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距離①

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長い一日が終わって家に帰ると、重たい身体でベッドに倒れこむ。無理に出社したものの、西野さんにも芽衣ちゃんにも心配されて、結局、周りに迷惑を掛けてしまっただけだったと自己嫌悪する。

「栗原さんは、あの人にちゃんと大切にされていますか?」

西野さんのその言葉が耳に残っている。悠真としか付き合ったことがないあたしは、「大切にされる」ということが具体的にはどういうことなのか、よくわかっていないのかもしれない。

悠真に「好きだ」と言ってもらえて、嬉しかった。その気持ちに応えたくて、悠真がしたいことは何でも受け入れた。付き合っているのだから、それが普通だと思っていた。

だけど、少し疲れてしまった。これからもあんなふうに抱かれ続けたら、いつか心が壊れてしまいそうだ。

悠真と、話をしよう。ちゃんと…



「は…? 距離を置きたい?」

数日後、悠真から連絡が来て、仕事帰りに夕食を一緒に取る。そのままラブホに行こうとする悠真を引き止めて、話を切り出した。

「意味わかんないんだけど」

不機嫌な顔で悠真があたしを睨む。

「別れるってこと?」
「そ、そこまでは、まだ…」

悠真の口から「別れる」という言葉が出た瞬間、思ったよりも心が動揺した。初めて付き合った人。2年も一緒にいた。ぼんやりだけど、結婚だって考えていた。

この関係が終わったら、あたしはもう一生、独りかもしれない。そう思ったら、もしこのまま悠真と別れることになっても、あたしは後悔しないだろうか?という不安が霞めた。

「それって、あの男が関係してる?」
「え…?」
「この前、俺を睨んだアイツ」

悠真が言っているのは西野さんのことだ。あたしは慌ててそれを否定した。

「関係ない! 本当にただ部屋が隣なだけで、そういうことは何もない…!」
「…まぁ、この前あれだけ聞かせたんだから、向こうにそういう気持ちがあってもさすがに萎えるか」

意地悪く笑いながらそう言った悠真の言葉に、あの夜を思い出して、心がギュウっと軋んだ。

「ちなみに、距離を置くって、いつまで?」

そう聞かれて初めて、期限も何も考えていなかったことに気づく。とりあえず一ヶ月ぐらいだろうか…?

「い、一ヶ月…ぐらい…」
「…わかった」
「え…?」

それは拍子抜けするほどに、あっさりしていた。もっと理由を問い詰められたり抵抗されるかと思っていたけど、悠真は繋いでいたあたしの手を離すと、別れの言葉も言わずにその場を去っていった。

それから一ヶ月、悠真からは一度も連絡は来なかった。
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