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第1章
2 腕輪
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ここしばらく、テセウスは自身の身体に違和感を覚えていた。特に不調という訳ではない。平時にはまったく問題なく生活できるし、特筆すべき異常はない。だが、戦闘時、止めを刺す瞬間や遺跡でのアクロバティックな移動の際などに、僅かに四肢の反応が遅れるのである。インプラントの不具合を疑ったのだが、医師はダイアゴナル・チェッカーを通しても問題は無かったと言う……。
そして気づく。その瞬間、自分のものでない怯えを感じなかったか?と。
自分以外の何者かが、躊躇いで四肢を硬直させているのでは———。少なくとも自分は、あの程度の危険で怖気づくような鍛え方はしていない。
信心深いほうではないし、ましてや方舟教会の胡散臭い教義などにはまったく興味がないが、自分の中に自分自身でない異物が混入している違和感は拭えない。証拠があるわけではないのに確信しているのは、イモータルの発言のせいでもある。
だが、オレはオレだと言い切れない不安がある。
見れば、キャリアは既にマーケットが遠く望めるところにまで来ていた。
不規則に発生したつむじ風が砂を巻き上げ、視界は安定しないが、一本道の街道を誤って外れたのでなければ、あれは自分のホームのひとつであるマーケット、ヨナス市である。もう枯れてしまった遺跡鉱山の上に建てられており、遺跡に併設したコロニーはまだ生きている。幸運なことに、施設が生きていたこともあるが、食料品プラントなど、特定部門の管理者権限の暗号鍵が入手出来たことが大きい。
アレの発見者は億万長者だろう。
そのため、安定した食糧生産が可能なので、この近辺では一番の人口を吞み込んで、いまもまだ拡張中である。
ふと気が緩んだ。無理もない。三週間余りの緊張の連続に、最後にはイモータルのオマケ付きである。テセウスがいくら熟練の採掘師であろうとも、AIを搭載した無感情の義体ではないのだ。
猥雑なマーケットの雰囲気が懐かしく思える。
石造りの街並みの端にはブリキのバラックが覗き、野放図に拡張された街区の色がここそこに滲んでいた。洗濯物の波の間を縫って浮遊アドが毒々しい広告の光を放ち、時折、シーツなどに絡んでロープごと引き摺って周囲に混乱を齎していた。
と、キャリアのインテークに、トン、と足音が鳴った。
テセウスは文字通り凍りついた。
———男の夢がまた、今日も巡る……。
「やぁ、歪な魂の君!!ごきげんよう!!でも、よりによって、気持ち悪いはないのではないかな?」
———イモータルであった。
薄っぺらに陽気な件の美声が鼓膜を震わせるが、頭に入ってこない。何度、何故と繰り返したであろうか……。それに、発言からするに、随分と前から追尾していたか、謎の身体能力でこちらの呟きを拾っていたらしい。
「夜の王におかれましては、こんなしがない採掘師ごときに、今更何の御用で?」
「なぁに、ちょっとした助言と娯楽だよ!!」
慇懃に返すテセウスに、イモータルは皮肉にも反応せずに、機嫌よく斧槍のようなものをいずこからか取り出した。そして徐にテセウスの首を刈りに来る———。
「じょ、冗談が過ぎるンじゃないですかねぇ!!アンタの力でこんな都市近くで暴れられたら、オレの平穏が終わっちまうンですが?!!」
キンッ!!ガツッ!!
辛うじて間に合った。イモータルの斧槍が描く美麗な軌道に、咄嗟に剣を励起前の状態で合わせる。
やはり少し、四肢の反応が鈍い……。
苦り切りながら束に力を込めて突き放し、大きく息を吸った。
「気にしなくていい。サービスだよ!!」
「なんの?!!」
話が通じない……。テセウスのメンタルはボロボロになりつつあった。ちょっとした長旅、収穫の空振り、いつもより多めの侵食獣の襲撃、極めつけに二回のイモータルの襲来である……。八つ当たりだが、今回の案件を持ち込んだヘルメスを恨むことにして、気持ちを切り替えた。でないと死ぬ、瞬く間に———。
「いやぁ、悪いね!!君が殺される前に間に合って良かった!!」
「ちょっと待てッ!!現在進行形で、アンタに殺されそうになってるよッ!!」
首筋を掠め、斧槍の切っ先が突き出され、そのままの勢いで周囲を刈る。
「あ……、悪かったね!!キャリアを止めたかっただけなのだよ!!ほら、こうにでもしないと、君、話も聞かないで逃げるだろう?」
———は?
