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つくも神

雇用契約書

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受け取った雇用契約書には、


『雇用契約書

  勤務場所  高尾山にあるカフェ食堂

  業務内容   ムササビカフェ食堂の洗い物や接客(不思議なお客様の対応も含む)調理補助など。

  勤務時間  シフトによる

  休日も上記と同じく

  基本賃金 時給1200円  

  昇給  あるかも?』と書かれていた。

  わたしはこの雇用契約書をじっと眺めある部分に引っかかりを覚える。

「あの高男さん、この不思議なお客様の対応も含むとは何ですか?」

  わたしは雇用契約書の接客(不思議なお客様の対応も含む)の箇所を指差し尋ねる。

「あ、それはいろんなタイプのお客様が来店されるので……あはは」

  高男さんはちょっと早口になり誤魔化すような笑顔を浮かべた。なんだかめちゃくちゃ怪しいぞ。

「いろんなタイプのお客様ですね……まあ、いっか」

  わたしはちょっと不安を感じつつも雇用契約書にサインをした。そして、高男さんに渡す。

「これで本採用です。よろしく」と高男さんは雇用契約書を受け取りにこやかに笑った。

「よろしくお願いします」

  わたしも微笑みを浮かべ挨拶をした。



  それからわたし達四人は「暇だね」と言い合いカウンターに並んで肘を付きぼんやりとした。

「お客さんが来たらわたしも手伝うにゃんね」

  ミケもエプロンをつけ張りきっていたけれど今はぼんやりとしてコクリコクリと船を漕ぐ。

「いつもこんな感じ何ですか?」

  わたしが尋ねると、「うん、そうだよ」とムササビと高男さんの声が揃う。

「昨日までは高男さんと二人で暇だねって言ってたんだよ」

「ああ、そうだね」

「それでたまに忙しい時があるんだけどその時だけ高尾の森の仲間が手伝ってくれることもあるだよ~」

  ふふんと笑うムササビの顔を見てわたしは、「高尾の森の仲間って何かな?」と聞いた。

  すると、「それはあやかし仲間だよ~」とあっさり答えた。

「あ、あやかし仲間!?」
「うん、この高尾山でずっと暮らしているあやかし仲間がいるんだよね」

「ふ~ん、あやかし仲間がいるんだね」

  わたしは内心ドキドキしながらももう何を聞いても驚かないぞと拳を強く握った。

「わたしもそのあやかし仲間に会いたいにゃん」

  それまでウトウトしていたミケが口を開いた。

「そのうち会えるはずだよ。それにもしかしたら来店するかもしれないしね」

「わぁ、それは楽しみだにゃん」

  ミケは目をキラキラと輝かせている。一方ムササビは得意げに胸を張る。

  そんな二人の姿を見ているととんでもないところに来てしまったなと思う。だけど、滅多にないこの状態を楽しんでやろうじゃないのとわたしは前向きに考えることにした。

  あやかしやつくも神なんてどんと来いだ。

  その時、引き戸がガラガラと開いた。
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