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失恋の理由③

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なんて綺麗な人なんだろう。西野さんと付き合っていたぐらいだからきっと素敵な人だとは思っていたけど、想像以上だ。

そして、こうして見ると、改めて西野さんって格好いいんだなと思う。二人が並んでいる姿は自然で、あの二人が付き合っていたのだとしたら、すごくしっくり来る。会社の前まで会いに来るなんて、もしかしたら西野さんとやり直しに来たのかもしれない。

「すごい美人ですね」
「うん…」
「でも、なんか揉めてません?」
「え…?」

芽衣ちゃんにそう言われて、二人の様子を伺う。彼女の方はニコニコと微笑みながら西野さんに話しかけているけれど、西野さんはなんだか迷惑そうな表情をしている。

…なんでだろう? 彼女とヨリを戻せるのなら、すぐにでも戻したいだろうに。そう思った瞬間、自動ドアのガラス越しに西野さんと目が合ってしまった。

「─…っ!」

ただでさえ怒らせているのに、隠れて見ていたなんてどう弁解すれば…、そう思ったけれど、あたしたちに気づいた西野さんは、すぐに彼女の腕を引き、その場所からどこかへ移動してしまった。



「彼女…、いや、あの感じだと元カノ…?」

駅の近くの個室居酒屋に入ると、席に着いた途端、芽衣ちゃんがそう呟いた。鋭い読みにドキッとする。

「ま、まぁ、いいじゃない。西野さんだって、彼女ぐらいいるよ…」
「良くないですよ。杏奈先輩とくっついて欲しいんですから」
「西野さんには、さっきの綺麗な人ぐらいじゃないと釣り合わないってば…」

芽衣ちゃんだって二人が並んでいるのを見ただろうに、どうしてこの考えを改めてくれないのか…

「ほ、ほら、ビール来たよ! 飲も…!」

そう言って、強引に芽衣ちゃんと乾杯をした。



「じゃあ、本題ですけど、今朝のひどい顔は何だったんですか? また、あの彼氏ですか?」

芽衣ちゃんがお通しを箸でつつきながら、あたしを問い詰めるような瞳でジッと見る。この話は避けられないと思っていた。

「実は昨日、浮気現場を見てしまって…」
「はぁあ…!?」

あたしの言葉を聞いた瞬間、芽衣ちゃんの表情が一変する。

「あんの男…! だから言ったじゃないですか、ゲス男だって…!」
「も、もうちょっと声を抑えようか、芽衣ちゃん…!」

芽衣ちゃんのあまりの剣幕に怯む。あたしのことで、ここまで怒るとは思わなかった。

「どういうことですか?」
「昨日、悠真が他の女の子とラブホに入っていくのを見かけて…」

その言葉に芽衣ちゃんが絶句する。長い睫毛の瞳が、これ以上ないぐらいの嫌悪感を示している。

「…別れたんですよね?」
「いや…、遠くから見ただけで、本人とはまだ話せてない…」
「─…っ、もぉお! 今から一緒に殴り込みに行きましょう…!」
「だ、大丈夫だから…!」

真っ赤な顔で怒る芽衣ちゃんをなだめる。可愛い顔をしているくせに、芽衣ちゃんは意外と血の気が多いみたいだ。

「ちゃんと話をして、別れようと思っているから、大丈夫」

昨夜はあんなに泣いたくせに、意外にもその言葉はすんなり口から出た。

一晩経って少し気持ちも落ち着いた。いつまでも芽衣ちゃんや西野さんに心配を掛けている訳にはいかない。ちゃんとしよう、今度こそ。
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