生命本能を怒りが凌駕しそうになるのを必死で留め、テセウスは訊いた。
「殺される?物騒だな……。それに、アンタがオレに、わざわざ世話を焼く理由が見えない」
路肩にキャリアを移動し、荷台からコンテナが零れてないかを確認しながら、周辺の空間が歪曲してゆらゆらと陽炎のようなイモータルを睨んだ。
「いや、失敬!!四つくらい夜を数えた前に、君に腕輪を渡しただろう?アレについて注意事項を連携する前に逃げられてしまったのでね!!慌てて追ってきたのさ!!」
胸を逸らし気味に言うが、霞の中に居るように、杳として全貌は窺えない。
「……今度から、普通に声を掛けてくれ」
ひとしきりの遣り取りの後、間を見つけてテセウスは溜息を吐いた。
どうやら、ちょっかいを出すのは止めたらしい。
「君が逃げなければね!!」
「———善処する……」
テセウスはシガレットケースから一本取り出すと、指先のコンタクトインターフェイスの出力を上げて火を灯した。
「あの腕輪はね、浮動性の高い魂を定着させる効果があるのだよ!!で、これまで半分くらい魂が剥れていた君は、魂が定着することによって、ちょっとした超人になる」
と、イモータルは探るように言葉を切った。
「ン?なんだと!!誰が頼んだ、ンなモン!!」
「英雄の再来だよ?嬉しくないかな?身体能力も、思考能力もかなり向上する見込みだよ、嬉しいかい?」
「あのですね、夜の王。ご厚意には大変感謝しておりますが、こちとら平穏に生きたいだけの一般人なンですよ……。てか、一昨日来やがれ!!物騒なモン、押しつけてンじゃねぇよ!!」
イモータルの陽炎の揺らぎが止まった。全身像が露になり、テセウスは息を吞んだ。厭になるほどに美形である。中身のイカレ具合はお察しだが……。
尤も、それを口にする度胸は流石にない。
「と言うかね、放置すると君は魂が剥離して、長くはないのだよ……。珍しく私の興味の対象だからね!!是非とも君には長生きして、観察されてもらいたい!!たまには共に遊んでくれると、尚、よろしい!!」
「ハイハイ……、解りましたから、本題をお願いしたい。なんでオレが危ないって、殺されるって話になるンです?」
「ほら、方舟教会って気持ちの悪い集団が居るだろう?君にあげたのは、彼らの聖具なのだよね、実は……。先日揉めた時に拝借してきて、ちょっと私のオリジナルに調整したのだよ。彼らも盗掘してきて勝手に所有権を主張しているだけなのに、物騒だよね!!きっと君を切り刻むと思うよ!!それに、いくら彼らが正気でないとは言え、多少の技術は発掘しているので、君の体質もバレるだろう!!そうしたらもう、自分の眼で太陽は拝めなくなるだろうね!!籠の中の小鳥になる趣味はないだろう?」
何が楽しいのか、満面の笑みで親切めかしてイモータルは語る。
また、周囲に幾条ものつむじ風が発生し、ふたりの間を駆け抜けて行く。
ふと、予感がした。イモータルから視線を外すのは少しではなく怖いが、森が気になる……。穏やかに見えるが、何故?
