上 下
18 / 134
つくも神

この料理を食べるために

しおりを挟む
「なんだか不思議な偶然ですね。わたしも店員さんも懐かしさを感じる料理だなんて」

「はい、そうですよね。この料理を食べるためにわたし達はここにいるみたいですね」

  もしかするとわたしもお客さんもこの『ムササビカフェ食堂でごゆっくり』にこの料理を食べるために引き寄せられたのかもしれないなと思った。

「うふふ、案外そうかもですね」

  お客さんは楽しそうに笑いながら菜っ葉の煮物に箸を伸ばした。

「では、ごゆっくりどうぞ」

  わたしはにっこり笑い厨房に戻った。

「真歌さん、お客さんと話が弾んだんですか?」

  厨房に戻ったわたしに高男さんが聞いた。

「はい、お客さんと思い出の懐かしい味で盛り上がっていました」

「やっぱりお客さんも真歌さんもこの料理が懐かしいんですね。あ、冷めないうちに早く食べてくださいよ」

「え?  やっぱりって……」

  わたしは小さな椅子に腰を下ろし首を横に傾げる。

「高男さんは人の食べたいものを感じ取る能力があるんだもんね~」

  ムササビがニヒヒと笑い高男さんとわたしの顔を交互に見る。

「まあ、そんなところかな?  あのお客さんと真歌さんは雰囲気は全然違うけど何となく食べたいものとか似たところがあるのかなと思ったんですよ」

  高男さんはふふっと笑った。

「そうなのか。だからわたしもあのお客さんもこの不思議なムササビカフェ食堂にたどり着いたのかな?」

  わたしは菜っ葉の煮物とそれからお好み焼きを頬張りそうなのかもしれないなと感じた。


  菜っ葉の煮物もお好み焼きも懐かしい味がした。クールビューティなお客さんと一緒に各々の懐かしき思い出の中へとふんわりと包まれている気がした。

  おばあちゃんの家の大きなテーブルにみんなの笑顔。夏休みも冬休みもおばあちゃんの家で過ごした。楽しい時間。

  高男さんが作ってくれた料理を食べながらそんな懐かしい思い出の中に浸っていると、ミケが、

「わたしは初めて食べる料理が菜っ葉の煮物とお好み焼きだけどにゃんだか懐かしいにゃ~て感じるな」と言った。

  ミケの顔に視線を向けるとにゃぱーと笑い大きな口を開けお好み焼きを頬張っていた。その口の周りはソースや青のりにマヨネーズなどがべったりくっついていた。

「ミケちゃん、お口の周りを拭いたら」

  わたしは近くに置いてあったおしぼりをミケに渡した。

「え?」
  わたしからおしぼりを受け取りきょとんとした顔のミケにみんなの視線が集まる。

「ミケちゃんってばソースやマヨネーズで口の周りが汚れているよ~」

  ムササビがそう言うとようやく気がついたミケは「にゃんとまあ」と言って慌てておしぼりで口の周りを拭いた。

  ソースやマヨネーズに青のりなどで汚れたおしぼりに視線を落としにゃははと照れたように笑う人間の姿に化けたつくも神のミケは可愛らしかった。

「あはは、ミケの奴」

  高男さんもおかしそうに笑った。

「ミケちゃんってば」とわたしとムササビも声を揃えて言った。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...