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最悪のデート③
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「じゃあな、杏奈。また連絡するな!」
「うん、今日はありがとう…」
マンションの前で、車を降りる。帰り道もずっと機嫌の良かった悠真に笑い掛けて、車のドアを閉めると、手を振って見送った。
エレベーターに乗り、自分の階のボタンを押す。身体がダルくて重たい。疲れてもう何も考えたくない。早く部屋に帰って寝たい。
エレベーターが止まり、扉が開いた瞬間、そこに西野さんがいた。
「あ…」
「すごい、偶然ですね。朝も会ったのに。おかえりなさい」
「こ、こんばんは…」
嫌だな。今は誰にも会いたくなかったのに。どうしていつも、西野さんはタイミング悪くいるんだろう。今はもう、色々と無理だ。さっさと話を切り上げて部屋に入らないと。
「デート、楽しかったですか?」
「え…、あ…、はい…」
「あれ、どうしたんですか、その手の傷」
西野さんのその言葉にドキッとする。手のひらに残った擦り傷を慌てて隠す。あのとき手を付いた岩場で、身体を支えるうちに擦れてしまったものだ。
「あ…、ちょっと、はしゃぎ過ぎてしまって…」
「…そう言うわりには、暗い顔してますけど」
「え…?」
「なにか、あったんですか?」
心配そうに西野さんがあたしを見る。言葉を発したら声が震えてしまいそうで、唇を噛んで首を左右に振った。だけど、瞳が熱を持つのを止められなくて、涙がポロッと溢れてしまった。
何があったかなんて、西野さんに言えるわけない。だけど、泣いてしまった理由をなんて説明すればいいのかわからない。
どうして悠真はあんなことをするの。もう心がぐちゃぐちゃだ。
「栗原さん…?」
「ご、ごめんなさ…、あたし…」
「ちゃんと消毒しましたか、それ」
「え…?」
「その傷のことです」
「あ…、いえ…、水で、洗っただけで…」
「ちょっと待っててください。この前一緒に買った応急処置セット、持ってきます」
そう言うと西野さんが一旦家の中に入る。30秒程して戻って来た彼の手にはホームセンターで買った新品の消毒液が握られていた。
「ちょっと滲みると思いますけど」
「はい…、大丈夫です、我慢できます…」
そう答えたあたしの手の平を開いて、西野さんが優しく消毒液を掛けていく。擦り剥けた傷口がピリッと痛んで、目を瞑って耐えた。
何も聞かないでいてくれる。優しい人だ。
「すみません、僕、なんかいつもタイミング悪くて…」
「い、いえ…」
「でも、今は会えて良かった」
「え…?」
「だって、僕に会わなかったら、怪我の手当てもせずに一人で部屋で泣いてただろうなって思うので」
消毒を終えたそこに絆創膏を貼りながら、西野さんが優しくそう言う。
「彼氏さんと喧嘩でもしたんですか?」
喧嘩ではない。あんなことされてショックだったけど、悠真は帰りもずっと機嫌が良くて、あたしも何でもない振りをして悠真に会話を合わせていた。
「大丈夫ですよ、栗原さんなら」
「え…?」
「いつも一生懸命、彼氏さんのこと想ってるから。栗原さんなら絶対大丈夫ですよ」
そう微笑む西野さんに戸惑う。悠真のことを大好きだと思っていたのに、その足元が今、不安定に揺らいでいる。優しく笑う西野さんから目を逸らすと、あたしは「ありがとうございます」とだけ答えた。
「うん、今日はありがとう…」
マンションの前で、車を降りる。帰り道もずっと機嫌の良かった悠真に笑い掛けて、車のドアを閉めると、手を振って見送った。
エレベーターに乗り、自分の階のボタンを押す。身体がダルくて重たい。疲れてもう何も考えたくない。早く部屋に帰って寝たい。
エレベーターが止まり、扉が開いた瞬間、そこに西野さんがいた。
「あ…」
「すごい、偶然ですね。朝も会ったのに。おかえりなさい」
「こ、こんばんは…」
嫌だな。今は誰にも会いたくなかったのに。どうしていつも、西野さんはタイミング悪くいるんだろう。今はもう、色々と無理だ。さっさと話を切り上げて部屋に入らないと。
「デート、楽しかったですか?」
「え…、あ…、はい…」
「あれ、どうしたんですか、その手の傷」
西野さんのその言葉にドキッとする。手のひらに残った擦り傷を慌てて隠す。あのとき手を付いた岩場で、身体を支えるうちに擦れてしまったものだ。
「あ…、ちょっと、はしゃぎ過ぎてしまって…」
「…そう言うわりには、暗い顔してますけど」
「え…?」
「なにか、あったんですか?」
心配そうに西野さんがあたしを見る。言葉を発したら声が震えてしまいそうで、唇を噛んで首を左右に振った。だけど、瞳が熱を持つのを止められなくて、涙がポロッと溢れてしまった。
何があったかなんて、西野さんに言えるわけない。だけど、泣いてしまった理由をなんて説明すればいいのかわからない。
どうして悠真はあんなことをするの。もう心がぐちゃぐちゃだ。
「栗原さん…?」
「ご、ごめんなさ…、あたし…」
「ちゃんと消毒しましたか、それ」
「え…?」
「その傷のことです」
「あ…、いえ…、水で、洗っただけで…」
「ちょっと待っててください。この前一緒に買った応急処置セット、持ってきます」
そう言うと西野さんが一旦家の中に入る。30秒程して戻って来た彼の手にはホームセンターで買った新品の消毒液が握られていた。
「ちょっと滲みると思いますけど」
「はい…、大丈夫です、我慢できます…」
そう答えたあたしの手の平を開いて、西野さんが優しく消毒液を掛けていく。擦り剥けた傷口がピリッと痛んで、目を瞑って耐えた。
何も聞かないでいてくれる。優しい人だ。
「すみません、僕、なんかいつもタイミング悪くて…」
「い、いえ…」
「でも、今は会えて良かった」
「え…?」
「だって、僕に会わなかったら、怪我の手当てもせずに一人で部屋で泣いてただろうなって思うので」
消毒を終えたそこに絆創膏を貼りながら、西野さんが優しくそう言う。
「彼氏さんと喧嘩でもしたんですか?」
喧嘩ではない。あんなことされてショックだったけど、悠真は帰りもずっと機嫌が良くて、あたしも何でもない振りをして悠真に会話を合わせていた。
「大丈夫ですよ、栗原さんなら」
「え…?」
「いつも一生懸命、彼氏さんのこと想ってるから。栗原さんなら絶対大丈夫ですよ」
そう微笑む西野さんに戸惑う。悠真のことを大好きだと思っていたのに、その足元が今、不安定に揺らいでいる。優しく笑う西野さんから目を逸らすと、あたしは「ありがとうございます」とだけ答えた。
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