「気づいたかい?来るよ!!腕輪をはめて、《イデアよ、我に》と唱えて!!」
「街道沿いなのに?!!昼間なのに?!!———ああ、もうッ!!仕方ない、イデアよ、我にッ!!イモータル!!死んだら恨むからなッ!!」
「イモータルと言う呼び名は好きじゃないなぁ……。前から告げているだろう?君は私を《イオ》と呼んでもいいのだよ?親しみを込めてくれ給え!!」
次の瞬間、天地が裏返った。平衡感覚を喪失し、足元がふらつく。脳裏を大量に押し流すこの記憶は誰のものだ?明らかに別世界の光景が濁流となってテセウスの自意識を弾き飛ばす。
そして……、気のせいでなく、自分の中に別の人格の片鱗が存在することを確信した。僅かな時間だったのだろう、急速に復帰した視野に、猛獣の大型侵食獣の揺らす草木のざわめきが映った。
「歪な魂の君!!剣を構え給え!!大きめの猫の群れだ!!私は別に、ここで失礼してもいいのだが、恨まれそうだから手伝おう」
涼し気な笑顔でイモータルが言う。
「そりゃ、ありがとうございます。アンタもオレのことは、そんなけったいな呼び名でなく、テセウスって呼んでくれませんかねぇ?」
と、臨戦態勢に入っていたイモータルが立ち止まり、瞠目した。そして頭を振り、両手を広く拡げた。
「何を言っているのかな?テセウス?それはペルソナの仮名だろう?だって、君の魂には《カトウ・トモユキ》って刻んである」
加藤の意識は暗転し、そしてゆっくり浮上した。
水を掻き分けるように、重苦しいテセウスの過去から逃れ、貪り現実を希求する。
今のソファーベッドで瞼を開けると、いつもよりも世界が「薄」かった。いや、薄いのは自分自身だ。そこに在って、眼で見、耳で聴き、肌で感じているというのに、現実感が希薄で、熱病に魘されているようだった。
どこを原点に、自身を観測していいのかが判らなかった。
利き手を握りしめる。と、それは加藤の利き手ではなく、テセウスの利き手であった。彼は左利きである。右手を別の作業に使うため、両利きと言ってもいいが、咄嗟に動くのは左なのだ。
感覚が自身のものに戻るまでは、このままだろう。
夢の中でイモータルは言った。テセウスの魂に自分の名が刻まれていると———。
———オレは……、オレはいったい誰だ?
そして気づく。その瞬間、自分のものでない怯えを感じなかったか?と。
自分以外の何者かが、躊躇いで四肢を硬直させているのでは———。少なくとも自分は、あの程度の危険で怖気づくような鍛え方はしていない。
信心深いほうではないし、ましてや方舟教会の胡散臭い教義などにはまったく興味がないが、自分の中に自分自身でない異物が混入している違和感は拭えない。証拠があるわけではないのに確信しているのは、イモータルの発言のせいでもある。
だが、オレはオレだと言い切れない不安がある。
見れば、キャリアは既にマーケットが遠く望めるところにまで来ていた。
不規則に発生したつむじ風が砂を巻き上げ、視界は安定しないが、一本道の街道を誤って外れたのでなければ、あれは自分のホームのひとつであるマーケット、ヨナス市である。もう枯れてしまった遺跡鉱山の上に建てられており、遺跡に併設したコロニーはまだ生きている。幸運なことに、施設が生きていたこともあるが、食料品プラントなど、特定部門の管理者権限の暗号鍵が入手出来たことが大きい。
アレの発見者は億万長者だろう。
そのため、安定した食糧生産が可能なので、この近辺では一番の人口を吞み込んで、いまもまだ拡張中である。
ふと気が緩んだ。無理もない。三週間余りの緊張の連続に、最後にはイモータルのオマケ付きである。テセウスがいくら熟練の採掘師であろうとも、AIを搭載した無感情の義体ではないのだ。
猥雑なマーケットの雰囲気が懐かしく思える。
石造りの街並みの端にはブリキのバラックが覗き、野放図に拡張された街区の色がここそこに滲んでいた。洗濯物の波の間を縫って浮遊アドが毒々しい広告の光を放ち、時折、シーツなどに絡んでロープごと引き摺って周囲に混乱を齎していた。
と、キャリアのインテークに、トン、と足音が鳴った。
テセウスは文字通り凍りついた。
———男の夢がまた、今日も巡る……。
「やぁ、歪な魂の君!!ごきげんよう!!でも、よりによって、気持ち悪いはないのではないかな?」
———イモータルであった。
薄っぺらに陽気な件の美声が鼓膜を震わせるが、頭に入ってこない。何度、何故と繰り返したであろうか……。それに、発言からするに、随分と前から追尾していたか、謎の身体能力でこちらの呟きを拾っていたらしい。
「夜の王におかれましては、こんなしがない採掘師ごときに、今更何の御用で?」
「なぁに、ちょっとした助言と娯楽だよ!!」
慇懃に返すテセウスに、イモータルは皮肉にも反応せずに、機嫌よく斧槍のようなものをいずこからか取り出した。そして徐にテセウスの首を刈りに来る———。
「じょ、冗談が過ぎるンじゃないですかねぇ!!アンタの力でこんな都市近くで暴れられたら、オレの平穏が終わっちまうンですが?!!」
キンッ!!ガツッ!!
