上 下
29 / 141
つくも神

楽しくて不思議な一日だった

しおりを挟む

  目の前には懐中電灯の光に照らされた四体のお地蔵さんと二体のお稲荷さんがぽわ-んと浮かび上がっているように見えた。

「わっ、こんなところにお地蔵さんって居たっけ!」

  わたしはびっくりして思わず声を上げてしまった。

  夜の高尾山は真っ暗な闇に包まれ登山客が行き交う昼間とは違う世界を見せつけてくる。これは懐中電灯がないと怖すぎる。

  そして、虫の鳴き声やガサガサと動物が動くような足音が聞こえてくる。

  その時、ブルルルー、ブルルルーと動物の鳴き声が聞こえてきた。

「あ、この鳴き声はムササビだよね?」

  わたしは、生い茂る木々や星が輝く空を眺めながら言った。でも、あの『ムササビちゃん』ではないと思う。

  その時、飛膜を広げて空を飛ぶムササビが視界に入る。きっと、あの人間の女の子の姿に化けるムササビの仲間だろう。

「うふふ、なんかカッコいいな~わたしも空を飛べたらな~」

  ムササビが木から木に飛び移るその姿を眺めわたしは呟いた。自然はこんなに近くにあったんだな。

  今までのわたしは目の前のものしか見ていなかったのかもしれない。それに興味もなかった。だけど、こうして澄んだ空気の山道を歩いていると神秘的な世界に出会え幸せな気持ちになれる。

  この高尾山にやって来たことはこれからの人生のプラスになるだろう。

  わたしは真っ暗な山道を足下に懐中電灯の光を照らし大きな歩幅で歩いた。

  

  わたしは川のせせらぎを聞きながら身体にマイナスイオンをたっぷり浴び癒されながら歩いた。ここまで来るともうすぐ高尾山の入り口にたどり着くだろう。

  あと少しだよ。頑張れわたしと自分を励まし大股で山道を歩く。それからしばらくすると遠くに明かりが見えてきた。

  ほっとして体の力が抜けそうだ。あと少し、頑張れ頑張れわたし。心の中で自分自身を応援し一歩一歩確実に前に進む。すると、その時、シャッターの下りたお土産街が見えてきた。

「ああ、やっとたどり着いたよ~」

  わたしは両手を上げてバンザイをした。「戻って来たよ~」

  ただ、山を下山しただけなのにこんなに嬉しいなんてなんだかおかしくなりクスッと笑ってしまう。

  でも、嬉しいんだもん。仕方がない。

  そして、高尾山口駅の明かりが見えて来た。さあ、家に帰ろう。

「また、明日会おうね、高尾山~」

  わたしはニンマリと笑い電車に乗った。今日は不思議で楽しい一日だった。さあ、家に帰ってゆっくり休もう。

 最寄りの駅に着くとわたしは笑顔を浮かべ歩きだした。なんだか体が軽やかだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

失恋少女と狐の見廻り

紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。 人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。 一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか? 不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

御結頂戴
キャラ文芸
高校一年生のカズキは、ある日突然現れた“黒い虎のような猫”ハヤキに連れられて 長崎の佐世保にかつて存在した、駅前地下商店街を模倣した異空間 【佐世保地下異界商店街】へと迷い込んでしまった。 ――神・妖怪・人外が交流や買い物を行ない、浮世の肩身の狭さを忘れ楽しむ街。 そんな場所で、カズキは元の世界に戻るために、種族不明の店主が営むジャズ喫茶 (もちろんお客は人外のみ)でバイトをする事になり、様々な騒動に巻き込まれる事に。 かつての時代に囚われた世界で、かつて存在したもの達が生きる。そんな物語。 -------------- 主人公:和祁(カズキ)。高校一年生。なんか人外に好かれる。 相棒 :速来(ハヤキ)。長毛種で白い虎模様の黒猫。人型は浅黒い肌に金髪のイケメン。 店主 :丈牙(ジョウガ)。人外ジャズ喫茶の店主。人当たりが良いが中身は腹黒い。   ※字数少な目で、更新時は一日に数回更新の時もアリ。  1月からは更新のんびりになります。  

処理中です...