【完結】ろくでもない初恋を捨てて ※番外編更新中

緑野 蜜柑

文字の大きさ
上 下
23 / 62

番外編 -西野Side-

しおりを挟む
自販機で缶コーヒーを買い、エレベータに乗ると最上階のボタンを押す。静かに動き出したエレベータの中で壁に寄り掛かると、乱暴に髪を掻いた。

「…栗原さんは、あの人にちゃんと大切にされていますか?」

先ほど思わず聞いてしまったそれは、完全に余計な質問だった。自分にそんなことを聞く資格はないし、彼女が困った顔をするのも当然だ。

屋上に出て、風に当たって頭を冷やす。彼女が心配だったのは事実だが、さすがに踏み込み過ぎだ。先ほどの会話も、昨夜も。



一年前、今の営業部に異動が決まったのは急だった。それまでは内勤がメインの開発部署にいたのだが、営業部での新しい役割は、"技術営業" という客先にも出向く立ち位置で、少し気が重かった。

「初めまして、栗原です。わからないことがあったら遠慮せず聞いてくださいね」

元々他人にはあまり興味がないのだが、初日に柔らかい笑顔でそう声を掛けてくれた栗原さんのことは印象に残っている。

ただし、それは好意的な感情ではなく、妬みだったと思う。当時、美月みつきとの関係がうまく行かなくなっていて、いつ見ても悩みなんてなさそうに楽しそうに笑っている栗原さんの笑顔は、自分にとっては恨めしかった。

それが見当違いだったと気づいたのは、美月みつきとの関係が終わり、今のマンションに引っ越してからだ。隣の部屋に彼女が住んでいたのは予期せぬ偶然だった。

「ふ…」

思い出すと笑みが漏れる。引っ越した最初の夜、隣の部屋から聞こえた演技めいたあの喘ぎ声は、今思い出してもひどかったなと。

彼女が付き合っている相手は、あまり誠実な男ではないように思えた。いつも柔らかい笑顔で笑う彼女が、彼のことで泣いたり傷ついたりしている姿を何度か目にするうちに、少しずつ心配になった。

美月みつきとの別れを引きずっていた自分にとって、それはどういう感情だったのかわからない。だけど、なんとなく彼女のことを放っておけなかった。

悩みながらも、彼女が彼を一生懸命好きなのは明らかだった。どんな男であってもそれは彼女の選択であるし、部外者の自分が口を出すべきではない。

頭ではそうわかっていたのだが、昨夜、マンションの前で彼に会った時、つい彼を睨んでしまった。そして、自分のその軽率な行動が、結果的に彼女の負担になってしまったことを後悔している。



君は、あの男のどこが好きなのだろう。

一人で泣いたりしないで欲しい。陽だまりのようなあの笑顔は、強がりではなく、心からの笑顔であってほしい。

気付けばそんなことを考えている自分に驚いた。そんなのは勝手な願いだ。部外者の自分が彼女のためにできることなど、きっと何ひとつ、ないのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...