辛うじて間に合った。イモータルの斧槍が描く美麗な軌道に、咄嗟に剣を励起前の状態で合わせる。
やはり少し、四肢の反応が鈍い……。
苦り切りながら束に力を込めて突き放し、大きく息を吸った。
「気にしなくていい。サービスだよ!!」
「なんの?!!」
話が通じない……。テセウスのメンタルはボロボロになりつつあった。ちょっとした長旅、収穫の空振り、いつもより多めの侵食獣の襲撃、極めつけに二回のイモータルの襲来である……。八つ当たりだが、今回の案件を持ち込んだヘルメスを恨むことにして、気持ちを切り替えた。でないと死ぬ、瞬く間に———。
「いやぁ、悪いね!!君が殺される前に間に合って良かった!!」
「ちょっと待てッ!!現在進行形で、アンタに殺されそうになってるよッ!!」
首筋を掠め、斧槍の切っ先が突き出され、そのままの勢いで周囲を刈る。
「あ……、悪かったね!!キャリアを止めたかっただけなのだよ!!ほら、こうにでもしないと、君、話も聞かないで逃げるだろう?」
———は?
生命本能を怒りが凌駕しそうになるのを必死で留め、テセウスは訊いた。
「殺される?物騒だな……。それに、アンタがオレに、わざわざ世話を焼く理由が見えない」
路肩にキャリアを移動し、荷台からコンテナが零れてないかを確認しながら、周辺の空間が歪曲してゆらゆらと陽炎のようなイモータルを睨んだ。
「いや、失敬!!四つくらい夜を数えた前に、君に腕輪を渡しただろう?アレについて注意事項を連携する前に逃げられてしまったのでね!!慌てて追ってきたのさ!!」
胸を逸らし気味に言うが、霞の中に居るように、杳として全貌は窺えない。
「……今度から、普通に声を掛けてくれ」
ひとしきりの遣り取りの後、間を見つけてテセウスは溜息を吐いた。
どうやら、ちょっかいを出すのは止めたらしい。
「君が逃げなければね!!」
「———善処する……」
テセウスはシガレットケースから一本取り出すと、指先のコンタクトインターフェイスの出力を上げて火を灯した。
「あの腕輪はね、浮動性の高い魂を定着させる効果があるのだよ!!で、これまで半分くらい魂が剥れていた君は、魂が定着することによって、ちょっとした超人になる」
と、イモータルは探るように言葉を切った。
「ン?なんだと!!誰が頼んだ、ンなモン!!」
「英雄の再来だよ?嬉しくないかな?身体能力も、思考能力もかなり向上する見込みだよ、嬉しいかい?」
「あのですね、夜の王。ご厚意には大変感謝しておりますが、こちとら平穏に生きたいだけの一般人なンですよ……。てか、一昨日来やがれ!!物騒なモン、押しつけてンじゃねぇよ!!」
イモータルの陽炎の揺らぎが止まった。全身像が露になり、テセウスは息を吞んだ。厭になるほどに美形である。中身のイカレ具合はお察しだが……。
尤も、それを口にする度胸は流石にない。
「と言うかね、放置すると君は魂が剥離して、長くはないのだよ……。珍しく私の興味の対象だからね!!是非とも君には長生きして、観察されてもらいたい!!たまには共に遊んでくれると、尚、よろしい!!」
「ハイハイ……、解りましたから、本題をお願いしたい。なんでオレが危ないって、殺されるって話になるンです?」
