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禄でもない初恋を捨てて④
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「なん…で…」
「無事ですか?」
「は、はい…」
いや、呑気に「はい」とか答えている場合じゃない。西野さんの腕からはまだ血がポタポタと垂れている。
「き、救急車、呼びます…っ」
「いや、そんな 大事では…」
「何言ってるんですか…っ! こんなに血が出てるのに…!」
焦る素振りのない西野さんに、あたしは慌ててスマホを手に取ると、119番に電話を掛けた。流血している人の対応など当然したことはなかったけど、救急車が来るまでの間、出来る限りの応急処置を施した。
◇
病院の待合室で、落ち着かない気持ちで西野さんを待つ。運ばれた先は、市内の総合病院の救急外来。西野さんが診察室に入って行ってから、そろそろ15分が経つ。
あんなにたくさん血が出て、傷口がすごく深かったりしたらどうしよう。後遺症とか傷跡が残ってしまったら、謝っても謝り切れない。
悪いことが次から次へと頭に浮かぶ中、やっと診察室の扉が開いた。
「西野さん…!」
診察室から出てきた西野さんに、慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか…?」
「はい。数針縫いましたけど、幸い、骨や神経は無事でした」
治療が済んだ右腕を軽く上げて見せながら、西野さんが苦笑いする。厳重に巻かれた白い包帯が痛々しい。
「す、すみません!本当に、あたし…」
「いや、自分が勝手にやったことなので、栗原さんは気にしなくて大丈夫ですよ」
狼狽えるあたしを、西野さんが優しく宥めるようにそう答える。気にしないなんて無理だ。だって、100%あたしのせいだ。
「なんで…、こんなこと…」
「ですね。僕も、自分がまさかあんなことをするとは、思いませんでした」
そう言って、西野さんが笑う。笑い事では全然ないのに、この人はどこまで優しいのだ。
「すみません。栗原さんの部屋のガラスを割ってしまって…」
「い、いいんです。そんなの…」
そのおかげで、あたしは助かった。ガラスなんて西野さんが怪我をしてしまったことに比べれば大したことじゃない。ベランダを越えるだなんて、一歩間違えたら、こんな怪我じゃ済まなかったかもしれない。そう思ったら、背筋がゾッとした。
「あたしのことなんか、放っておいてくれて良かったのに…」
そう呟いた瞬間、腕を強く引かれて、そのまま西野さんの腕の中に倒れ込んだ。
「─…っ!?」
「…放っておくなんて、できなかったんです」
西野さんの胸板に頬に当たって、心臓の音が聞こえる。突然のことに戸惑う。何がどうして西野さんの腕の中にいるのか。
「あ、あの…!?」
「…無事で、良かった」
安堵したように、西野さんがそう呟いて、あたしをギュウっと抱きしめる。優しい低い声と、温かい体温。西野さんに抱き締められているなんて、おかしな状況だとわかっているのに、もう大丈夫なのだと思ったら、急に安心してあたしの瞳から涙が溢れた。
「や、やだ…、あたし、今頃、涙が…」
ポロポロと頬を零れ落ちていくそれに驚く。大変なのは怪我をした西野さんで、こんな所で泣くつもりなどなかったのに、一度溢れ出した涙は止まらなかった。
「いいですよ、好きなだけ泣いて」
優しいその言葉に、堰を切ったように、あたしは西野さんの腕の中で泣きじゃくっていた。
「無事ですか?」
「は、はい…」
いや、呑気に「はい」とか答えている場合じゃない。西野さんの腕からはまだ血がポタポタと垂れている。
「き、救急車、呼びます…っ」
「いや、そんな 大事では…」
「何言ってるんですか…っ! こんなに血が出てるのに…!」
焦る素振りのない西野さんに、あたしは慌ててスマホを手に取ると、119番に電話を掛けた。流血している人の対応など当然したことはなかったけど、救急車が来るまでの間、出来る限りの応急処置を施した。
◇
病院の待合室で、落ち着かない気持ちで西野さんを待つ。運ばれた先は、市内の総合病院の救急外来。西野さんが診察室に入って行ってから、そろそろ15分が経つ。
あんなにたくさん血が出て、傷口がすごく深かったりしたらどうしよう。後遺症とか傷跡が残ってしまったら、謝っても謝り切れない。
悪いことが次から次へと頭に浮かぶ中、やっと診察室の扉が開いた。
「西野さん…!」
診察室から出てきた西野さんに、慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか…?」
「はい。数針縫いましたけど、幸い、骨や神経は無事でした」
治療が済んだ右腕を軽く上げて見せながら、西野さんが苦笑いする。厳重に巻かれた白い包帯が痛々しい。
「す、すみません!本当に、あたし…」
「いや、自分が勝手にやったことなので、栗原さんは気にしなくて大丈夫ですよ」
狼狽えるあたしを、西野さんが優しく宥めるようにそう答える。気にしないなんて無理だ。だって、100%あたしのせいだ。
「なんで…、こんなこと…」
「ですね。僕も、自分がまさかあんなことをするとは、思いませんでした」
そう言って、西野さんが笑う。笑い事では全然ないのに、この人はどこまで優しいのだ。
「すみません。栗原さんの部屋のガラスを割ってしまって…」
「い、いいんです。そんなの…」
そのおかげで、あたしは助かった。ガラスなんて西野さんが怪我をしてしまったことに比べれば大したことじゃない。ベランダを越えるだなんて、一歩間違えたら、こんな怪我じゃ済まなかったかもしれない。そう思ったら、背筋がゾッとした。
「あたしのことなんか、放っておいてくれて良かったのに…」
そう呟いた瞬間、腕を強く引かれて、そのまま西野さんの腕の中に倒れ込んだ。
「─…っ!?」
「…放っておくなんて、できなかったんです」
西野さんの胸板に頬に当たって、心臓の音が聞こえる。突然のことに戸惑う。何がどうして西野さんの腕の中にいるのか。
「あ、あの…!?」
「…無事で、良かった」
安堵したように、西野さんがそう呟いて、あたしをギュウっと抱きしめる。優しい低い声と、温かい体温。西野さんに抱き締められているなんて、おかしな状況だとわかっているのに、もう大丈夫なのだと思ったら、急に安心してあたしの瞳から涙が溢れた。
「や、やだ…、あたし、今頃、涙が…」
ポロポロと頬を零れ落ちていくそれに驚く。大変なのは怪我をした西野さんで、こんな所で泣くつもりなどなかったのに、一度溢れ出した涙は止まらなかった。
「いいですよ、好きなだけ泣いて」
優しいその言葉に、堰を切ったように、あたしは西野さんの腕の中で泣きじゃくっていた。
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