を掛けたくない。悠真とのことは、自分で決着を付けないといけない。
◇
「あ…ん…っ!」
悠真の手が、あたしの肌を這う。嫌悪感に耐えながら、わざと喘ぎ声を漏らす。
静かだ。あたしの返事に納得してくれたのか、玄関の外に西野さんの気配はもうない。部屋に戻ったのだろうか。
…できれば、どこかに出掛けていてほしい。西野さんには嘘の喘ぎ声だとバレているとは言え、悠真との行為を聞かれたくない。
「や…う…っ!」
下着の中に悠真の手が入ってくる。
「ちゃんと濡らせよ。それともやっぱり朝までヤるか?」
「んん…っ!」
大事な場所に悠真の指が乱暴に触れる。中心に押し付けられる指の感触に、唇を噛んで耐える。
次の瞬間だった。
ガシャーン…!とベランダの窓から物凄い音がして、悠真の行為が止まった。
「え…?」
事態を把握する間もなく、あたしを押さえつけていた悠真の体重がふわっと軽くなって、殴られたような大きな音とともに悠真が床に勢いよく転ぶ。
ベッドの横で、あたしを庇うように立っている人物の腕から、赤い血が伝うように流れている。
後姿のシルエットから、すぐにそれが西野さんだと気づいた。
◇
「な…、なん…っ」
頬を抑えながら、床に転がった悠真が言葉にならない言葉を発する。
粉々に割れた窓ガラス。血まみれの西野さんの腕。信じられないけど、目の前の状況から、ベランダから西野さんが強行突破してきたのだと理解する。
「…あなたがまだ栗原さんと付き合っていたとしても」
「は…?」
「同意なしに行為に及ぶのは、強姦ですよ」
西野さんが落ち着いた口調で悠真にそう言う。
「お、お前こそ…っ、不法侵入だろ…!」
「…まぁ、そうですね。それで栗原さんを守れるなら、自分は罪に問われても全然構いませんけど」
「な…っ!?」
冷静な口調なのに、なぜだろう。今の西野さんは、めちゃくちゃ怒っている気がする。
「今から僕と一緒に、警察でも行きますか? あなたと僕では、どちらの方が不利でしょうね」
「─…っ!」
西野さんのその言葉に、悠真は後ずさりしながら立ち上がる。そのまま素早く荷物を手にすると、スウェットのまま、あたしの部屋から逃げるように出ていった。
「に、西野…さん…?」
「すみません、遅くなって」
振り返ってそう言った西野さんの指先から、ポタポタと落ちる血が、絨毯に赤いシミを作っていた。
ドンドンッと玄関のドアを外から叩きながら、西野さんが叫ぶ。
「なん…で…」
西野さんの声に瞳が潤む。助けに来てくれたのだろうか…?
「…無駄だろ。鍵もねぇし、杏奈はいつもロックまでちゃんと掛けてるしな」
…わかってる。いつもの習慣で、今日も鍵だけでなくドアロックをちゃんと掛けている。仮に西野さんが管理人さんを呼んで鍵を開けたとしても、内側からロックを外さなければ入ってくることはできない。
そう。逃げられないのだ、この状況からは。さっき悠真に抱かれる覚悟はもう決めた。西野さんが助けようとしてくれただけで充分だ。
悠真に押さえつけられたまま、玄関のドアの外の西野さんに向かって大声を上げる。
「大丈夫です…! すみません、騒いで…! 何も問題ないので…!」
西野さんに、これ以上、迷惑を掛けたくない。悠真とのことは、自分で決着を付けないといけない。
◇
「あ…ん…っ!」
悠真の手が、あたしの肌を這う。嫌悪感に耐えながら、わざと喘ぎ声を漏らす。
静かだ。あたしの返事に納得してくれたのか、玄関の外に西野さんの気配はもうない。部屋に戻ったのだろうか。
…できれば、どこかに出掛けていてほしい。西野さんには嘘の喘ぎ声だとバレているとは言え、悠真との行為を聞かれたくない。
「や…う…っ!」
下着の中に悠真の手が入ってくる。
「ちゃんと濡らせよ。それともやっぱり朝までヤるか?」
「んん…っ!」
大事な場所に悠真の指が乱暴に触れる。中心に押し付けられる指の感触に、唇を噛んで耐える。
次の瞬間だった。
ガシャーン…!とベランダの窓から物凄い音がして、悠真の行為が止まった。
「え…?」
事態を把握する間もなく、あたしを押さえつけていた悠真の体重がふわっと軽くなって、殴られたような大きな音とともに悠真が床に勢いよく転ぶ。
ベッドの横で、あたしを庇うように立っている人物の腕から、赤い血が伝うように流れている。
後姿のシルエットから、すぐにそれが西野さんだと気づいた。
◇
「な…、なん…っ」
頬を抑えながら、床に転がった悠真が言葉にならない言葉を発する。
粉々に割れた窓ガラス。血まみれの西野さんの腕。信じられないけど、目の前の状況から、ベランダから西野さんが強行突破してきたのだと理解する。
「…あなたがまだ栗原さんと付き合っていたとしても」
「は…?」
「同意なしに行為に及ぶのは、強姦ですよ」
西野さんが落ち着いた口調で悠真にそう言う。
「お、お前こそ…っ、不法侵入だろ…!」
「…まぁ、そうですね。それで栗原さんを守れるなら、自分は罪に問われても全然構いませんけど」
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「に、西野…さん…?」
「すみません、遅くなって」
振り返ってそう言った西野さんの指先から、ポタポタと落ちる血が、絨毯に赤いシミを作っていた。
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