「ほら、方舟教会って気持ちの悪い集団が居るだろう?君にあげたのは、彼らの聖具なのだよね、実は……。先日揉めた時に拝借してきて、ちょっと私のオリジナルに調整したのだよ。彼らも盗掘してきて勝手に所有権を主張しているだけなのに、物騒だよね!!きっと君を切り刻むと思うよ!!それに、いくら彼らが正気でないとは言え、多少の技術は発掘しているので、君の体質もバレるだろう!!そうしたらもう、自分の眼で太陽は拝めなくなるだろうね!!籠の中の小鳥になる趣味はないだろう?」
何が楽しいのか、満面の笑みで親切めかしてイモータルは語る。
また、周囲に幾条ものつむじ風が発生し、ふたりの間を駆け抜けて行く。
ふと、予感がした。イモータルから視線を外すのは少しではなく怖いが、森が気になる……。穏やかに見えるが、何故?
「気づいたかい?来るよ!!腕輪をはめて、《イデアよ、我に》と唱えて!!」
「街道沿いなのに?!!昼間なのに?!!———ああ、もうッ!!仕方ない、イデアよ、我にッ!!イモータル!!死んだら恨むからなッ!!」
「イモータルと言う呼び名は好きじゃないなぁ……。前から告げているだろう?君は私を《イオ》と呼んでもいいのだよ?親しみを込めてくれ給え!!」
次の瞬間、天地が裏返った。平衡感覚を喪失し、足元がふらつく。脳裏を大量に押し流すこの記憶は誰のものだ?明らかに別世界の光景が濁流となってテセウスの自意識を弾き飛ばす。
そして……、気のせいでなく、自分の中に別の人格の片鱗が存在することを確信した。僅かな時間だったのだろう、急速に復帰した視野に、猛獣の大型侵食獣の揺らす草木のざわめきが映った。
「歪な魂の君!!剣を構え給え!!大きめの猫の群れだ!!私は別に、ここで失礼してもいいのだが、恨まれそうだから手伝おう」
涼し気な笑顔でイモータルが言う。
「そりゃ、ありがとうございます。アンタもオレのことは、そんなけったいな呼び名でなく、テセウスって呼んでくれませんかねぇ?」
と、臨戦態勢に入っていたイモータルが立ち止まり、瞠目した。そして頭を振り、両手を広く拡げた。
「何を言っているのかな?テセウス?それはペルソナの仮名だろう?だって、君の魂には《カトウ・トモユキ》って刻んである」
加藤の意識は暗転し、そしてゆっくり浮上した。
水を掻き分けるように、重苦しいテセウスの過去から逃れ、貪り現実を希求する。
今のソファーベッドで瞼を開けると、いつもよりも世界が「薄」かった。いや、薄いのは自分自身だ。そこに在って、眼で見、耳で聴き、肌で感じているというのに、現実感が希薄で、熱病に魘されているようだった。
どこを原点に、自身を観測していいのかが判らなかった。
利き手を握りしめる。と、それは加藤の利き手ではなく、テセウスの利き手であった。彼は左利きである。右手を別の作業に使うため、両利きと言ってもいいが、咄嗟に動くのは左なのだ。
感覚が自身のものに戻るまでは、このままだろう。
夢の中でイモータルは言った。テセウスの魂に自分の名が刻まれていると———。
———オレは……、オレはいったい誰だ?
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